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第一章 骨師を守る騎士
7.戦争
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旧ガレー国の北辺境に建つ小さな家の中は、赤々と燃える暖炉の炎に温められ、快適な室温を保っている。
その家に住む妻は病に倒れ、一年も寝たきりだった。
夫はあまり妻の傍を離れるわけにはいかず、安定した仕事にはついていなかった。
にもかかわらず、夫婦の暮らしは悪くなかった。一年、夫は妻から片時も離れずに暮らしていた。
それは夫がマウリア国で探索者をして貯めたお金のおかげだった。
敵国の女を誘惑し、古代種の骨を高値で引き取らせたのだ。
おかげで夫は妻の看病に勤しみ、数日で死を迎える予定だったシリラは、死に瀕しながら一年も生き延びていた。
ある夜、傍らで妻のためにやわらかな果実の皮をむく夫にシリラは語り掛けた。
「マウリア国に征服されてから、古代種の骨は安値で買い叩かれていると聞くわ……私たちがこんな風に贅沢に暮らせるのは……ステラさんという方が無理して高く買いとってくれたおかげ?」
夫は驚いてナイフで親指を少し切った。
それを急いで布で隠し、平静を装う。
「何のことだ?」
敵国に奪われた妻をどうやって取り戻したのか、イールがシリラに話したことはなかった。
「あなたが私を迎えに来てくれた、あの日……動けなかったけど、聞いていたの……。私を牢から連れ出した人も言っていた……。私と交換するために、あなたが骨師を一人さらったって……」
シリラを助けるために、他の女に愛を囁き、その体を抱いたことを思い出し、イールは嫌悪感を露わにした。
なんとか愛する妻にわかってもらおうとイールはむきになった。
「君を助けるためだ。彼女に愛情を抱いたことは一度もない。君をさらった憎い敵国の女だ。全ては偽りだ。シリラ、君を取り戻すためなら俺はどんなことでもする」
その表情を静かに見つめ、シリラはひっそりと言った。
「イール……私……本当に幸せだった……骨師であることがわかってから、幸せだと感じたことがなかった。そんな私にあなたは幸せをくれた……。
今もとても幸せ。こんな風に愛する人とずっと一緒にいられるなんて思ってもいなかった……」
ガレー国の辺境にある小さな村で生まれ育った二人は幼馴染であり、恋人同士だった。
ある時、村に骨師を連れた役人がやってきた。
村人全員を集めると、役人はこれから骨師が話す言葉を繰り返すようにと命じた。
まるで草が揺れるようなざわざわとした音だった。
声でも言葉でもなかったのだ。
しかし、イールの恋人であるシリラはその音を繰り返すことが出来た。
国の中枢で働くことに決まったシリラは、家族を一人だけ連れていくことを許可された。
まだ結婚前だったイールは、旅の途中で結婚しようと約束した。
ところがその途中で戦争になり、骨師として守られていたシリラが真っ先に狙われ奪われた。
イールは取り返そうと走ったが、シリラは来てはだめだと叫んだ。
敵は大勢で、イールが一人で戦ってなんとか出来る状況ではなかった。
イールに生き延びてもらうために、シリラは叫んだ。
『今はだめ!無駄死にしないで!』
大混乱の戦場で、イールは必死にシリラを追いかけながら叫んだ。
『必ず迎えに行く!どんなことをしても君を奪い返す!』
そんなことはやめて欲しいと言うべきだったと、シリラは後悔した。
イールは約束通りシリラを迎えに来た。
死にかけていたシリラは少し力を取り戻し、一年幸せに生きた。
しかし幸せを感じるたびに考えた。
その幸せのために犠牲になった骨師がいたことを。
「イール、本当に幸せ……。申し訳がないくらい……」
まるで最後のお別れのように言葉を綴るシリラに、イールは涙ぐみ、その両手を包みこんだ。
「駄目だ。もっと幸せになれる。一緒にいてくれ」
「イール……迎えに来てくれてありがとう……でも、私が死んだらどうか……私のことは忘れてね。復讐なんて考えないでね……。私たちが逃げられたのも、きっと……そのステラさんのおかげよ……」
「なぜあんな女のことを気にかける!」
イールは苛立った。最後の二人きりの時間を愛してもいない敵国の女のために割くなど許せない。
「なぜ?……彼女も……私と同じ骨師だからよ……。ねぇ……イール……私たちは幸せになるように作られていない」
「君と彼女は違う。俺が愛しているのは君だけだ」
大切なのはたった一つの愛だけなのだ。その愛を守るためなら、世界中を敵に回しても後悔はない。それがイールの正義だった。
シリラは全身にイールの愛を感じ、幸福な吐息をついた。
「イール……手を握って……。傍にいてくれてありがとう」
骨師は孤独な身の上だ。道具として必要とされるが、人としては見てもらえない。
シリラは骨師だと判明するまで、普通の子供として育ち、幼馴染のイールと順調に愛を育んだ。
愛する人と体を重ね、結婚を誓い、実際命がけで夫はシリラを助けに来た。
女として最高の幸せを手に入れた。
だが、それは稀なことだ。
骨師だと判明し、村を出たシリラは敵国で多くの骨師を目撃した。
大抵の骨師は子供の頃に発見され、命を削るように育てられる。
能力の大きさには個人差があり、大抵が短命だ。
シリラのように幸福な体験をしたことがある骨師はいなかった。
自分は幸運な方なのだと気づいたが、だからといって幸せを諦めることは出来なかった。
そのために、誰かが傷つき不幸になったとしても、やはりイールが現れたらその手を取らずにはいられない。
自分の幸せを顧みず他者を助ける者こそ骨師なのに、この幸福は手放せない。
身勝手にも思えるその考えは、シリラの幸福な気持ちに陰りをもたらした。
しかし生きることに未練があるわけではなかった。死を受け入れる覚悟はとうに出来ていた。
シリラには憎しみも恨みもない。
黙り込んだシリラを心配するようにイールが顔を寄せ、呼吸を確かめてシリラの唇をそっと奪う。
「シリラ……まだ一緒にいてくれ……」
イールにはまだ未練がある。
新婚一年目なのだ。
やっと手に入れた花嫁とはまだ一度しか体を重ねていない。
少し体調が良い時に、シリラにせがまれて交わってみたが、呼吸が止まりかけてしまった。
もっと早く取り戻すことが出来ていたらと悔しそうに涙ぐむイールに、シリラは「幸せよ」と繰り返した。
二人が暮らし始めて一年と一カ月後、シリラは眠るように息を引き取った。
幸福な笑みを浮かべ、穏やかに旅立った。
イールはそれを見届け、故郷の村があった場所に墓をたてた。
そこでイールも骨を埋めるつもりだったが、その年、突如として戦争が起こった。
マウリア国に滅ぼされ、骨師を連れていかれた国々が同盟を組み、一斉にマウリア国に戦争をしかけたのだ。
その戦いにイールは参加した。
マウリア国が攻めてこなければ、シリラともっと長く一緒にいられた。
シリラはマウリア国に連れていかれ、体を酷使され、使い潰された。
夫婦となってたった一年と一カ月しか一緒に暮らせなかった。
復讐はしないでくれというシリラの言葉は覚えていたが、イールにはもうそれ以外に生きる目標を見つけることが出来なかった。
その戦いは大陸中を巻き込み、大きな犠牲を生んだ。
――
マウリア国の東渓谷にある骨屋に向かって騎獣を走らせていたジルドは、完全に国の隊服を脱ぎ捨てていた。
幸い骨師の管理をする部署であるため、戦争に駆り出されることはなかったが、最後の命令が下った。
『担当する骨師を連れて速やかに姿を隠せ。敵に骨師を絶対に渡すな』
戦場に出ていないためジルドにはわからなかったが、国が亡ぶ寸前まで追い詰められているらしかった。
国が滅びたら、今度は国が再興するまで骨師を守らないといけない。
とんでもなく気の遠くなる話だ。
変装用の荷物をまとめ、王都を出発したが、ステラの骨屋までは二日はかかる。
その間に、敵が入ってきたら結界内とはいえ完全にその攻撃を防ぎきるのは難しい。
兵糧攻めにあえば逃げ場はない。
不眠不休で駆け通し、騎獣が倒れると、ジルドは走って骨屋に向かった。
そこにあった巨大な古代種の骨が消えていた。
瓦礫と化した骨屋の傍にステラが立っていた。
「ステラ!」
ジルドの声に、ステラが振り返る。
その腕には大きな神力の結晶が抱かれていた。
「持っていけないでしょう?だから結晶にしたの」
巨大な古代種の骨は結界の原動力でもあったため、結界もきれいに消えている。
「それをよこせ。またどこかで結界を作る時に使う」
ジルドはステラの手から結晶を取り上げると、鞄に詰め、替わりにステラの変装用の服を取り出した。
「いいか、これから国を脱出する。骨師だとばれないように変装をするんだ。俺達はそうだな、夫婦で旅をする行商人になる。とりあえず服飾品を多めに積んできた。馬車をどこかで手に入れる必要がある。身分証も用意したが、この国は亡びるかもしれない」
ジルドが早口で説明している間に、ステラは何も言わずさっさと服を着替えた。
「いいな、商人の妻らしくしろ。不自然なところがないように振舞うんだ。とにかく命令があるまで、逃げ続ける」
商人の妻を見たことのないステラには、商人の妻らしく振舞うという意味がよくわからなかったが、ステラは素直に頷いた。
ジルドに抱き上げられ、ステラは騎獣に乗った。
「いや、やはり神力の結晶は売り払った方がいいな。とりあえずここを出よう」
神力の結晶を持っていては、骨師を隠しているとばれてしまう。
結局戦争の目的は、骨師の奪い合いなのだ。
大人しくジルドに抱かれ、ステラは長年過ごしたその土地を後にした。
その年、マウリア軍は多くの場所で大敗を喫した。
骨師を管理していたマウリア国に散らばっていた骨屋は敵軍により捜索され、何人かの骨師が奪われ殺された。
しかし大半の骨師はマウリア国のボルド騎士団の隊員たちによって密かに連れ去られ、大陸のどこかに隠された。
骨師の数は奪い合い、殺し合ううちに減っていた。
その年、同盟軍とマウリア国の戦争が終結に向かう中、突如南のデルマド国が大陸に侵攻を始めた。
挟み撃ちになった同盟軍は散り散りになり、同盟軍との戦いに疲れ果てていたマウリア国も消滅した。
翌年、大陸のほとんどがデルマド国のものになった。
その家に住む妻は病に倒れ、一年も寝たきりだった。
夫はあまり妻の傍を離れるわけにはいかず、安定した仕事にはついていなかった。
にもかかわらず、夫婦の暮らしは悪くなかった。一年、夫は妻から片時も離れずに暮らしていた。
それは夫がマウリア国で探索者をして貯めたお金のおかげだった。
敵国の女を誘惑し、古代種の骨を高値で引き取らせたのだ。
おかげで夫は妻の看病に勤しみ、数日で死を迎える予定だったシリラは、死に瀕しながら一年も生き延びていた。
ある夜、傍らで妻のためにやわらかな果実の皮をむく夫にシリラは語り掛けた。
「マウリア国に征服されてから、古代種の骨は安値で買い叩かれていると聞くわ……私たちがこんな風に贅沢に暮らせるのは……ステラさんという方が無理して高く買いとってくれたおかげ?」
夫は驚いてナイフで親指を少し切った。
それを急いで布で隠し、平静を装う。
「何のことだ?」
敵国に奪われた妻をどうやって取り戻したのか、イールがシリラに話したことはなかった。
「あなたが私を迎えに来てくれた、あの日……動けなかったけど、聞いていたの……。私を牢から連れ出した人も言っていた……。私と交換するために、あなたが骨師を一人さらったって……」
シリラを助けるために、他の女に愛を囁き、その体を抱いたことを思い出し、イールは嫌悪感を露わにした。
なんとか愛する妻にわかってもらおうとイールはむきになった。
「君を助けるためだ。彼女に愛情を抱いたことは一度もない。君をさらった憎い敵国の女だ。全ては偽りだ。シリラ、君を取り戻すためなら俺はどんなことでもする」
その表情を静かに見つめ、シリラはひっそりと言った。
「イール……私……本当に幸せだった……骨師であることがわかってから、幸せだと感じたことがなかった。そんな私にあなたは幸せをくれた……。
今もとても幸せ。こんな風に愛する人とずっと一緒にいられるなんて思ってもいなかった……」
ガレー国の辺境にある小さな村で生まれ育った二人は幼馴染であり、恋人同士だった。
ある時、村に骨師を連れた役人がやってきた。
村人全員を集めると、役人はこれから骨師が話す言葉を繰り返すようにと命じた。
まるで草が揺れるようなざわざわとした音だった。
声でも言葉でもなかったのだ。
しかし、イールの恋人であるシリラはその音を繰り返すことが出来た。
国の中枢で働くことに決まったシリラは、家族を一人だけ連れていくことを許可された。
まだ結婚前だったイールは、旅の途中で結婚しようと約束した。
ところがその途中で戦争になり、骨師として守られていたシリラが真っ先に狙われ奪われた。
イールは取り返そうと走ったが、シリラは来てはだめだと叫んだ。
敵は大勢で、イールが一人で戦ってなんとか出来る状況ではなかった。
イールに生き延びてもらうために、シリラは叫んだ。
『今はだめ!無駄死にしないで!』
大混乱の戦場で、イールは必死にシリラを追いかけながら叫んだ。
『必ず迎えに行く!どんなことをしても君を奪い返す!』
そんなことはやめて欲しいと言うべきだったと、シリラは後悔した。
イールは約束通りシリラを迎えに来た。
死にかけていたシリラは少し力を取り戻し、一年幸せに生きた。
しかし幸せを感じるたびに考えた。
その幸せのために犠牲になった骨師がいたことを。
「イール、本当に幸せ……。申し訳がないくらい……」
まるで最後のお別れのように言葉を綴るシリラに、イールは涙ぐみ、その両手を包みこんだ。
「駄目だ。もっと幸せになれる。一緒にいてくれ」
「イール……迎えに来てくれてありがとう……でも、私が死んだらどうか……私のことは忘れてね。復讐なんて考えないでね……。私たちが逃げられたのも、きっと……そのステラさんのおかげよ……」
「なぜあんな女のことを気にかける!」
イールは苛立った。最後の二人きりの時間を愛してもいない敵国の女のために割くなど許せない。
「なぜ?……彼女も……私と同じ骨師だからよ……。ねぇ……イール……私たちは幸せになるように作られていない」
「君と彼女は違う。俺が愛しているのは君だけだ」
大切なのはたった一つの愛だけなのだ。その愛を守るためなら、世界中を敵に回しても後悔はない。それがイールの正義だった。
シリラは全身にイールの愛を感じ、幸福な吐息をついた。
「イール……手を握って……。傍にいてくれてありがとう」
骨師は孤独な身の上だ。道具として必要とされるが、人としては見てもらえない。
シリラは骨師だと判明するまで、普通の子供として育ち、幼馴染のイールと順調に愛を育んだ。
愛する人と体を重ね、結婚を誓い、実際命がけで夫はシリラを助けに来た。
女として最高の幸せを手に入れた。
だが、それは稀なことだ。
骨師だと判明し、村を出たシリラは敵国で多くの骨師を目撃した。
大抵の骨師は子供の頃に発見され、命を削るように育てられる。
能力の大きさには個人差があり、大抵が短命だ。
シリラのように幸福な体験をしたことがある骨師はいなかった。
自分は幸運な方なのだと気づいたが、だからといって幸せを諦めることは出来なかった。
そのために、誰かが傷つき不幸になったとしても、やはりイールが現れたらその手を取らずにはいられない。
自分の幸せを顧みず他者を助ける者こそ骨師なのに、この幸福は手放せない。
身勝手にも思えるその考えは、シリラの幸福な気持ちに陰りをもたらした。
しかし生きることに未練があるわけではなかった。死を受け入れる覚悟はとうに出来ていた。
シリラには憎しみも恨みもない。
黙り込んだシリラを心配するようにイールが顔を寄せ、呼吸を確かめてシリラの唇をそっと奪う。
「シリラ……まだ一緒にいてくれ……」
イールにはまだ未練がある。
新婚一年目なのだ。
やっと手に入れた花嫁とはまだ一度しか体を重ねていない。
少し体調が良い時に、シリラにせがまれて交わってみたが、呼吸が止まりかけてしまった。
もっと早く取り戻すことが出来ていたらと悔しそうに涙ぐむイールに、シリラは「幸せよ」と繰り返した。
二人が暮らし始めて一年と一カ月後、シリラは眠るように息を引き取った。
幸福な笑みを浮かべ、穏やかに旅立った。
イールはそれを見届け、故郷の村があった場所に墓をたてた。
そこでイールも骨を埋めるつもりだったが、その年、突如として戦争が起こった。
マウリア国に滅ぼされ、骨師を連れていかれた国々が同盟を組み、一斉にマウリア国に戦争をしかけたのだ。
その戦いにイールは参加した。
マウリア国が攻めてこなければ、シリラともっと長く一緒にいられた。
シリラはマウリア国に連れていかれ、体を酷使され、使い潰された。
夫婦となってたった一年と一カ月しか一緒に暮らせなかった。
復讐はしないでくれというシリラの言葉は覚えていたが、イールにはもうそれ以外に生きる目標を見つけることが出来なかった。
その戦いは大陸中を巻き込み、大きな犠牲を生んだ。
――
マウリア国の東渓谷にある骨屋に向かって騎獣を走らせていたジルドは、完全に国の隊服を脱ぎ捨てていた。
幸い骨師の管理をする部署であるため、戦争に駆り出されることはなかったが、最後の命令が下った。
『担当する骨師を連れて速やかに姿を隠せ。敵に骨師を絶対に渡すな』
戦場に出ていないためジルドにはわからなかったが、国が亡ぶ寸前まで追い詰められているらしかった。
国が滅びたら、今度は国が再興するまで骨師を守らないといけない。
とんでもなく気の遠くなる話だ。
変装用の荷物をまとめ、王都を出発したが、ステラの骨屋までは二日はかかる。
その間に、敵が入ってきたら結界内とはいえ完全にその攻撃を防ぎきるのは難しい。
兵糧攻めにあえば逃げ場はない。
不眠不休で駆け通し、騎獣が倒れると、ジルドは走って骨屋に向かった。
そこにあった巨大な古代種の骨が消えていた。
瓦礫と化した骨屋の傍にステラが立っていた。
「ステラ!」
ジルドの声に、ステラが振り返る。
その腕には大きな神力の結晶が抱かれていた。
「持っていけないでしょう?だから結晶にしたの」
巨大な古代種の骨は結界の原動力でもあったため、結界もきれいに消えている。
「それをよこせ。またどこかで結界を作る時に使う」
ジルドはステラの手から結晶を取り上げると、鞄に詰め、替わりにステラの変装用の服を取り出した。
「いいか、これから国を脱出する。骨師だとばれないように変装をするんだ。俺達はそうだな、夫婦で旅をする行商人になる。とりあえず服飾品を多めに積んできた。馬車をどこかで手に入れる必要がある。身分証も用意したが、この国は亡びるかもしれない」
ジルドが早口で説明している間に、ステラは何も言わずさっさと服を着替えた。
「いいな、商人の妻らしくしろ。不自然なところがないように振舞うんだ。とにかく命令があるまで、逃げ続ける」
商人の妻を見たことのないステラには、商人の妻らしく振舞うという意味がよくわからなかったが、ステラは素直に頷いた。
ジルドに抱き上げられ、ステラは騎獣に乗った。
「いや、やはり神力の結晶は売り払った方がいいな。とりあえずここを出よう」
神力の結晶を持っていては、骨師を隠しているとばれてしまう。
結局戦争の目的は、骨師の奪い合いなのだ。
大人しくジルドに抱かれ、ステラは長年過ごしたその土地を後にした。
その年、マウリア軍は多くの場所で大敗を喫した。
骨師を管理していたマウリア国に散らばっていた骨屋は敵軍により捜索され、何人かの骨師が奪われ殺された。
しかし大半の骨師はマウリア国のボルド騎士団の隊員たちによって密かに連れ去られ、大陸のどこかに隠された。
骨師の数は奪い合い、殺し合ううちに減っていた。
その年、同盟軍とマウリア国の戦争が終結に向かう中、突如南のデルマド国が大陸に侵攻を始めた。
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