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かつて悪(役)だった令息との結婚
162. パーティー当日の朝
結婚の前祝いをしますよということは、結構前から各方面へ伝えており、招待した人々は全員出席してくれることになった。
俺の気分としては実質結婚式だが、あくまで『式ではありません』ということで、招待状も送っていない。本当に日頃から親しくしている人しか呼んでいないので、普通のお手紙で構わないのだ。
王宮から変に目をつけられたくもないし、プレゼントも大層なものは用意しなくていいとそれとなく伝えてある。
昔は四公の誰かの結婚式となると、国王夫妻のどちらかが式に参列してくれていたらしいんだけどね。
先代国王からそういうのが一切なくなったようで、お姉様とエアハルトの結婚式の時も、祝い状すらなかった。
まぁ仮に今の国王本人が参列してくれるという話になっても、あの巨体で来られたら迷惑としか言えんがな。
馬だって、オークを積んだ荷馬車なんて引っ張りたくないでしょ。背後から食われそうだし。
国王夫妻はともかく、宰相はちゃんとした人みたいで、お姉様達に祝い状を送ってくれていたそうだ。
国王を焚きつけたと思しき奴らのこともきっちり締め上げてくれたらしく、今後の状況次第では親しくしておこうかなと考えている。
だって先代の王は色欲王で、当代の王が暴食王だろう? 今の王宮ってダメ王の育成環境が整っていそうだから、結婚後の落ち着いた頃にでも鉈をちょいちょい振るおうかなと思っているんだ。
せっかくの新婚期間に、いらん騒ぎを起こされたくないし。
結婚までの短いような長いような期間、丁寧に刃を研いで手入れをしていれば気も紛れるだろう。
「比喩ですよね? 物理ではありませんよね?」
何故そんなことをおそるおそる確認するのかなミッテちゃん、当たり前じゃないか。
いっそこのタイミングで、黒幕さんとやらが仕掛けてきてくれてもいいんだけどなぁ。
四公みんながムスター家に注目している今、隙が出来ていそうな家に魔の手でも伸ばしてくれたらしめしめ……と期待して歓待の準備をしているのに、黒幕さんってばホント動かんのよ。慎重すぎるわ。
嫌ぁねえ、罠に敏感な敵さんて。
「あなた、あれだけ『邪魔する者は許さん』と殺気を振り撒いていたでしょうに」
ん? ああ誤解だよミッテちゃん、あれとこれとは別の話。
これはね、俺の我慢のために役立つ発散用のサンドバッグがどこかに落ちてないかなという話だから。
「……もう何も言いません」
ピヨ……と溜め息をつくミッテちゃんから、どうしてか哀愁が漂っていた。
十月一日。
好天に恵まれた今日、リシェルとの結婚前祝いのパーティーが行われる。
あと一ヶ月! あと一ヶ月だけの我慢だ俺……!
そんな俺の肩で、ミッテちゃんが首元にチクチクとヒヨコキックをかましてくる。
「ちょっとぐらい早めに押し倒してもいいかな、なんて早まってはいけませんよランハート。早まってもいいことなどないのですからね!」
わかっているってばミッテちゃん、それ前に俺がルチナに仕掛けたやつじゃん!
たった一日であろうと婚前にムニャムニャするのは、たとえ手ぇ出したのが俺のほうであっても、リシェルが世間から悪く言われちまうもんな。
つうわけでこれから一ヶ月、ブレーキ役よろしくお願いします。いや頼りにしていますよホントに。
使用頻度の低い我が家の大広間に、今日ばかりは気合の入った飾り付けがされて、あちこちに美しい花が活けられている。
テーブルクロスをかけた丸テーブルを適度な間隔で配置し、出席予定の人々の席にはネームプレートを置いていた。
なるべく一人でポツンと座ることがないよう、席順には気を付けている。
料理は決まったコース料理ではない。使用人が大皿料理を載せたワゴンを押して広間を回り、各席のお客さん達に「こういう料理はいかがですか?」と尋ね、食べてみたいと言われれば皿に盛りつける形にした。
招待客について、実は四公の家族全員を招いていいものかどうか少し悩んだ。
重要人物が揃い過ぎると、そこを襲撃された時の被害が大きいなと思っちゃったんだよね。
でも皆に意見を訊いてみれば、「こちらの受ける被害以上に相手の負うリスクのほうが圧倒的に高い」ということだった。
ムスターだけでなくヴェルク公騎士団、シュピラーレ公騎士団、レーツェル公騎士団までもが警備に加わっているのである。チェック体制は不審者の接近だけでなく、館を出入りする人、物、食材すべてに及んでいた。
さらに頼れるミッテちゃんのサーチにより、毒物が仕込まれればわかる。さらにさらに飾り用という名目で、小さく磨いた『天の雫』付きのリボンを、館のあちこちに結んであった。
『これだけあると、どうも疑似的な聖域になるようですね。私の感覚がいつもより冴えておりますので、館の端にあるわずかな悪意であってもすぐに察知できますよ』
とは、館のあちこちを飾り立てたリボンを目にしたミッテちゃんの感想である。
ビーズほどの小粒とはいえ、量がたくさんあるからな。
というわけで、遠慮はいらない。
ヴェルクの義父上様とルーディどっちを招待しようか、シュピラーレ夫妻とカールのどっちを呼ぶか迷っていたけれど、全員をご招待した。
お姉様の警護は特に気を付けてもらうよう騎士団には言い含めてある。お腹がだいぶ大きくなったみたいだからね。
お客様がいつでも休めるように休憩室も準備し、医師も手配してある。
――さて。
お客様方が到着する前に、俺達もさっさと準備をせねばならない。
リシェルと一緒に、玄関でお客さんをお出迎えする予定なのである。
なので、早めに起きて着替えの開始だ。
結婚の衣装となれば、前世では白が定番だったけれど……俺は、純白の衣装が似合わない。
どうにも似合わない。これっぽっちも似合わない。
悪役令嬢から脱したアデリナお姉様は、黒レースが全然似合わなくなった。それと逆、いや同じ現象が起こっていると言うべきなのか。
俺は黒レースがとてつもなく似合う男……。
自分でも引くぐらい似合うんだわ、これが。
レース部分『だけ』なら、白でもいいんだけどね。でも白より黒レースのほうが圧倒的に似合う自覚はあります。
そして本日は似合うもので固めろということで、上着から覗いて揺れるレースは黒のみでございますよ。おおう……。
丈の長い上着とベスト、足にフィットするズボンにはやや光沢があり、黒から深緑色のグラデーションになっている。
縁取りの刺繍には黒糸のみが使われ、黒い炎が湧き出ているように見えなくもないのはもしやわざとではあるまいな。
その上、シャツもブーツも黒。この中で唯一と言っていいほど不吉ではない色は、胸に飾られたブローチだ。白金の羽根飾りの中央に輝くのは、リシェルの瞳色の石。
普段はあまり使わない整髪料で髪の毛をほんの少しだけ整え、姿見の前に立った俺は……我ながら過去最高の魔王っぷりを更新しております。
おかしいな~。エアハルトが上から下まで黒でも全然不吉な感じにならないのに、どうして俺が黒を着るとこうなるんだろう?
って、わかりきったことだな。
母上様そっくりな俺の顔は、ますます氷の魔王みたいになっている。
「どうだ?」
「お似合いです……」
「お美しいですわ……」
「ええ、とても……」
口々に誉め言葉をかけてくれるのはいいけれど、皆の視線がさりげなくブローチに逃げている。
今日はお祝いの日だから、気付かなかったことにしてあげよう。
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