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かつて悪(役)だった令息との結婚
178. 管理者としての責任 (2) -sideミッテ
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ミッテちゃん回、少し長めなのであと数話続く予定です。
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『何者だ……?』
「私はこの世界の管理者たる『天使』です。先に言っておきますが、ルチナにもあなたにも加護は与えておりませんので、勘違いはなさらないように」
『なんだと?』
干渉した精神世界において、ティバルトからは私が光の球に見えていることでしょう。
ヒヨコのままの姿だと、間違いなくこの男は私を侮ってかかり、話になりませんからね。
私はまず、大事なことから念を押していきました。
これはランハートの話術を参考にしているのですが、肝心なことを勿体ぶって後回しにすると、結局それを口にできないまま終わってしまうことが多いそうです。
話が長くなると、相手が聞き疲れを起こして嫌になり、右から左へ流し始める。
完全に耳を塞ぐ態度を取るだけならまだしも、話の一部を切り取り、解釈をねじ曲げたりされると面倒なのだとか。
だから要点や結論、一番大事なことは真っ先に言ってしまい、可能なら最後のしめくくりでもう一度伝える。
ティバルトは短気で自分勝手な男なので、後半になるほど人の話を聞かなくなるでしょうからね。
「私はこの世界で崇められている『天使』ですが、ルチナにもあなたにも特別な恩寵など与えてはおりません。ルチナは『天の御使い』などではなく、勝手にそれを名乗っただけ。ゆえに私はあの者を、非常に不愉快に感じております」
『は? 何の話だ?』
「あなた方が何度もこの世界を破滅に追いやるため、私は幾度となく巻き戻しを行いましたが、それでもあなた方は同じ罪を繰り返す。ゆえに私はこの世界に、断罪者を招きました」
遣わす、という言い方は、あのランハートには相応しくないでしょう。
私自身が多くを学んでいる相手ですし、彼の前世ではその世界の『神』のような存在に進化したことがあるそうですから。
『何のことを言っている?』
二年前よりも荒んだ顔で、ティバルトは怪訝そうに睨み付けてきます。
これはとぼけているのではなく、本当に心当たりがないのです。なんといっても覚えていませんからね。
「見せてあげましょう。かつてのあなたの行いを」
そして私は、『夢』の形でティバルトという人物の過去を見せました。
巻き戻して無かったことにした四回分の人生、すべてをです。
精神世界ですから、時間の心配などありません。
これによって彼は、はじめに伝えた「ルチナが『天の御使い』ではない」という言葉の意味を理解しました。
華々しい物語の英雄――ティバルトは幼い頃から、自分がそうなるのだと信じて疑わなかった。
最高の家柄、優れた容姿、カリスマ性、剣術や馬術の才能。
一度見聞きしたことをよく覚え、理解も早い。彼はそんな己への称賛を、当然のものと受け止めてきた。
しかし下手に賢いせいか、座学の授業は表面をサラリと済ませ、それ以外は好きなことしかやらない息子を両親は簡単には認めなかった。
周りからちやほやされ続ける環境が、彼のそういう性格を強めた面は確かにあるでしょう。
けれどそれ以上に、ティバルトは彼自身が傲慢で自分勝手な気質だったのです。
今とはまるで異なる過去において、彼の両親がどのように亡くなったのかも見せてあげました。
父親たるシュピラーレ公をティバルトが閉じ込めさせ、彼の部下が勝手に気を回して殺害。
部下はティバルトに「自害した」と虚偽の報告をし、それを受けたティバルトは「最期まで愚かな父だった」とつまらなそうに呟いたきり、たいして気にもしませんでした。
さらに遠方の別邸にいたシュピラーレ公夫人は、おそらく戦に巻き込まれて亡くなり。
母親の生死自体を、まるで気に留めたことのない自分に、ティバルトは気付きもしなかった。
内乱によって数多の血を流させただけでは飽き足らず、それを他の国々にも拡大し――ティバルトは、悦に入っていたのです。
英雄王と呼ばれる自分に。
ルチナという『天の御使い』の騎士、あるいは伴侶と崇められる自分に。
そう、彼は楽しんでいた。ゲームのように。
破壊することを。燃やすことを。他者の人生を己の思うがままに支配することを。
繰り返した四回の生涯において、すべて。
「これが『高潔なる英雄』の行いだと、本気で思うのですか? あなたは英雄でも、天使の騎士でもない。ただの暴君。傲慢で我が儘な子供のごとき、罪人なのですよ」
『――黙れ!』
ティバルトは私を睨み付けてきました。
私の見せた『夢』が、かつて実際にあったことなのだと理解できているでしょう。
それによって記憶も蘇っています。そういう特殊な『夢』ですから。
その上で、彼の反応はこれです。
『私こそが上に立つべき者だと、認めない父上と母上が愚か者なのだ……!』
言うに事欠いてそれですか。
『罪人だと? 私がこのような場所にいるのは一時のことだけだ! 私を否定するのであれば、きさまこそ天使などではない! この怪しい奴めが!』
「おやまあ。――私が本物であることぐらい、おわかりでしょうに」
だってここは、そういう空間なのですからね。
『黙れ! しかも、巻き戻しただと!? よくも台無しにしてくれたな! 今すぐ元に戻せ、あるべき私の世界に直すのだ!』
「あなたの世界? それは、端から端まで戦火で包んだ世界のことですか? あなたの両親も幼い弟も、あなたを信じた多くの人々も、あなたによって苦しみながら死んでいった……その世界に戻せと?」
ディバルトは迷いなく叫びました。
『当たり前だ! 私は誰よりも輝く場所に立つべき者だ。その私の栄華のために消費された命など、むしろ光栄に思うべきだろうが! それに弟だと? 私から後継者の立場をかすめ取った卑劣な盗人など、目の前にいたら斬り捨ててくれる!』
本当に迷いが一切ありません。
本気の本音、全力でそれを当然だと思っております。
……ティバルトを持ち上げていた連中が、そこまでのことを果たして彼に吹き込むでしょうか?
いいえ。いくらなんでも、「あなたの成功のために私の命を消費してください」なんて臣下がゴロゴロいるわけがないでしょう。
実際にいませんでしたよ、そんなおバカさんは。
彼は幼い頃から、自分でこの結論に辿り着いていたのです。
英雄たる自分の道具になれる人間は、幸せだと。
「ですがね、ティバルト? それを周りの者にはっきり言うことなどなかったでしょう。つまり、言ったら困ったことになる……大多数の者にとって、それは受け入れ難い、あなた個人の勝手な主張に過ぎないのだと本当は理解していたはず」
『うるさい! きさまはただ私が命じた通り、世界をあるべき姿に戻せばいいだけだ……!』
「――ダメですね。あなた、救えません」
予想通りでした。
第三者の視点で己の人生を振り返らせ、本能的に本物の『天使』だと察することのできる光が目の前にあっても、変わらない。
ティバルトの中には、罪悪感の一片すらありませんでした。
「あるべき姿の世界とは、今まさにあなたが牢の中に入っている、この世界のことですよ」
『そのようなこと、私は認めんぞ!』
「あなたが認めようが認めまいが、もはや世界には欠片の影響もありません。そうそう、いいことを教えてあげましょう。私がこの世界に招いた断罪者にして盟友とは、ランハート・フォン・ムスター公爵です」
『――な、に?』
……『盟友』はちょっと言い過ぎましたかね?
もしランハートが今後、魔王としてこの世界に君臨でもしてしまったら、その味方をした私の立場が……
風評被害を受けないように、ランハートには気を付けてもらわねば。
「大事なことですので、最後にもう一度言っておきましょう。ルチナにもあなたにも、天使の加護などない。あなた方は己の欲望のためだけに、世界中の人々に大嘘をついて利用した詐欺師であり、大量殺人者でしかありません」
『だまれぇッ!!』
――『夢』はもう終わりです。
やはり、これはフロイデと同類でしたね。
もっと悪質でしょうか?
この件はランハートにも伝える予定ですから、ティバルトの閉ざされた未来は、ほんのわずかな隙間さえひらく可能性が消えました。
その肉体はもう完全に鈍り、公爵邸にいた頃のような完璧な手入れをされなくなった姿は、口だけ大きいただのみすぼらしい男でしかありません。
この先もずっと、そのままでいなさい。それがあなたの選択です。
さて、次はルチナのところに行きましょうか。
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