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堕ちた天使を狩る
203. 油断以上に過信も禁物だぞ?
ヴェルクの義父上様とシュピラーレの小父様も、リシェルの作戦に快諾してくれた。
リシェルが具体的にどんな口実で奴らを捕えさせようとするのかは、念には念を入れてということで秘密にさせてもらっている。
彼らが裏切る心配はない。それでも、万が一にも奴に読まれることがあったらいけないからね。
「エアハルト兄様には、四公の小父様方の動きに合わせていただくとして……」
「むかつくことがあっても暴発はしないでください、とも頼んでおくべきだな」
「そうだね。兄様、絶対に激怒するから」
それを伝えるとエアハルトは、過去の例から『むかつくこと』が何なのかピンときたらしい。その瞬間でも冷静になれるよう、事前にイメージトレーニングを重ねておいてくれるとの返事が来た。
やり取りはすべて手紙で行われ、手紙を託したのは俺の側近達だ。
我が家の事業に関する用事で、日頃から他家を行き来しているので、冬に出かけてもあまり怪しまれない。
本来であれば正式な使者を立てなければ非礼にあたるんだが、それだと注目を集めてしまうからな。
雪深い時期なのに、彼らは嫌な顔ひとつせず快諾してくれた。
「ランハート閣下はこのような時、よく我々に特別な報酬をくださりますから、まったく苦にはなりませんよ」
使用人は薄給でこき使われるのが常識という世界だから、やはりそういうのがあると仕事の意欲が違うらしい。
俺の特別ボーナスは金だけを出すんじゃなく、菓子や食材を支給することもある。これが意外と喜ばれるのだ。
特に菓子類は男女の別なく喜ばれた。『甘いものは女性の食べ物』なんて概念、この世界にはないからな。
ヴェルクの義父上様によって、ヴェルク騎士団・ムスター騎士団・シュピラーレ騎士団を何名、どの位置へどのように忍ばせておくかが決まった。この手のことであれば、本当にヴェルクの義父上様の判断は正確で速い。
そしてムスター騎士団の者に、ファーデンへ使いを送らせた。
俺はファーデンに視察に行くという名目で、リシェルを置いて出発する。
不名誉な噂だけは断固拒否したので、新妻に内緒でプレゼントをこさえに出かけたんだという噂にしてもらった。
リシェルには内緒なので、彼は自分が置いて行かれた理由がわからず、ひとり寂しくお留守番をしているという設定。
……新妻だよ。やべぇ、顔がニヤけるわ。俺がニヤけると、どこかの家が滅びそうな顔になるからやめてほしいと、いろんな人達に言われているんだけどね。
実際に何家か滅ぼす予定を立てているんだし、何か問題でもあるかな?
それはともかく、俺の行き先はファーデンではない。
途中でファーデンの騎士団養成所から送り込まれた部隊と合流し、王都へ取って返すのだ。
ミッテちゃんにも重ねて確認したところ、ファーデンの民は『天の雫』を持っていなくとも、常にそれを身に着けているのと同じぐらいの加護があるそうな。
「私が妨害をしなくとも、ファーデンの民だけはあの者に精神的な支配をされる恐れがないのですよ」
その加護はミッテちゃんが滅びない限り消えないものだそうだ。
なので今回来てもらう部隊には、ファーデン出身の騎士を優先的に選んでもらっている。
最も厄介だった寄生能力は、ミッテちゃんがもう潰した。それが封じられている今、俺達の流儀でやればいい。
相手が王の侍従で、なんか闇の組織っぽいんだが、関係ないな。
どう考えても昔ほどの勢力はなく、存在意義だってない。
少なくとも寄生天使にとっては、便利で居心地のいい『入れ物』だった。特殊な環境で特殊技能を備えた『道具』が周りにたくさんいるからこそ、奴は下手に移動しようとはせず、『しばらくはここにいよう』と判断したはずだ。
そして何より、負けを認めたくなかった。
逃亡などプライドが許せない。
高みで俺達に勝利宣言をしてやってから、晴れやかな気持ちで他国に移動したい。
奴はそんな計画を思い描いていることだろう。
こんなはずじゃなかったのに、どうしてこんなことになったんだと動揺している顔を見るのが、今から楽しみだよ。
■ ■ ■
そんな感じで、ごく平凡な『人間の犯罪者』が捕まりましたとさ。
やーいやーいやーい!
「グウッ、フウウッッ!!」
なんか叫んでいるみたいだけど、なんて言ってるのかなぁミッテちゃん?
「だいたいはランハートの想像通り、負け犬の遠吠えですよ。人間ごときがこの私をどうとかこうとか、そんな感じです」
わぁ、やっぱりそうなんだー。ミッテちゃんの微笑みもまったりとして心地よさそうだね。
「どうしてこのようなことになったのか、まだわからないようなので教えていただいてもいいですか?」
おっと、了解~。
そうだねぇ。ま、単純な話ですよ。
フロイデの同類ってやつだ。
おや、「あのクズと一緒にするな」とでも言いたそうな目だね?
でも残念ながら、同類だよ。
おまえがやったのは不法侵入の大量殺人。どんなにお綺麗な理屈を並べ立てようと、やったことはそれ。
フロイデの同類であり、ティバルトの同類だ。
自分は誰よりもご立派で輝かしい存在なんだから、大勢の人々の命を道具にしようが処分しようが、自分の勝手。自分にはその権利がある。そのように生まれついている。
おまえ達はそう信じていた。
な?
そっくりじゃないか。
そして何度も何度も、同じことを繰り返した。ミッテちゃんがこの世界を巻き戻すたびにな。
フロイデは過去の成功体験が魂に染みつき、同じ行動さえ取っていれば、これまでと同様に成功するという確信を抱いていた。
ティバルトの中にも、自分は必ず『また』頂点に立つという願望と確信があったことだろう。
これな、もうひとつの側面があるんだよ。
ほかの道を選ぶのが怖くて、抜け出せないんだ。
ここを通れば成功に到着するとわかっている道がある。少なくとも、以前はその道を通ればよかった。
だから別の道を選ぶことが怖くてできないのさ。
天候が崩れている。前方から変な音が聞こえてくる。今までと違うことがいくつもある。
――でも、今まではずっとその道を通ってきた。
成功に導かれる一本道しか知らず、ほかの道があっても選ぶ勇気が出ない。
「プライドの高い者ほど、失敗を恐れがちだ。おまえがそうやって牢の中にいるのは、おまえ自身のくだらないプライドのせいで、自滅したからだよ」
「…………!!」
なんとなくこれは肉声で言ってやりたかった。
牢の中のエンデという男は、見るからに屈辱で震えている。――実に人間くさい反応だなと思った。
今となっては実質、ただの人間の犯罪者だがな。
すると、エンデが今度はミッテちゃんを睨み付けた。
「私がどうやって自害を封じたのか、興味があるようですね。『エンデ』は仮の名、組織に属する者は隠し名を与えられているのに何故……だそうですよ」
ミッテちゃんが少し呆れながら言った。
むしろ俺としては、なんでそれがわからないのか訊きたいぐらいだわ。
リシェルなんか俺より早く思い付いていたんだぜ。
「かつての私以上に頭が固いというのもありそうですが、それ以前に、自分がこのような目に遭うはずがないと過信していたのでしょうね。そもそもこの者は、私達に知られず動くことに慣れていたのですから」
ああなるほど、それな。
こいつはこれまで長いこと、俺達にその存在を知られることがなかった。だからこそ、いくらでも大胆な行動が取れたし、やり返される心配なんてしたこともなかった。
自分を封じ込める方法についても、「そんな方法はない」で完結していたに違いない。
俺達に存在を知られているということが、いったい何をもたらすのか、そこまで深くは考えなかった。
俺達を見くびっていたからだ。
「私はそもそも、人間を拘束する手段など普段はあまり考えなかったもので……使う機会もありませんでしたし。むしろ私より、おまえのほうがそういうことは得意そうな気がするのですがね」
ミッテちゃんは嘆息し、最近上手になってきた嫌味を牢の中のそいつめがけて放り込んでやった。
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