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最後の仕上げ
219. 幸福に満たされて -sideリシェル*
体調が悪い? と訊かれ、そういえば……と思い当たるふしがあった。
身体の調子が特に悪いとは感じなかったんだけれど、この二、三日ぐらい、妙に怠くて眠気が強い。
それが顔色に出ていたみたいで、ランハートが今日はやめておこうか、って言い出したものだから、咄嗟に「いやだ」と答えてしまった。
しかも、自分から続きをねだってしまった……!
「したい」とも「してほしい」とも言えなくて、じっと目を見つめるだけになってしまったけれど。
そういえば以前メイドの誰かが、「このような方法もございますからいざという時にはお試しくださいませ」って教えてくれた『旦那様の誘惑方法』の中に、そんなのがあったな。わたし、無意識にやってしまったよ。
だけど、本当に気分が悪いわけではないんだ。
だから心配しないで、してくれていいんだよ……なんて、年上ぶっている余裕なんてない。
わたしが、彼に触れてもらいたいんだ。
初夜の日からずっと、ランハートに抱かれるのは幸せで幸せで、気持ちよくておかしくなりそうなんだよ。
「あ、は、ぁぁ……ぁ……」
「つらかったら、言ってね……」
「ん……だ、だいじょう、ぶ……ぁ、ん……」
優しく寝台に運ばれ、正面からゆっくりと穿たれて、知らない人みたいな声が口から勝手に漏れてしまう。
彼のものでそこを押しひらかれる感触がたまらなくて、ぎゅっと瞼を閉じたら、目尻からじわりと涙が滲んだ。
ランハートは慎重に覆いかぶさり、唇でわたしの涙をぬぐいながら、顔中に口づけを落としてくれた。彼から与えられる愛情が指先まで浸透し、胸の中が幸福感でいっぱいに満たされる。
「はっ、はあっ、……んっ、あっ……あっ……」
「リシェル、愛してる……。ごめんな、この先も俺は、いろいろやっちまうけど……何があっても、おまえを手放しては、やらねぇから……」
いろいろ……それって、彼が大公になったことで、わたしも『大公妃殿下』みたいな身分になるから、面倒をかけるとか言いたいのかな?
そんなの、わたしは気にしないよ。むしろどんどん巻き込んでほしい。
ランハートに甘やかされて大事にされる日々を十何年も続けてきたせいで、わたしはすっかり図々しくて我が儘な贅沢者になってしまった。
だからこっちこそ、何があったって離れてなんかやらない。
わたしの敵をきみが倒してくれたように、きみの敵もまたわたしの敵。隣に立ち、ともに戦えるだけの知識も度胸も、それなりに身につけてきたつもりだ。
ランハートの敵と対峙することは、今のわたしにとって何ら恐怖ではない。
最も恐ろしいのは、自分が蚊帳の外に置かれたまま、ランハートを失うことだ。
わたしにとって、それ以上怖いことなんて何もない。
だからそんな風に、「ごめんね」なんて顔をする必要はないんだ。
「わたし、は……ランハートと、ずっと、一緒……あ、んんっ……」
「うん、ずっと一緒な」
後ろでぐちぐちと濡れた水音がする。わたしが感じ切っている証拠。
身体がつらくないようにと、丁寧に優しく抜き差しをされて、それが却って焦らされているようで性感を強く煽られた。
後孔からびりびりと快楽が走り、下腹部が切なく疼いて、中にいる彼のものを一生懸命に食いしめてしまう。
――ああ……どうしよう。きもちいい……!
わたしの中心もすっかり硬くなり、彼の腹筋にこすれていた。そこからもトロトロと快楽の証が流れ、わたしがどれだけ感じ入っているのか、言葉にするまでもなくバレている。
初めて抱かれたあの夜から、わたしはすっかりランハートとの行為に夢中だ。ほんの小さな頃に恋をして、そこからずっと彼に夢中だというのに、ますます夢中になってしまうなんてどうしたらいいんだろう。
幸せで幸せで、ずっと頭がふわふわして、どうしたらいいかわからない。
「んうっ、……あっ、あぁあ……!」
耳元で、彼が「クッ」と歯を食いしばる声が聞こえた。
中に精をそそがれた瞬間、わたしの全身は大きく震え、はちきれそうになっていた中心から白濁を吐き出していた。
いつの間に眠っていたのか、気付けば朝になっていた。
わたしが前後不覚になっている間に、身体を清めてくれたらしい。さっぱりしている全身に赤面しつつ、先に起きていたランハートからおはようの微笑みとキスをもらった。
じゃれつくように重なってきた唇に、また胸が幸福感でぱんぱんになる。
……なるんだけど、お腹はすいた。
昨夜の行為はこれっぽっちもつらさが残っていないけれど、空腹のせいでちょっと気分が悪くなってきた。
「ごめん、俺ががっついたせいで夕食を抜いてしまったな。急いで支度をしよう」
「……ランハートのせいじゃないよ。わたしも、その……したかったんだし」
朝陽の中だと素面になってしまうせいか、こういうセリフを口にしようとすると羞恥心が邪魔をしてくる。
そういう言動にまったく抵抗のないランハートは、素直じゃないわたしの唇へ嬉しそうにちゅっと軽いキスをくれた。
カイとノアを呼んで準備を手伝ってもらい、わたし達は日常着を身につけると、心持ち急いで食堂に向かった。
そこにはお義母様とお義父様が既に待ってくださっている。
席につくと、さっそく朝食が運ばれてきた。食べ物のいい香りに、ついホッとしてしまう。
「リシェル? もしや、体調でも優れないのですか? 顔色がどことなく疲れているように見えますよ。ランハートが無理をさせてはいないでしょうね」
「ごほ……」
ランハートとお義父様が危うくスープでむせそうになっていた。
彼にそんな濡れ衣を着せてはいけないと、慌てて首を横に振った。
「いえっ、お義母様! 違うのです、ランハートは絶対に無体なことなどしませんから!」
「そうですか?」
「はい。近頃、少しばかり眠気が強いだけなのです。春だからでしょうか? それに恥ずかしながら、食べる量が増えておりまして。お腹がすいて気分が悪くなっていただけなのですよ」
「――お腹がすいて?」
「ですがちゃんと食べたら落ち着きますし、なんということも……お義母様?」
言葉の途中から、何故かお義母様がじっとわたしを凝視してきた。
どうなさったのだろう?
気のせいか、周りのメイドにも少しぴりっとした空気が走ったような……?
「お義母様?」
「イゾルデ?」
「お母様、どうなさったのです?」
お義母様はフォークをお皿の上に置いた。珍しく、カシャリと大きな音を立てて。
そしておもむろに立ち上がり、久々に大きな声を張り上げた。
「医師を呼びなさい!」
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