24 / 69
スリルを求める流行
22. あやしげな記事の呆れた真相
(まさか、『催し』とやらを企画したのはおまえか?)
しかし、よく見ればどうもそうではない。
室内にいる人間は、部屋の隅に立つメイドがひとりと、下男がひとり。
それから三十代半ばぐらいの優男がひとりと、ウィルフレッドに、二十歳前後の青年が四人。
ぱっと見では、整った顔立ちに不敵な笑みを浮かべて立つウィルフレッドが、この集まりの中心に見える。
だから一瞬そんな濡れ衣を着せてしまったのだが、ひとりだけソファに座っている青年がいた。
(……貴族だ)
上着の後ろの裾が長く、燕の尾のようになっている。男性貴族が外出先で着用する特徴的な服だ。
肘掛けに置いた片手に持っている帽子は、円筒形のシルクハット。ウィルフレッドも家の地位を見せつける必要のある場では、この帽子を被っていく。
(主導した貴族のお坊ちゃんとやらか。実際に会えば圧倒されると思ったのに、意外と目立たないものなんだな)
初めて目にする貴族に対し、さほど緊張を覚えていない。その理由を、オズワルドはそう勘違いした。
「皆さんにご紹介いたします。我が家で下宿をしている、作家のオズワルド・クラークですよ」
「おお、彼が噂の!」
「このような場でお会いできるとは」
呑気に観察していたらウィルフレッドが勝手に紹介を始めてしまい、あやうく顔が引きつりかけた。
(やめろ、紹介しなくていい! 噂ってなんだ?)
ネッドに嘘くさく泣き付かれ、場所がこの館となれば、この『集い』とやらがなんなのか容易に察せるというものだ。
断じて親交を深めないために、無言で目を伏せ、ほんのわずかだけ頷く。
返事をせず、挨拶の言葉を口にしない。名乗りもしない。
非礼な態度であり、すぐに興味をなくしてくれる――そう思っての行動だったが、ここに誤算があった。
(……人嫌いの田舎作家かと思いきや、訳ありだったみたいだな)
(雰囲気のある人物だ。貴族の庶子か、親類か……)
人はまず、服装や小物などの質やデザインでその人物を推察する。
そして、それ以外の部分に注目する。品よく落ち着きのある仕草や行動。頭のてっぺんから足のつま先まで意識した姿勢に、浮かれ気味の若者達に囲まれても動じないところもそう。
オズワルドの態度は、この場の全員の目に『身分に相応しいふるまい』と映った。
初めて会う貴族に緊張しなかったのも、実は無意識に自分と同類のように感じていたからだったとは、彼は夢にも思わない。
おまけにこの場で唯一の貴族である青年も、オズワルドをひと目見て「同じ階級の人間だ」と確信していた。
しかし態度も雰囲気も貴族的でありながら、装いはウィルフレッド達と同格、つまり中産階級における上位者であると示している。
これは訳ありか、と彼もまた思った。
事情のある貴族に、根掘り葉掘り聞き出そうとしてはいけない。
無作法であると同時に、とんでもない禁忌に触れてしまう恐れがある。
賢明な彼らは、この印象的な青年への興味が尽きぬほど湧いてくるものの、にこやかに口をつぐんだ。
真実を知っているウィルフレッドだけが、一連の流れに笑いを噛み殺すのに苦労している。
「皆様、ようこそお集まりくださいました。それでは、始めるといたしましょう」
幸いにも彼の表情筋が限界を迎える前に、婦人が開催を宣言した。
続きの部屋に移動する際、メイドと下男が順番に帽子を預かり、壁のフックにかけた。
服装からして、どちらも上級使用人ではない。手入れのまったく行き届いていない庭といい、人を雇う余裕がないのだと窺える。
部屋の中央には一台の丸テーブルが用意されており、人数分の椅子が等間隔に置かれていた。
席の指定はない。オズワルドはさりげなく婦人と向き合わない位置の椅子に腰を下ろし、ウィルフレッドは当たり前の顔で隣に座った。
テーブルには無地のテーブルクロスがかかり、中央には太い蝋燭が灯っている。
窓のカーテンが閉じられ、ガス灯が消され、灯りはその蝋燭のみだ。
案の定、始まったのは降霊術である。
霊との交信の試みは、現在最も注目されている娯楽のひとつだった。
主役の幸薄そうな婦人は、フロスト夫人と名乗った。この館の元の持ち主は亡き夫であり、何年前にこういう事情で亡くなってこの館をホテルにした経緯がうんたらかんたらと静かに語った。
もうひとりの登場人物は、三十代半ばぐらいの男。彼は霊媒師と名乗り、亡きご主人があなたを想ってうんたらかんたらと、この場の常套句を情感たっぷりに、それでいて静かな声で語った。
最後の登場人物は、貴族の青年。
彼はそこそこ大きな家の若様であり、新たな時代に下々の者とも交流を深めるべきと思い立ったらしい。
そして遠縁のフロスト夫人が困っていると聞きつけ、『フロストムーア・ホテル』の後援者になり、知人の伝手で霊媒師を紹介し云々。
(わかったぞ。全部、ホテルの宣伝目的か)
昨今のブームで、『出る』と噂のホテルに泊まりたがる物好きは大勢いる。
だから幽霊騒ぎを起こし、科学者を呼び、『ウィスパーズ』に取材をさせて世間の注目を集めた。
(科学者はグルではなかったから、まっとうな仕事をしたんだな。しかし、よくやる……)
ますます帰りたくなってきたのだが、いつまでこれに付き合えばいいのだろう。
あなたにおすすめの小説
私の息子を“愛人の子の下”にすると言った夫へ──その瞬間、正妻の役目は終わりました
放浪人
恋愛
政略結婚で伯爵家に嫁いだ侯爵令嬢リディアは、愛のない夫婦関係を「正妻の務め」と割り切り、赤字だらけの領地を立て直してきた。帳簿を整え、税の徴収を正し、交易路を広げ、収穫が不安定な年には備蓄を回す――伯爵家の体裁を保ってきたのは、いつも彼女の実務だった。
だがある日、夫オスヴァルドが屋敷に連れ帰ったのは“幼馴染”の女とその息子。
「彼女は可哀想なんだ」
「この子を跡取りにする」
そして人前で、平然と言い放つ。
――「君の息子は、愛人の子の“下”で学べばいい」
その瞬間、リディアの中で何かが静かに終わった。怒鳴らない。泣かない。微笑みすら崩さない。
「承知しました。では――正妻の役目は終わりましたね」
夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い
青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。
神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。
もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。
生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。
過去世と同じ轍を踏みたくない……
あなたへの愛を捨てた日
柴田はつみ
恋愛
公爵夫人エステルは、冷徹な夫レオニスを心から愛していた。彼の好みを調べ、帰宅を待ちわび、献身的に尽くす毎日。
しかし、ある夜会の回廊で、エステルは残酷な真実を知る。
レオニスが、未亡人クラリスの手を取り囁いていたのだ。
「君のような(自立した)女性が、私の隣にいるべきだった」
エステルは悟る。自分の愛は彼にとって「重荷」であり、自分という人間は彼にとって「不足」だったのだと。その瞬間、彼女の中で何かが音を立てて砕け散る。
裏切ったのはあなたですよね?─湖に沈められ記憶を失った私は、大公女として返り咲き幸せを掴みます
nanahi
恋愛
婚約者ウィルとその幼馴染ベティに罠にはめられ、湖へ沈められた伯爵令嬢アミアン。一命を取り留め、公女として生まれ変わった彼女が見たのは、裏切り者の幸せな家庭だった。
アミアンは絶望を乗り越え、第二の人生を歩む決意をする。いまだ国に影響力を持つ先の王弟の大公女として、輝くほど磨き上げられていったアミアンに再会したウィルは激しく後悔するが、今更遅かった。
全ての記憶を取り戻したアミアンは、ついに二人の悪事を断罪する。
つまらない妃と呼ばれた日
柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。
舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。
さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。
リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。
――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。
私の人生に、おかえりなさい。――都合のいい「お姉ちゃん」は、もうどこにもいません
しょくぱん
恋愛
「お姉ちゃんなんだから」
――それは私を縛る呪いの言葉だった。
家族の醜い穢れを一身に吸い込み、妹の美しさの「身代わり」として生きてきた私。
痛みで感覚を失った手も、鏡に映らない存在も、全ては家族のためだと信じていた。
でも、、そんな私、私じゃない!!
―― 私は、もう逃げない。 失われた人生を取り戻した今、私は、私に告げるだろう。
「私の人生に、おかえりなさい。」
婚約破棄のあと、あなたのことだけ思い出せない
柴田はつみ
恋愛
伯爵令嬢セシリアは、王宮の舞踏会で王太子レイヴンから公開の場で婚約破棄を言い渡され、その場で倒れた。
目覚めた彼女は、礼儀も常識も覚えているのに――ただ一つ、レイヴンだけを思い出せない。
「あなたは、どなたですか?」
その一言に、彼の瞳は壊れた。
けれどレイヴンは何も語らず、セシリアを遠ざける。彼女を守るために、あの日婚約を捨てたのだと告げられないまま。
セシリアは過去を断ち切り、王宮の侍女として新しい生活を始める。
優しく手を差し伸べる護衛騎士アデルと心を通わせていくほど、レイヴンの胸は嫉妬と後悔で焼けていった。
――守るために捨てたはずなのに。忘れられたまま、他の男に笑う彼女を見ていられない。
一方、王宮では“偽聖女”の陰謀と、セシリアの血に眠る秘密が動き出す。
記憶を取り戻せば、彼女は狙われる。取り戻さなければ、二人は永遠に届かない。
これは、忘れてしまった令嬢と、忘れられてなお愛を捨てられない王太子が、もう一度“選び直す”恋の物語。
【大賞・完結】地味スキル《お片付け》は最強です!社畜OL、異世界でうっかり国を改革しちゃったら、騎士団長と皇帝陛下に溺愛されてるんですが!?
旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
【第18回ファンタジー小説大賞で大賞をいただきました】→【規約変更で書籍化&コミカライズ「確約」は取り消しになりました。】
佐藤美佳子(サトウ・ミカコ)、享年28歳。死因は、過労。連日の徹夜と休日出勤の果てに、ブラック企業のオフィスで静かに息を引き取った彼女が次に目覚めたのは、剣と魔法のファンタジー世界だった。
新たな生を受けたのは、田舎のしがない貧乏貴族の娘、ミカ・アシュフィールド、16歳。神様がくれた転生特典は、なんと《完璧なる整理整頓》という、とんでもなく地味なスキルだった。
「せめて回復魔法とかが良かった……」
戦闘にも生産にも役立たないスキルに落胆し、今度こそは静かに、穏やかに生きたいと願うミカ。しかし、そんな彼女のささやかな望みは、王家からの突然の徴収命令によって打ち砕かれる。
「特殊技能持ちは、王宮へ出仕せよ」
家族を守るため、どうせ役立たずと追い返されるだろうと高をくくって王都へ向かったミカに与えられた任務は、あまりにも無謀なものだった。
「この『開かずの倉庫』を、整理せよ」
そこは、数百年分の備品や資材が山と積まれ、あまりの混沌ぶりに探検隊が遭難したとまで噂される、王家最大の禁足地。
絶望的な光景を前に、ミカが覚悟を決めてスキルを発動した瞬間――世界は、彼女の「お片付け」が持つ真の力に震撼することになる。
これは、地味スキルでうっかり国のすべてを最適化してしまった元社畜令嬢が、カタブツな騎士団長や有能すぎる皇帝陛下にその価値を見出され、なぜか過保護に甘やかされてしまう、お仕事改革ファンタジー。