どうやら悪の令息に転生したようだ

日村透

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堕ちた天使を狩る

211. 抜かりなく追い詰める先輩の皆様

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 さて、奴がミッテちゃんの世界に不法侵入して以降の行動だが。
 奴は、自分が何をすればどんなことが起こるのか、かなり正確に読むことができた。
 以前ミッテちゃんからもそんな話をちらっと聞いたけれど、予測よりも予知寄りで、ミッテちゃんの同族はだいたい皆それができるらしい。
 今の弱体化したミッテちゃんには無理という話だけれど、そうでなくともこの世界は俺というイレギュラーな『ゲームメーカー』が存在するために、使えたとしても大部分が読めなくなっているそうな。

 行動を変えただけであっさり未来が変わるので、厳密には未来予知とは違うらしい。ものすごく精度の高い予想みたいなもので、何日、何年先まで読めるかは、能力者の格によるそうだ。

『あの者が現れるまでは、数年から十数年ほど先まで読むことができたであろう。人間の行動を操るには充分な年月だな』
『っ……』

 本物天使様によるご指摘に、奴はどう言い訳しようか悩みまくっている。
 が、結局は答えられない。
 他人様の管理している世界で、その世界の人々の行動を操る行為自体が、そもそもやっちゃいけないことなのだ。
 ただし追及しているのが俺やミッテちゃんだけであれば、「直接的に精神支配をしているわけではなかろう」なんて、悪びれなく詭弁きべんを口にしてのけたろうが。

「おそらく、その腹積もりだったのでしょうね。我々相手ならばいくらでも言いようがあると、調子に乗っていたのでしょう」

 やっぱり?
 しかし考えが浅いよな。ミッテちゃんが不合格になった場合、最終的には自分のやったことが明るみに出ると思わなかったのかね?

「それでも構わなかったのではないですか? どうもあの者は、私が上位存在に進化し、自分よりも格上になることが何よりも許せなかったようです。たとえ自分の行いが罪と言われようと、『不適格者の進化を防いだ』という主張をすれば、多少は減刑してもらえると期待していたようですね」
『無理寄りの無理じゃない、その理屈? しかも相打ち上等ですらないよな。偉そうに試練だなんだ言っておいて、結局は自己保身のかたまりかよ』

 鎖でぎっちぎちに縛られている発光体から、すかさず怒りと屈辱まみれの思念が飛んでくる。
 だが俺が何かを言ってやる前に、本物天使の皆様が『たわけが』と怒声めいた怒りの念を発した。

『反論できる余地など、きさまにあると思うてか』
『あちらの言が正論であろう、この姑息なつら汚しが』

 ――おお! 皆様お素敵です!
 この方々は素直にミッテちゃんの先輩だと尊敬できるな~。この野郎と一緒にされたくねぇっていうのが伝わりまくって、めちゃくちゃ安心するわ。

 そもそも、いくら精神支配の能力を使っていなかったとしてもな?
 カーラに足のつかない毒の存在を匂わせりゃ、あいつがそれを欲しがって俺に盛ることぐらい読めただろ。
 自分がこう言えばこいつはそうすると、誰よりも正確に読めたおまえが、『ランハートの死』に関与なんてしてませんと言い張れるつもりだったわけ?
 そこにいらっしゃる先輩の皆様方を相手にさぁ。

『さよう。できるわけあがるまいな』
『それとも、もしやそのような虚言が我らに通じるとでも? 甘く見られたものよ』
『そ、そのようなことは、わたくしは……』
『黙れ』

 皆様の厳しい追及、痺れます。いや、頼りになりますほんと。
 正直、本物天使による断罪はド厳しいものになると予測しつつ、一方で同族相手だからと追及の手をゆるめたりしないかな、という懸念がなくもなかったのだ。
 そんな懸念を完全に吹っ飛ばしていただけて何よりである。

「……それはいいのですが、ランハート?」
『ん? 何かなミッテちゃん』
「頭痛がしてきたり、息切れがしてきたような感覚はありませんか?」
『いや、全然ないけど?』
「……そうですか。ちょっとお聞きしてみただけですので、お気になさらず」

 そんな言い方をされたら、余計に気になるんですが。
 しかし俺がミッテちゃんに突っ込む前に、本物天使な皆様の話が先へ進むのが聞こえた。
 それは寄生天使が、最初に誰の魂に侵入して乗っ取り、それをどんな風に繰り返していたかの説明だ。
 うお……カーラに薬を掴ませた奴だけじゃなく、そんなにも大勢を食らいやがったわけ?

 王の侍従長から始まり、薬売りに、リシェルの母親に取り入った侍女、始末した薬売りに成り代わるためだけに殺された男……
 やってることがマジでえぐいぞ。

『ですがそれは、その者どもは、この世界に存在せずとも支障のない罪人ばかりで……』
『では、きさまがそこの男は? ルーディ・フォン・ヴェルクは? 幼児と赤子はこの世に存在せずとも支障がなく、罪人と等価とでも申すか』
『きさまの行いはことごとく、ティバルト・フォン・シュピラーレとルチナ・フォン・メルクマールによる大量虐殺を助長させるものだった。よもや、も読めなかったなどと言うまいな』
『っっ……』
『それだけではない』

 話はティバルトがリヒトハイム王国の玉座を奪ってから、どのようにその戦火の拡大を『手伝った』かにも及んだ。
 ――マジで、胸の悪くなる話だった。

 手を取り合えそうな国と国があれば、どっちかの責任者に成り代わって和平を潰したり、権力者の身近な人間に乗り移って相手の身内を襲わせるように仕向けたりとか、そういうことをやっていたらしい。

 あの野郎が肉体を奪うのは、どれも人としての性質が悪く、精神力の弱い者という制限を自ら課していたそうなんだが。
 てめぇの自己都合で設定した制限がどうした? って話だよな。なるべく悪人を選んだからって、それが言い訳になるわきゃねーだろ。
 奴のせいで、昔の俺並みに小さい子供がごろごろ殺されたのはもちろん、汚されて命を絶った若い娘なんかもいたという話だ。
 窮状を無視されたリシェルみたいな感じかな。
 もちろん直接手を下したわけじゃないんだろうが、自分の誘導によって誰かが『そうする』であろうことを読んでいた。
 すべての結果を理解した上で、そうなるように実行に移していたんだ。

 クッソむかつきますなぁ~……。
 その野郎の罪、仲間贔屓びいきであまあまに減刑とかしないで、徹底的に裁いてやってくださいよ?

『むろんだ』
『むしろこのクズを仲間などと呼びとうないわ』
『――わ、私は天使です!! あの者のざれごとになど耳を貸さないでください!! それに人間ごときが潰れようと、しょせんは我らよりも下等な――』
『勘違いは大概にせよ。――〝エンデ〟』

 鎖でぐるぐる巻きにされた発光物が、いきなり人間に変わった。
 それは俺が牢で見た、鉄格子の向こうの罪人『エンデ』とまったく同じ姿だった。

『聖性を剥奪する。きさまはこの瞬間より、我らの同族ではない』

 ――おおっ!?
 つうことは、もしかしなくても!?
 一時的に固定されたとかのレベルじゃなく、そいつは完全に人間になってしまったと、そーゆーことでしょうかっ……!?


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