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堕ちた天使を狩る
200. 種明かしと心の叫び
限りなく怪しい人間ばかりとはいえ、証拠はなく罪が確定しているわけでもないのに、いくらなんでも全員を捕まえるなんて――などと、止める者はいなかった。
だって考えてもみてくれ。
リシェル以外で、ここにいるのは誰だ?
一人目、俺。
二人目、母上様。
特別参加、ミッテちゃん。
以上。
止める人間、ゼロ空間。
むしろ「いいぞもっとやれ」とばかりに、全力サポートが約束されている場ではないか。
それにこの中だと、唯一ブレーキになり得るのがリシェルだったんだよ。そのリシェルがやる気満々になっている以上、もはや俺と母上様には、わくわくしながらお手伝いするしか道がない。
そう、母上様も結構楽しそうだった。
母上様は引退後の趣味がないから、今も仕事を継続してもらっているようなものだし、提供できるお楽しみはたくさんあるに越したことはない。
それにリシェルの発言って、俺が考えて言い出しそうな内容だったのはもちろんのこと、母上様が過去実際にやったことでもあるんだよ。
母上様はその昔、カーラとその仲間達を捕えさせる時に、身内もみんなしょっぴけとお命じになった。
小さな俺はそれを見ながら、「母上様やるぅ! かっこいい!」と、内心大喜びで手を叩いていたものだ。
そんな母上様の教えを受けたリシェルが、母上様を彷彿とさせる作戦を立てている。これは母上様、教え子の立派な成長を目にして、実はちょっぴり感動しているんじゃないかな。
俺が感慨にふけっていると、ヒヨコがピチチ……と相槌を入れてきた。
「そうですね。感動のお話かどうかはともかく、私も応援いたしますよ」
ヒヨコの顔なのにどうしてか、ミッテちゃんはとても慈愛に満ちた寛容そうな表情を浮かべているように見えた。
共通の敵を前に、みんなの心がひとつになるのっていいね。
現実問題を言うと、ほぼ確定で怪しい奴らがいるのなら全部捕まえちまえというのは、長い目で見ると効果的で効率的だったりする。
ひとりひとり時間をかけて特定しながら、ちょこちょこ捕まえるようなことをしていたら、それ以外が散らばって逃げてしまうからね。そうなったらもう、どうにもならない。
リシェルの作戦をザックリと言うと、こうだ。
まず、俺はファーデンへ視察に行く。それもリシェルを置いて。
マジで!? ヤダよ!? と思っていたら、フリでいいらしい。ホッ。
母上様には部下に指示を出してもらい、その事実を広めてもらう。
俺が不在となり、リシェルがひとり寂しくお留守番中だと。
異議あり。俺はリシェルを寂しくなんざ――
いえ、作戦ですね。失礼しました。
これら一連の作業により、オークがひょいっと罠にかかる。
「待て。リシェルを餌になど許さんぞ?」
「違うよ、もう。餌はランハートだってば」
え、俺っすか?
きょとんとする俺にリシェルはくすくすと笑い、母上様の「やれやれこの子は」という視線が俺の横顔にぷすっと刺さってくる。
「ランハートがいない隙に、悪さを仕掛けようとするんじゃないかな。ほら、お義姉様達の……」
リシェルの微笑みに、ひやりと氷が混ざった。
――そうだな。
あのオーク、アデリナお姉様とエアハルトの子供に目ぇつけてそうだよな。
「これまでのことを考えると、ランハートは目立っているけれど、わたしは甘く見てもらっていると思うんだ。王様にも、侍従の中に潜んでいる『誰か』にもね。だからわたしは、ほぼ無警戒で王様の前に通されると思うよ」
……うん、そうだな。
実はリシェルは美人なだけが取り柄のホワホワ天使ちゃんじゃなく、怜悧で度胸もある大天使様なんだってことは、身内にしか広まっていない事実だ。
リシェルは母上様に向き直り、説明を続けた。
あのオークはこれまで、うちだけじゃなくシュピラーレの小父さんにも、とてつもなく嫌われる真似をしている。
それは礼を欠くどころじゃない、とにかく最低な真似だったものだから、ムスターとシュピラーレのみならず、他の二家も生半可な理由じゃ王宮の呼び出しに応じなくなっていた。
そんな状況でレーツェル公爵エアハルトを呼び付けるとなると、四公まとめての召集命令しかない。
「でもランハートは、遠くに出かけているから来る心配はない。陛下は単純にそう考え、実行に移すと思うのです」
「ふふ……その『誰か』とやらは、それを止めることなどできないでしょう。これまで目立たなかったということは、すなわち逆らったことがないということでしょうから」
「お義母様の仰る通りです。話に聞くところ、陛下はたとえ忠心からの言葉であろうと、己のやりたいことを止めようとされれば騒ぐ御方なのではないでしょうか。注目を浴びたくなければ、黙って命令を遂行するしかありません」
今までずっと従順だったのに、これに関してだけは止めるとなると、怪しまれること間違いなし。
それが室内だけに留まればいいが、廊下の外まで響くほど騒がれては、王様はともかく別の人間がおかしいと察するかもしれない。
「場所は十中八九、謁見の間になるでしょう。大勢の臣下の目の前で、己の威光を知らしめつつ四公を翻弄したい……それ以前に、陛下が座れる椅子のある場所となると、どうしても限定されるでしょうし」
ぶっ、確かに。
あの巨体を置ける特別仕様の椅子なんて、謁見の間以外で置かれている場所といったら、それこそ王様の部屋かパーティー用の大広間にしかないんじゃないの?
そこでリシェルは王様に『ある余興』を提案し、こういう時のために解除しなかった例の宣言に基いて、侍従とその親族全員を捕えよ! と命じてしまうつもりなのだそうだ。
おお~、かっこいい!
その場で観たかったわくそー!
でもさ、その『余興』って……名前を書かせて裏切者を特定する方法?
そんなやり方があったんだ? へぇ~。
俺、いつそんなのリシェルに伝授したっけ?
「ふふ、ランハートに教わったんだよ?」
「ええっ? いつ?」
リシェルはいっそう麗しく、それでいて怪しげな微笑を浮かべ――
「大概のことはハッタリでどうにかなるんだな、って」
「お、まえ。つまり」
――全部ハッタリか!!
いかにも俺から伝授されましたよ~とそれっぽい空気出しておいて、全部ハッタリ!!
うん、俺そういうのよくやるわ!!
「要するに、リシェルの演技力にかかっているということですね?」
「ええ、お義母様」
「楽しそうだこと。わたくしも観てみたかったものです」
母上様、それ、俺のセリフです……!
つまり大天使のごとく登場したリシェルが、素晴らしい説得力を醸し出しながらハッタリで相手を翻弄し追い詰めてしまうという、リシェル劇場が展開されるわけではないですか!
なんで俺はその場にいられないんだーっ!!
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