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かつて悪(役)だった令息との結婚
160. 結婚前のちょっとした気がかり -sideリシェル
しおりを挟む婚姻の日の衣装が出来上がり、今日は試着のためランハートとは別行動だ。
わたしも自分の衣装は当日まで内緒にする。試着のことを話したら、ランハートがどことなくそわそわしていたのが可笑しかった。
お義姉様もこんな気分だったのかな?
「はぁ……リシェル様、本当にお似合いです」
「溜め息が止まりませんわ……」
従僕のノアも、てきぱきと着せ付けてくれたメイド達も、皆うっとりとした顔で言ってくれた。
衣装は上下ともに純白でまとめている。これもお義姉様の花嫁衣装と同じではあるけれど、わたしは別のパーティの時に、白一色というのは既に何度か着たことがあった。
正直なところ、わたしの好みの色は深緑だ。ランハートの瞳や髪のような、深い森の奥の色。
けれど自分の容姿に一番似合うのはこの色のようで、使用人達はもちろん、ランハートの反応が明らかに違う。
わたしはその日誰よりも、彼にうっとりしてもらって、彼の視線を釘付けにしたい。彼に喜んでもらいたい。
だから迷わず、婚姻の日の衣装は白にした。
動いても引きつれるところはなく、鏡の中の姿にも満足し、衣装はそれで完成となった。
ほかにも今後必要になるからと、続けて新たな服を仕立てることになり、やっと終わった頃にはもう夜だ。
食堂に向かうと、夕食のテーブルにはランハートとお義母様、お義父様がいた。
お義姉様の姿がここにないことを、最初の一ヶ月ぐらいは寂しく感じていたけれど、ランハートと一緒に会いに行ってからそんなもの吹き飛んだよ。だってエアハルト兄様のあの溺愛っぷりを見ると、寂しがるのがバカらしくなる。
それにしても、今夜の夕食ではお義父様の様子がちょっと変だった。
不審に思われたお義母様が問い詰めようとすると、ものすごく珍しいことにランハートが庇っていた。
だからお義母様も軽くびっくりしつつ、それ以上追及するのはやめてらしたんだけど。
食事を終えて、一緒にわたしの部屋に戻ったランハートにダメもとで尋ねてみた。
「今日何かあったの? わたしが知ってはいけないことなら、無理には訊かないけれど」
「ん? リシェルは大丈夫だよ。実はね」
そして彼の口からは、するするとお義父様の秘密が語られた。
えええ! そんなことがあったんだ?
でもね――
「ランハート。お義父様から内緒にしてほしいってお願いされたんじゃなかったの?」
「お母様に『は』言わないよ?」
ランハートってば……。お義父様、これを知ったら泣いちゃうんじゃないかな?
人を食ったような答えに呆れつつ、彼の髪に口づけを落とした。
信頼しきった表情でわたしの肩に頭を預けてくれる、それをどんなに嬉しく感じているのか、彼はわかっているのだろうか。
吐息とぬくもりを近くで感じて、わたしの胸はこんなにも速く鳴っている。
きっと彼には、わたしを翻弄している自覚なんてない。
昔、するする伸びる自分の身長に恐怖し、ランハートやお義母様、お義姉様のおかげで「気にしなくていいんだ」と思えるようになった。
そしてその後もわたしの背は伸び続けた。もし彼があの時「僕より背が高くなったとしても一向に構わないよ」とはっきり言ってくれていなければ、今頃かなり精神的に追い詰められていたのではないだろうか。
そんなランハートは、わたし以上に伸びた。
幼い頃の毒の影響で伸びないかもしれない、そう言いつつも、今やお義父様と変わらないぐらいになっている。
それに身体も適度に鍛えているから、服の上からだとすんなりして見えるけれど、実際にはとてもがっしりとしているのだ。
お義母様にそっくりな顔立ちもすっかり幼さが消えて、怜悧な瞳は昔よりも凄味を増している。
ただそこに立っているだけで、相手を従わせてしまうような……逆らう者に膝を突かせてしまうような、恐ろしくも魅力的な雰囲気を放つ青年がそこにいた。
こんな風に気軽に触れてこられて、こちらがどれほどドキドキさせられているのかなんて、きっと彼はわかっていない。
熱を逃がすようにこっそりと息を吐きながら、膝に乗せたミッテちゃんを手の平に包み込んで撫でると、ほんの少し気持ちが落ち着いた。
ランハートとおやすみなさいの挨拶を交わし、彼をドアから見送ったあとも、胸の中に灯った熱がなかなか冷めなかった。
結婚をするということは、つまり――もうすぐ身も心もすべて、彼に捧げるということ。
自分がその時にどんなことをされるのか、想像しかけてはいつも頭がまるごと沸騰しそうになる。
だけど、気がかりがひとつあった。
わたしの身体、気に入ってもらえるんだろうか?
いざ彼の前にすべてを晒してみて、思ったよりそんなでもなかった……なんてことにはならないだろうか。
そんな思いを、ノアに相談してみた。
こんなことを訊いて申し訳ないけれど、ほかに訊ける人がいないんだ。
「男性から見て魅力的かどうか、ですか?」
「うん。わたしの身体は、その……男だし。これまでのランハートの様子だと、別に男性だから好んでいるというのでもなさそうだよね?」
「それはまあ、仰る通りかと。あの御方は男の身体それ自体には、興味を持たれたことはないようです」
「だったらやっぱり、いざわたしの身体を前にした途端、冷めてしまうなんてことはあるかな?」
……こんなことを訊いてどうしようと言うんだ。ノアだって答えようがないだろうに。
言ってしまってから後悔した。慌てて取り消そうとしたら、その前にノアが真剣な表情で見据えてきた。
「リシェル様。婚姻の日が近付くにつれ、お気持ちが不安定になってしまうのは無理からぬこととお察しいたします。ですが何を置いてもまず、あなた様に必要なことはひとつだけでしょう」
必要なことはひとつだけ?
ゴクリと息を呑んだ。
「それは何?」
「体力です」
「え」
「一に体力。二に体力です。幸いにしてリシェル様は活動的なランハート様に同行されることが多く、基礎的な体力は自然に備わっておいでです。ですので、何を置いてもとにかく、当日までその体力を充実させておくことが肝要かと存じます」
「……ええ、と?」
「さらに不躾なことを申し上げますと。あの御方のことですから、あなた様のお召し物を剥ぐ想像ぐらい、とうになさっているかと思いますが」
「――――」
ランハートが、わたしの服を剥ぐ?
……頭が爆発しそうになった。
でも、そうなのか。わたしだって、ランハートの身体を想像しては胸が苦しくなっているぐらいだし。
だったら、彼もまたわたしの身体を想像して……?
――っっわあぁぁあ!?
「どうぞ」
「あ、ありがとう」
ノアがサッと果実水の入ったグラスを差し出してきた。
気が利きすぎるよ。
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