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堕ちた天使を狩る
210. もうひとつの世界の罪
『申し開きはあるか』
そいつの正面に立つ御方――おそらくは高位の『天使』が、ずしりと響く思念を発した。
ミッテちゃんの声は肉声と紛うほど鮮明に捉えられるのに、あちらの御方の声は声として捉えられない。
多分、種族うんぬんじゃなく、単純に格の違いが原因なんだろうな。
そう当たりをつけると、ミッテちゃんがピヨと頷いた。
「その通りです。常人の精神力ではあの方々と同じ空間に存在することすら本来は困難なのですが、まぁ、あなたですから」
通常料金じゃなく知り合い割引でも適用してくれてるのかな?
ともあれ、『天使』様方の尋問が目の前で始まったようだ。
俺が叱られる立場じゃないので、こういうのはわくわくする。
自分をさんざんな目に遭わせた輩は、何がなんでも自らの手で罰してやりたい! っていう人は多いみたいだが、俺は少し違う。
仕返しは必ずやる。とことんやる。
ただし、俺自身の手でそいつの心臓にナイフを突き立ててやりたい、という種類のこだわりはない。
代わりに別の人がとどめを刺してくれたって、別に構わないんだ。
――その状況に追い込めさえすればな。
俺にとっての報復とは、俺や俺の大事なものを痛めつけてくれた輩を、破滅へと導くこと。
だから今のこの状況には、大好きなアトラクション待ちをしている子供のような感情しか湧かない。
問題はその期待値をあの方々が超えてくださるかどうかだが、そこらへんはそんなに心配していなかった。
だって『天使』の罰って俺のイメージだと、ものすごぉぉ~く容赦なさそうなんだもん。
それにあの寄生天使は、同族にバレないよう慎重に動いていた。
敵が心の底から嫌がること、怖がることをするのは報復の基本だ。何故なら、それこそが相手に特大のダメージを与えるのだから。
というわけで皆様、いっちょヤっちゃってください!
『…………』
なんとなく、『天使』の皆様がこちらに意識を向けたような感じがした。
相変わらずまばゆい光を放っていて、全然その表情は見えないのに、どうしてか微妙な表情をしていらっしゃるような気がするぞ?
どうなさったんだろう。気のせいかな。
あ、ひょっとして声援に気が散りました? これは大変失礼いたしました。
おとなしくしておりますので、どうかわたくしなどお気になさらず、そいつを煮るなり焼くなり炒めるなり叩くなり蒸すなり炙るなり刻むなりおろすなり、ご随意になさってください!
「ランハート? ちょっと静かにしておきましょうね? ……申し訳ございません、皆様方。このような性格の者でございますが、わたくしが責任を持って面倒を見ますので、ご寛恕いただきたく存じます」
……なんとなく、納得してくださったっぽい。
ごめんなミッテちゃん。気分は初めての遠足ではしゃぎすぎて、担任の先生が施設の責任者に謝るのを気まずい心地で眺める小学生だ。
俺のせいで余計な一幕が挟まれたものの、尋問が再開された。
申し開きの有無を再度尋ねられ、寄生天使は答えない。答えられない空気が伝わってくる。
空気どころか、思念がはっきり伝わってきた。どうしよう、まずいことになった、何故このようなことに、この私が、あの魔王のせいで……と。
風評被害! 俺のソレはただのあだ名ですから、本気に取らないでくださいね『天使』様方!
おっと、静かにしておこうと思ったのについ反応してしまった。
この世界、黙るのが難しいわ。
『偽る』に至っては百パーセント不可能だろうな。だからあの野郎は、自分に都合のいい素敵な『申し開き』を並べ立てられないでいるのだ。
非があるのは自分だと本当はわかっている。
やっちゃいけないことと知りながら、繰り返し何度もやってきた。
どんなお綺麗な理想でお綺麗な理屈を吐こうと、禁止事項を破りまくった事実は変わらない。
法律が気に入らなければ、まず法律を変えろと要求するのが先であって、気に入らないから破ってOKという話にはならないだろ?
『説明できぬようだな。己の行いを忘れ果てたか。ならば、我らが説明してやろう』
彼らは寄生天使が以前何をやったのか、親切に説明してくれた。
言葉だけじゃなく、イメージ映像でも伝えてくれる親切設計である。
それによると――
あの寄生天使、前にミッテちゃんと同じ種類の試験を受けて、自分の管理世界を滅ぼしやがったんだと。
やっぱり? と頷いてしまったよ。
ところがよくよく聞くと、人類だけじゃなく、ほかの生物も何もかもひっくるめて、本当の意味で全滅させやがったらしい。
えぇ~……そのアホ、何やったんすか?
『洗脳したのだよ。己の世界の民すべてをな』
おっと、わたくしめの素朴な疑問にお答えいただけるとは。ありがたき幸せに存じます。
つうか……洗脳? 全員を?
『全員だ』
自分の世界をより完璧に、より理想通りに『導く』ために、全人類を洗脳して思い通りに動かしていたそうだ。
ミッテちゃんが前々から否定しているやり方であり、生き物の形をした人形である。
人類が未熟な最初のうちは問題がなかった。だが当然ながら、成長してくるとその方法では問題が多々出てくる。
何もかもを絶対者の命令通りにしか行えず、新たな挑戦も競争も何もなく、自力で発展することができないからだ。
だから寄生天使は効率を上げるため、支配世界の民に『魔法』を与えた。この時点でアホかと俺は思った。違うそうじゃない感が半端ない。
あちらの世界の文化に染まり切った前世持ちの身としては、魔法には憧れがある。でもそこでそういう発想に至るのは、問題の根本原因がわかってねぇなコイツとしか思えん。
そもそも全人類洗脳状態がよくねぇんだってことに気付け!
と言いたいが、自分が正しいと確信して間違いを認めたくない寄生天使は、問題そのものを頭ん中で都合よくすり替えたわけだ。
新たに魔法を覚えた人類は、最初のうちは順調に育った。しかし案の定、行き詰まる。
寄生天使は適度な競争、適度な争いを『指示』し、それによって硬直状態を抜け出すように促した。
絶対者からの命令で、その世界の人類は真面目に堅実に、適度に争いながら魔法を研究。
そして、ドカン。
一撃で広範囲を破壊する魔法が連鎖的に発動し、その世界は滅亡した。
どうしてそうなったか。
それは、『さすがにこれ以上はやめておこう』とブレーキをかける者が、ただの一人もいなかったからだ。
過去を反省して改める者もおらず、自浄作用がどこにもなかった。
ブレーキも自浄作用も、絶対者の『命令』に相反するケースが多く、ストッパーになる存在が本当に一人も育たなかったらしい。
寄生天使は呆然とし、こんなバカなと思いつつ、その世界を巻き戻した。ミッテちゃんがやったように。
そして、もう一度同じ方法で支配を強めた。――前回のあれはただの偶然であり、今回こそはうまくいく、と。
より強く人々を洗脳し、より自分の命令に忠実になるように変更を加えた。
より細かく指示を出し、より完璧な支配と発展を目指して。
そして、ドカン。
三回目はなかった。その頃にはもう力尽きてしまったからだ。
ミッテちゃんよりも随分と早いな。
それもそのはず、支配世界の人々にあれこれ口出しをしまくり、余計な『力』を使いまくったせいで、限界が早く訪れたのだ。
当然、不合格。
あまりに不甲斐ない試験結果に降格処分となった。
こんなはずがない。何故この私が。――呆然とするそいつの耳に、ミッテちゃんが試験に臨むらしいという情報が入ってきた。
自分でもダメだったのに、格下のあいつが合格なんてできるものか……! メラメラメラ……
と、こういうことだったそうだ。
言っていいだろうか?
こいつ、マジで無いわ。
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