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第一章 骨師を守る騎士
15.追う者と追われる者
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魔術師とステラの間にジルドがすかさず入った。
「逃げ出すなどとんでもない。ただ、良い商売の話が聞けたので、知り合いを訪ねる必要が出来ただけです。商機を逃しては大損です」
ジルドが愛想の良い商人顔で腰を曲げる。
貴族らしい端正な顔立ちに、引き締まった体をしていたジルドだったが、商人に成りすます生活を続け、すっかりその姿は騎士には見えないものになっていた。
日に焼け荒れた肌には皺も増え、さらさらの長髪も油で固め、背中の中ほどで縛っている。手には剣を握っていた時にはできたこともないタコがあるし、腰も低い。
「そうか。古代種の骨を扱っているのか」
魔術師は片付け途中の店に残されていた古代種の骨を手に取った。
「これを神力の結晶にすることが出来る骨師が不足している。先日、骨師を一人手に入れた。自分が骨師であることに気づかず、生涯を終えるものもいると聞く。もし骨師かどうか調べてみたい者がいれば我が軍に連れて来い。
骨師で無かったとしても手間賃を払おう。もし骨師を連れてくることが出来たなら報酬は跳ね上がる。
あるいは神力の結晶を所持している者についての情報だけでもいい」
「情報だけでも?!わかりました。商売は人脈が物を言います。いろいろあたってみましょう」
わざと驚いたような声を発し、ジルドはにこやかな表情を崩さずうやうやしく頭を下げた。
その後ろで妻らしくステラも頭を下げる。
イールは後ろに立っていた。
魔術師の杖がきらりと光った。
もの言いたげに、魔術師はじっと三人の様子を観察する。
ジルドは頭をあげ、まだ何か御用ですかと問いかけるようにへらへらとした笑みを浮かべた。
魔術師は目を細めたが、背を向け人混みに消えていく。
それを見送りながら、ジルドは背後のステラに手を振って、馬車の方へ行けと合図を出した。
ステラが馬車に消えると、片付け途中の店をイールは素早く解体した。
その様子を通りの物陰からじっと見ていた男がいた。
黒いローブで全身を覆い、フードの下から暗く燃えるような目で商人の男を観察する。
店を畳んだ三人が、まるで逃げるようにその場から立ち去ると、黒ローブの男も素早くそこを離れた。
三人の馬車を見送っていたのはその男だけではなかった。
数名の男達が目配せし合い、馬車が消えた方へ動き出す。
物騒な気配が動き出す中、リーダム軍の名前を讃える声が再び通りの方であがった。
それは大陸における新たな勢力の登場を意味していた。
馬車を走らせながら、ジルドはイールを振り返り、御者席を代われと叫んだ。
馬車の後ろで外を見張っていたイールが、素早く荷台を通り抜け御者席を代わる。
ジルドが荷物の中を漁りだした。
「何を探しているの?」
「あいつだ。恐らく神力の結晶を所持していることに気づいた」
血走った目でジルドは次々に荷物を詰めた箱を漁っていく。
ステラが傍の袋をひっぱりだしながら、問いかけた。
「さっきの魔術師が?」
「そうだ。恐らく神力の結晶を探知する魔法を使ったのだ。結晶が光っただろう。俺達の所持する荷物の中に神力の結晶があることに気づいたはずだ」
それはステラが流産した時に命を削って作った結晶だった。売れば金になるが、出所を尋ねられても答えられない。
「どこかで手に入れたことにしてさっさと手放したいが、直接手放すのは危険だ。人づてにさばいてしまうのが一番いいが」
ジルドが調べていた袋からしまい込んでいた神力の結晶が出てきた。両手で抱えるほどの大きさがある。
どこかに捨てるにしても、誰かに見つかれば、そんな価値のあるものをなぜ捨てたのかと怪しまれる。
ステラが躊躇いがちに口を開いた。
「さっき店売りの時に、神力の結晶を探しているおばあさんが来たの。町はずれの孤児院で治癒師をしているって言っていた。もし神力の結晶があるなら持ってきて欲しいって。治癒に使うと言っていたの。
お代を払う気もありそうだった」
警戒するような顔つきでジルドは一瞬黙り込む。
「どう考えても人助けのわけがない。恐らく、古そうな商店を見つけるたびに声をかけて回っているのだ。少しずつ蓄えている連中かもしれない。どこかの勢力に所属している可能性もあるな。しかし他の商人からも集めているなら、そういう連中に渡してしまった方が早いかもしれない。イール!」
御者席からイールが振り返る。
「人目につかないところで馬車を止めろ」
ジルドの指示で、イールは町はずれの寂れた廃屋の中に馬車を止めた。
戦争で一度破壊された町は、ほとんどが廃墟と化している。
ジルドは商人には不似合いの剣をとりあげ、鉄の鋲がついた革の装備を身に着けた。
その上から黒いローブを身にまとう。
もう何年もステラが目にしたことのない戦士の装いだ。
「ジルド……私も行く」
ステラの言葉に、ジルドは不愉快な顔をした。
「何を言っている。お前を守らなければならないのに危険な場所に連れていけるわけがない。何のために奴隷を使っている。イール、ステラを見張っておけ」
神力の結晶を布にくるみ、皮の袋に詰めると、ジルドはそれを背負った。
「ジルド!危険なのでしょう?」
「危険なことならこれまでも山ほどあった。お前が知らないだけだ。いいから静かにしていろ」
初めて会った時から変わらない、冷やかな目に睨まれ、ステラは口を閉ざす。
曇り空で、少し日は弱いが日暮れまではまだ時間がある。
大きな壁の残骸の陰に置かれた馬車は、街道や町の方からは見えないように隠されている。
ジルドはそれを確かめ、素早く廃屋の中をすり抜けて走り出す。
その背中を馬車の荷台から見つめていたステラは、ジルドが視界から消えると、不安のあまり両肩を抱いてうずくまった。
イールが御者席から馬車の中に移動し、ステラの隣にしゃがみこむ。
その腰には大剣が吊り下げられ、護衛に相応しい革の装備に身を固めている。
その分厚い体を見上げ、ステラはさらに不安を募らせた。
ジルドはイールと正反対の体格だ。戦士向きではないのだ。
「イール、ねぇ、ジルドを追いかけて。お願いよ。彼は最近剣の稽古もしていないし、ずっと商人として仕事をしているから腕だって落ちているかもしれない。もともと戦うのが嫌いな人だし」
ステラに訴えられ、イールは困ったように表情を曇らせた。
これまでも数えきれないほど危険なことはあった。それはジルドの言葉通りだった。
ステラは気づいていなかったが、骨師ではないかと怪しむ者は時々現れた。
そうした者達を密かに殺してきたのはジルドだけではなかった。イールもジルドの命令で骨師狩りの一団を葬ったことがある。
今回はそれがステラの目にたまたま入ってしまったのだ。
先ほどの魔術師が今頃ステラを探しているかもしれない。
となれば、イールは狙われているステラから離れられない。
「イール!お願い!」
探索者であり、危険地帯に一人で何度も乗り込んだ経験のあるイールは兵士でもあった。
剣の腕はジルドよりずっと上だ。
「君を守るように命じられている……」
濡れた目でステラはイールを睨んだ。
「その隷属の首輪はとっくの昔に効力を失っているじゃない!私が外したのだもの。つけたのはイールでしょう!奴隷のふりなんてしないで!」
それを知っているのはステラとイールだけだ。
ジルドにはまだばれていない。なぜ奴隷でいるのか、イールにはその理由は明かせない。
「君を置いてはいけない。行くならば君を連れていく」
イールの言葉にステラはほっとして、さっそく立ち上がろうとした。
その体をイールは軽々と抱き上げた。
一瞬、その手を跳ねのけようとしたステラは、古傷をえぐられるような痛みに耐えてイールの腕にしがみつく。
廃墟の陰から飛び出し、イールは町はずれの孤児院に向かって走り出した。
ジルドは既に廃屋になった孤児院の前に辿り着いていた。
壁は崩れ、窓は全て割れ、扉があった場所にはただぽっかりと穴が空いている。
どう見ても立派な廃屋だ。
地面に転がった木切れを乗り越え、ジルドは建物の中を覗き込んだ。
その瞬間、背後に殺気を感じ振り返る。
腰を曲げた老婆が崩れかけた壁の後ろから現れた。
「ここは私が密かに開いております治癒院になります……どうぞ中にお入りください」
愛想の良い笑みを浮かべているが、それが上辺だけのものだとジルドは見抜いた。
周囲にも複数の気配が隠れている。
囲まれてはやっかいだと、ジルドは孤児院の戸口から数歩離れた。
「妻に聞いて品物を売りに来ました。たった一つしか仕入れていないものです。良い値段で買い取ってくださるとか」
商人らしい口調で話しながら、ジルドが油断なく身構える。
「なぜ軍隊に売るのではなく、私どもに?」
「人助けと聞きました。私どもは、戦で国を焼き出された身。店も焼かれ略奪にあいました。軍というのはあまり信用のおけるものではない」
ジルドの言葉に、老婆は思案するように沈黙した。
用心しているのはお互い様といったところなのだろうとジルドは考えた。
「リーダム軍にもつかないと?」
老婆の後ろでまた気配が動いた。神力の結晶の出所を知りたい連中は山ほどいる。
骨師の存在が明らかになれば、どんな酷い拷問にかけてでも聞き出そうとするだろう。
神力の結晶には命をかける価値があるのだ。
この老婆たちがリーダム軍の敵なのか、味方なのかもわからない。ジルドは曖昧な答えを返す。
「いいえ、今日は危ないところを助けてもらいましたし、悪い軍隊ではないことはわかっています。しかし、こちらでは治癒に使うと明言されたと聞きました。兵器になるよりは治癒に使われた方がいい」
まだ品物もみせていないのに、ジルドが神力の結晶を所持していると老婆は確信しているようだった。やはり魔力使いにはその気配がわかるのだ。
荒れ果てた孤児院の庭先から、ついに黒々とした影がちらほらと姿を見せ始める。
ジルドは仕方なく腰の剣を引き抜いた。
「逃げ出すなどとんでもない。ただ、良い商売の話が聞けたので、知り合いを訪ねる必要が出来ただけです。商機を逃しては大損です」
ジルドが愛想の良い商人顔で腰を曲げる。
貴族らしい端正な顔立ちに、引き締まった体をしていたジルドだったが、商人に成りすます生活を続け、すっかりその姿は騎士には見えないものになっていた。
日に焼け荒れた肌には皺も増え、さらさらの長髪も油で固め、背中の中ほどで縛っている。手には剣を握っていた時にはできたこともないタコがあるし、腰も低い。
「そうか。古代種の骨を扱っているのか」
魔術師は片付け途中の店に残されていた古代種の骨を手に取った。
「これを神力の結晶にすることが出来る骨師が不足している。先日、骨師を一人手に入れた。自分が骨師であることに気づかず、生涯を終えるものもいると聞く。もし骨師かどうか調べてみたい者がいれば我が軍に連れて来い。
骨師で無かったとしても手間賃を払おう。もし骨師を連れてくることが出来たなら報酬は跳ね上がる。
あるいは神力の結晶を所持している者についての情報だけでもいい」
「情報だけでも?!わかりました。商売は人脈が物を言います。いろいろあたってみましょう」
わざと驚いたような声を発し、ジルドはにこやかな表情を崩さずうやうやしく頭を下げた。
その後ろで妻らしくステラも頭を下げる。
イールは後ろに立っていた。
魔術師の杖がきらりと光った。
もの言いたげに、魔術師はじっと三人の様子を観察する。
ジルドは頭をあげ、まだ何か御用ですかと問いかけるようにへらへらとした笑みを浮かべた。
魔術師は目を細めたが、背を向け人混みに消えていく。
それを見送りながら、ジルドは背後のステラに手を振って、馬車の方へ行けと合図を出した。
ステラが馬車に消えると、片付け途中の店をイールは素早く解体した。
その様子を通りの物陰からじっと見ていた男がいた。
黒いローブで全身を覆い、フードの下から暗く燃えるような目で商人の男を観察する。
店を畳んだ三人が、まるで逃げるようにその場から立ち去ると、黒ローブの男も素早くそこを離れた。
三人の馬車を見送っていたのはその男だけではなかった。
数名の男達が目配せし合い、馬車が消えた方へ動き出す。
物騒な気配が動き出す中、リーダム軍の名前を讃える声が再び通りの方であがった。
それは大陸における新たな勢力の登場を意味していた。
馬車を走らせながら、ジルドはイールを振り返り、御者席を代われと叫んだ。
馬車の後ろで外を見張っていたイールが、素早く荷台を通り抜け御者席を代わる。
ジルドが荷物の中を漁りだした。
「何を探しているの?」
「あいつだ。恐らく神力の結晶を所持していることに気づいた」
血走った目でジルドは次々に荷物を詰めた箱を漁っていく。
ステラが傍の袋をひっぱりだしながら、問いかけた。
「さっきの魔術師が?」
「そうだ。恐らく神力の結晶を探知する魔法を使ったのだ。結晶が光っただろう。俺達の所持する荷物の中に神力の結晶があることに気づいたはずだ」
それはステラが流産した時に命を削って作った結晶だった。売れば金になるが、出所を尋ねられても答えられない。
「どこかで手に入れたことにしてさっさと手放したいが、直接手放すのは危険だ。人づてにさばいてしまうのが一番いいが」
ジルドが調べていた袋からしまい込んでいた神力の結晶が出てきた。両手で抱えるほどの大きさがある。
どこかに捨てるにしても、誰かに見つかれば、そんな価値のあるものをなぜ捨てたのかと怪しまれる。
ステラが躊躇いがちに口を開いた。
「さっき店売りの時に、神力の結晶を探しているおばあさんが来たの。町はずれの孤児院で治癒師をしているって言っていた。もし神力の結晶があるなら持ってきて欲しいって。治癒に使うと言っていたの。
お代を払う気もありそうだった」
警戒するような顔つきでジルドは一瞬黙り込む。
「どう考えても人助けのわけがない。恐らく、古そうな商店を見つけるたびに声をかけて回っているのだ。少しずつ蓄えている連中かもしれない。どこかの勢力に所属している可能性もあるな。しかし他の商人からも集めているなら、そういう連中に渡してしまった方が早いかもしれない。イール!」
御者席からイールが振り返る。
「人目につかないところで馬車を止めろ」
ジルドの指示で、イールは町はずれの寂れた廃屋の中に馬車を止めた。
戦争で一度破壊された町は、ほとんどが廃墟と化している。
ジルドは商人には不似合いの剣をとりあげ、鉄の鋲がついた革の装備を身に着けた。
その上から黒いローブを身にまとう。
もう何年もステラが目にしたことのない戦士の装いだ。
「ジルド……私も行く」
ステラの言葉に、ジルドは不愉快な顔をした。
「何を言っている。お前を守らなければならないのに危険な場所に連れていけるわけがない。何のために奴隷を使っている。イール、ステラを見張っておけ」
神力の結晶を布にくるみ、皮の袋に詰めると、ジルドはそれを背負った。
「ジルド!危険なのでしょう?」
「危険なことならこれまでも山ほどあった。お前が知らないだけだ。いいから静かにしていろ」
初めて会った時から変わらない、冷やかな目に睨まれ、ステラは口を閉ざす。
曇り空で、少し日は弱いが日暮れまではまだ時間がある。
大きな壁の残骸の陰に置かれた馬車は、街道や町の方からは見えないように隠されている。
ジルドはそれを確かめ、素早く廃屋の中をすり抜けて走り出す。
その背中を馬車の荷台から見つめていたステラは、ジルドが視界から消えると、不安のあまり両肩を抱いてうずくまった。
イールが御者席から馬車の中に移動し、ステラの隣にしゃがみこむ。
その腰には大剣が吊り下げられ、護衛に相応しい革の装備に身を固めている。
その分厚い体を見上げ、ステラはさらに不安を募らせた。
ジルドはイールと正反対の体格だ。戦士向きではないのだ。
「イール、ねぇ、ジルドを追いかけて。お願いよ。彼は最近剣の稽古もしていないし、ずっと商人として仕事をしているから腕だって落ちているかもしれない。もともと戦うのが嫌いな人だし」
ステラに訴えられ、イールは困ったように表情を曇らせた。
これまでも数えきれないほど危険なことはあった。それはジルドの言葉通りだった。
ステラは気づいていなかったが、骨師ではないかと怪しむ者は時々現れた。
そうした者達を密かに殺してきたのはジルドだけではなかった。イールもジルドの命令で骨師狩りの一団を葬ったことがある。
今回はそれがステラの目にたまたま入ってしまったのだ。
先ほどの魔術師が今頃ステラを探しているかもしれない。
となれば、イールは狙われているステラから離れられない。
「イール!お願い!」
探索者であり、危険地帯に一人で何度も乗り込んだ経験のあるイールは兵士でもあった。
剣の腕はジルドよりずっと上だ。
「君を守るように命じられている……」
濡れた目でステラはイールを睨んだ。
「その隷属の首輪はとっくの昔に効力を失っているじゃない!私が外したのだもの。つけたのはイールでしょう!奴隷のふりなんてしないで!」
それを知っているのはステラとイールだけだ。
ジルドにはまだばれていない。なぜ奴隷でいるのか、イールにはその理由は明かせない。
「君を置いてはいけない。行くならば君を連れていく」
イールの言葉にステラはほっとして、さっそく立ち上がろうとした。
その体をイールは軽々と抱き上げた。
一瞬、その手を跳ねのけようとしたステラは、古傷をえぐられるような痛みに耐えてイールの腕にしがみつく。
廃墟の陰から飛び出し、イールは町はずれの孤児院に向かって走り出した。
ジルドは既に廃屋になった孤児院の前に辿り着いていた。
壁は崩れ、窓は全て割れ、扉があった場所にはただぽっかりと穴が空いている。
どう見ても立派な廃屋だ。
地面に転がった木切れを乗り越え、ジルドは建物の中を覗き込んだ。
その瞬間、背後に殺気を感じ振り返る。
腰を曲げた老婆が崩れかけた壁の後ろから現れた。
「ここは私が密かに開いております治癒院になります……どうぞ中にお入りください」
愛想の良い笑みを浮かべているが、それが上辺だけのものだとジルドは見抜いた。
周囲にも複数の気配が隠れている。
囲まれてはやっかいだと、ジルドは孤児院の戸口から数歩離れた。
「妻に聞いて品物を売りに来ました。たった一つしか仕入れていないものです。良い値段で買い取ってくださるとか」
商人らしい口調で話しながら、ジルドが油断なく身構える。
「なぜ軍隊に売るのではなく、私どもに?」
「人助けと聞きました。私どもは、戦で国を焼き出された身。店も焼かれ略奪にあいました。軍というのはあまり信用のおけるものではない」
ジルドの言葉に、老婆は思案するように沈黙した。
用心しているのはお互い様といったところなのだろうとジルドは考えた。
「リーダム軍にもつかないと?」
老婆の後ろでまた気配が動いた。神力の結晶の出所を知りたい連中は山ほどいる。
骨師の存在が明らかになれば、どんな酷い拷問にかけてでも聞き出そうとするだろう。
神力の結晶には命をかける価値があるのだ。
この老婆たちがリーダム軍の敵なのか、味方なのかもわからない。ジルドは曖昧な答えを返す。
「いいえ、今日は危ないところを助けてもらいましたし、悪い軍隊ではないことはわかっています。しかし、こちらでは治癒に使うと明言されたと聞きました。兵器になるよりは治癒に使われた方がいい」
まだ品物もみせていないのに、ジルドが神力の結晶を所持していると老婆は確信しているようだった。やはり魔力使いにはその気配がわかるのだ。
荒れ果てた孤児院の庭先から、ついに黒々とした影がちらほらと姿を見せ始める。
ジルドは仕方なく腰の剣を引き抜いた。
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