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堕ちた天使を狩る
207. どちらにこそ権利があるか
読みに来てくださってありがとうございます!
ちょくちょくお休み挟んですみませんm(_ _)m
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俺は隅に置いてあった椅子を引き、鉄格子の前で座った。
片足を組み、両手の指を軽くからめて安定した姿勢を取る。
――ミッテちゃん。しばらくこいつの言葉、訳さなくていいよ。よっぽど気になる情報を喋り始めたならともかく、単なる負け惜しみや罵声なんかはスルーしていいからね。
あとさ。
できれば、途中で俺を止めないでくれる?
「……わかりました。では、しばらく私も静かにしておきましょう。何かあればいつでも尋ねてください」
ありがとう。
心の中で頼もしいヒヨコに感謝を伝え、そして鉄の檻の中のエンデを見つめる。
怪訝そうな顔で見返してくるのは、本来であれば借り物の『器』だ。ミッテちゃんの自称先輩格である自称天使が、他人様の魂を侵食して丸呑みにして奪い取った肉体。
つまり、盗品だ。盗品の中に泥棒が納まっている。ミッテちゃんの支配力によって一時的に中身が固定されてしまい、盗んだ入れ物から出られなくなった、お間抜けな犯罪者。
「……!!」
怒りに満ちた瞳が睨み付けてくる。
はは、怒りか。
――おまえさぁ。
この俺に対し、いっちょまえに怒る権利があると思ってんのか?
俺はそんなもの既に臨界点を突破して、そこにある山も谷も川も森もすべて吹っ飛ばして更地にしたから心が平坦になったみたいな、そんな気分だよ。
この程度でいちいち新鮮に怒れていいね?
……あんた、自分の身体が毒にやられて苦しんだ経験ってないだろ?
ミッテちゃんに聞いたぞ。触覚はあっても痛覚その他、苦痛に類する感覚は全部切り離しているみたいだってな。
だから平気で何度でも、自分の宿った肉体を殺すことができた。あんた自身は全然、何ひとつ苦しむことがなかったから。
自分がそれを本当の意味で味わう想像、してみたことがあるか?
割れそうに頭が痛み、全身の関節が痛み、あまりの苦しさに寝返りひとつまともに打てない。
それどころか身体が麻痺して動かず、助けも呼べず。周りの大人は俺に毒を盛っている奴と、俺を役立たずの期待外れでどうせ長くないくせに偉そうな鬱陶しい名ばかり令息と嘲笑する奴ばかり。
俺に与えられるはずの食い物を勝手に腹におさめ、俺が骨と皮だけのガリガリ幼児になっても気にしやしない。
寂しい。苦しい。つらい。声にならない悲鳴をあげ、泣きながら死を望む子供。
そして悪意ある奴らの思い通り、たった五歳で苦しみながら短い生涯を終えた。
――それを五回だ。
なあ、自称天使さんよ?
あんた、これの何がどういう『試練』だって?
誰に対する何のための『試練』?
どこにどんなご立派な正当性があんの?
世界のためだのなんだの、いちいち『世界のせい』になんぞすんなよ。
あんたごときいなくともな、この世界は普通に回るんだよ。
むしろあんたの存在が邪魔なんだよ。
あんたは、最初からカーラを誘導して俺に毒を仕込ませた。
記念すべき第一回目の死は、間違いなくあの毒によってもたらされた。
ミッテちゃんが失敗したせいで人類が終了し、巻き戻しを行うはめになっているのを不甲斐なく感じて……なんて理屈が合わない。
俺が消されたのは最初から、あんたの仕込みだったんだからな。
頭の悪いあんたのために、いいことを教えてやろう。
人間の罪人の中にはな、自分が気持ちよくなりたくて罪を犯す奴がたくさんいるんだ。
あんたのやってること、そいつらとおんなじだぜ?
安全な場所から睥睨して、『試練』を与えてやっているつもりになるのは気持ちよかったろう?
楽しかったろう?
「グウウ……ッ!!」
いやいや、みなまで言うな、ちゃぁんと通じてるよ。
何もかも全部図星なんだってことはね。
そんなに顔を真っ赤っ赤にして睨んでくるのは、本当のことを言い当てられて悔しくて恥ずかしいんだな?
よぉくわかってるよ、安心しなさい。
「……ッッ!!」
あんたは自分が支配者になった気分を味わいたくて、わざわざ後輩の試験会場に乗り込んできたんだ。
めちゃくちゃにかき回して、自分が最も強いと証明したかった。
コソコソ隠れながらな。
ミッテちゃんは自分以外に誰もいないと思っていたけれど、不法侵入をしたあんたは自分とミッテちゃんがいることを知っていた。当たり前だ。
あんたは常に有利だった。こっそり自分が有利になる状況で動いた卑怯者だ。ついでに言えば、何かを生み出しながら現状維持をするのと、片っ端から壊していくの、どっちが楽だと思う?
精巧なガラス細工を作り上げるのと、ガラス細工を叩きつけて割るのはどっちが楽で早いと思う?
水や土の質や天候に気を配りながら丁寧に作物を育てるのと、出来上がった作物を踏み潰すのはどっちが楽で早いと思う?
ミッテちゃんやこの世界の人々がやっているのは前者、あんたがやってきたのは後者。
あんたは常に、才能も努力も必要がない、誰にでもできる楽ちんな、かつ誰にとっても有害なことばかりやってきた。
あんたが愉しむためだけにな。
わかるか?
あんたはただの、自信過剰で自意識過剰な、口先だけの無能ってことだよ。
……あんた、実は、試験に失敗したんじゃない?
私ほどの者は合格してしかるべきだ~、そんなはずがない~、とかなんとか不満たらたらで、ミッテちゃんの邪魔をしに来たろ。
自分がダメだったのに、おまえごとき成功するわけがないってさ。
あはははは!
おまえ、こんな体たらくでさぁ。
おまえみたいな無能が、上位存在に進化?
冗談きっつ~!
ぶーくすくす!
「………………」
ぎらり、とエンデの瞳が揺れた。
血走った眼球の中央に光点が生じる。
ミッテちゃんが俺の肩のあたりで息を呑む感じがした。けれどミッテちゃんが何かを言う前に、その光点は拡大し、俺の意識に向けて何かが放たれた。
■ ■ ■
…………
……
意識がごっそりと攫われる感覚があり、どこかにドンと放り込まれた。
苦痛は何もない。ややして、俺は瞼を開けた。
途端に視界の中に広がったのは、どこか懐かしい場所。
毛足の短いカーペット。ガラスのローテーブル。
周りにクッションが置かれ、向こうの壁にあるのはテレビだ。
ガラス戸は開いており、網戸は閉じている。カーテンが自然に入る風で揺らめいていた。
カーペットの上には小さな布団が敷かれている。
布団の上には生後数ヶ月の赤ん坊が仰向けになり、近くには哺乳瓶と交換用の紙おむつを準備してあった。
俺の妹だ。父親違いの妹。
母親が早々に育児を放棄し、親父に内緒で彼氏を作って、俺に小学校を休ませて自分はデートに出かけている。
これが、俺だった。
俺の日常だった。
――あれは何もかも、現実に起きたことではなかった。
――そう、現実に起きたことではなかった。
――あれはすべて……
――疲れて、うとうとしていたから……
「……ふ」
口角がにんまりと上がった。
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