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神秘と心霊と
64. 帰結
しおりを挟むとうとうエドワード・ターナーと長男ブライアンが戻ってきた。
年齢も目鼻立ちもそれぞれ違うのに、髪の色と瞳の色がよく似ている。
外見もそうだが全体的な雰囲気も、なるほどウィルフレッドが四人だ。全員揃うと迫力が凄まじく、正直オズワルドとしては近寄りたくない空間がそこに生じている。
「俺は遠慮を――」
「遠慮するな、今さらだろう」
「そうよオズワルド様、遠慮なんてつまらないものは捨てなさいな」
シャーロットに目で助けを求めるも、彼女からは「いつものことですからあきらめましょう」という冷静にして無情な言葉が返ってきた。
そうして居間に引きずられ、ターナーの親子団欒に、何故かオズワルドも加わっている。
「ウィル、ヘレン、よくやったな。特にウィル、おまえが何度も連絡してくれていたと聞いた時は驚いたぞ」
「俺と父さんも電話を過信してはいなかったし、対策はしていたつもりだったんだがな。今は連絡網の見直しをしているんだ」
父と兄からのねぎらいに、ヘレンはともかくウィルフレッドは素直に喜べない様子だ。
「褒められるのは嬉しいけれど、正直言って微妙な気持ちだよ。自分の未熟さを痛感することばかりだったからさ」
そう言いつつ彼の目に淀みはなく、これを糧にして一段成長する姿が容易に想像できる。
だからか、末息子に向けるエドワードの目に落胆はなく、むしろ満足げな色を湛えていた。
「ところでウィル坊や、父さん達にクラーク殿を紹介しないか」
「そうだぞ、さっさと紹介しろ。さっきから待っているというのに」
……初対面のたかが下宿人に興味津々で、ぐいぐい詰め寄ってくるところも、本当にそっくりな親子だ。
ただしエドワードはさすがこの子供達の父親というべきか、気さくな表情を見せる一方で、王者のごとき風格をも漂わせている。
どっしりとした力強さと、逆らいがたい上位者のオーラのようなものを感じさせ、一対一で向き合ったら絶対に敵視されたくないと思うような相手だ。
ブライアンもまさしくこのエドワードの息子という雰囲気を纏い、ターナーの盤石さをひと目で理解させる存在だった。
この二人の持ち帰った土産は、複数の貴族が絡んだ幽霊会社による不正行為の証拠。
その中には、グレイヴ子爵やノースウォール伯爵の関わりを示唆する証言も含まれている。
労働など恥ずべきものと断じる貴族の代表でありながら、生き残るためには結局彼らも『仕事』をするしかなかったようだ。
夫を殺めてまであの館にこだわったフロスト夫人も、華やかな生活に憧れた呪術師の坊やもそう。
しかし彼らのいずれも、まっとうな方法で稼ぐ方法を知らなかった。
新聞各社は連日大忙しだ。次から次へとネタが出てきて、紙面が大賑わいである。
ターナーの所有する『レッドフォード・タイムズ』と『ウィスパーズ』は、また部数を伸ばしたらしい。
当然ながらネッドも多忙でなかなか捕まらないかと思ったが、エドワードのおかげですんなり時間を押さえることができた。
にわかにターナー家の周りも騒がしくなり、オズワルドは周辺が落ち着くまで、ウィルフレッドと行動を別にすることにした。
御者のティムに頼んで『レッドフォード・タイムズ』本社に訪れ、経営責任者の応接室に案内されると、そこにはもうネッドの姿がある。
雑用係が茶の用意をしようとするのを断り、オズワルドは一通の封筒を取り出した。
「忙しい時に時間を割いてもらって悪いな。だが、これだけは直接預けたかったんだ」
「手紙?」
「俺の支援者に渡してくれ」
ネッドが顔を上げ、探るような目を向けてくる。
「言葉通りだ、ネッド。俺はそろそろグレイウッドに戻るつもりでいる」
「もう戻るのか。まだ半年も経っていないのに」
「あちらの館の様子が気になるし、俺にはこういう都会暮らしは向いてない。もちろんターナーでの生活は快適だったし、ネッドにも世話になった」
穏やかに細めたヘイゼルの瞳には、怒りも悪意もない。
――支援者のことも、ジェイムズのことも、ネッドから聞き出そうとするのはもうやめることにしたのだ。
付き合いが長くなれば、いつか気が変わって話してくれるかもしれない。そう思って待つつもりだったが、逆にネッドという人間への理解が深まるにつれ、それは到底期待できない話なのだとわかってしまった。
ジェイムズもネッドも、短い時間で相手にするりと好印象を植え付けるのがうまく、それがなかなか薄れない。
今後もネッド・コールマンという人物を、憎むことも嫌うことも難しいだろう。
だからオズワルドは手紙を書くことにした。少しでも、これが届くことを期待して。
「いつかまた来ることがあったら、その時はどこかのパブでエールでも飲もう」
◆ ◆ ◆
一度も座ることなく、あっさりと背を向けて出ていったオズワルドに、ネッドは肩透かしを食らった気分になった。
雑用係の青年はネッドの分だけ紅茶を用意すると、いつものように退室し、応接室はネッド一人きりになる。
(今日ばかりはとことん粘られると思ったんだがなぁ)
それを予感して時間を長めにとっておいたのに、思わぬ休憩時間ができてしまった。
上質なソファにだらりと腰かけ、手元の封筒を眺める。
ソーンが誰に送り込まれた使用人だったのか、ネッドは最初から把握していた。
知りながら、黙っていた。
これは彼の属する業界ではよくあることだ。知り得た情報を即座に使うことはせず、気長にじっくりと使うタイミングを待つ。
何かが起こるまで、ずっと。
だからこそ今、高級紙や大衆紙の別なく、両方とも大賑わいになっているのだ。もし種が蒔かれた時点でエドワードに忠告なり報告なりしていたら、その種はさっさと掘り返され、何事も起こらなかったに違いない。
ネッドは積極的に敵を利したわけでも、ターナーの妨害をしたわけでもなかった。
ただ、育つのを待った。
(それも含めて、ジェイムズのことを責めてくると思ったのに)
オズワルドはとうに理解しているはずだ。
ジェイムズにネタとして使われ、その結果として『ヘリアントゥスの書』が世に出たことを。
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