愛があってもやっぱり難しい

丸井竹

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2.事情を知る親友

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まだ肌寒い冬の終わりである。
家の換気を終え、カインが窓を閉めた。
食堂には寝不足のアロナと、親友夫婦のカルビンとマーラがテーブルを挟んで座っており、焼き菓子をつまみながら、お茶を飲んでいる。

「アロナ、大丈夫か?」

眠そうなアロナの頭に口づけを落とし、カインはその肩に毛糸のショールをかけてやる。
その優しい夫の姿を、親友夫婦は感心したように眺める。

二人はカインが妻を寝取られるのが好きなことも、冬の出稼ぎの内容も知っている。
それ故、アロナが寝不足の理由も十分わかっていた。
秘密の会で妻に触れることを禁じられているカインは、帰宅後、アロナを不眠不休で抱き続けてしまうのだ。

そこまでがカインのお楽しみであり、アロナは冬限定で、カインの性癖を存分に満たすためドルバインのサロンに通っている。
さらに収入のない冬の仕事は、村にとってもとても助かる収入になっていた。

「今年のうちの村長は、厩舎を増やすと言っていたわ」

完全にカインとアロナの寄付をあてにした発言に、二人は目を見合わせる。
カルビンも困ったものだとため息をついた。

「今年は厩舎の建て替えもあるのに、新しく増やすなんて金が倍もかかる。さらに牧草地のために道を整備する必要もある。馬車も買うと言っていたな……」

「そんなに寄付をする予定じゃなかったのに」

さすがにアロナも不満をこぼした。

「無理することもないわ。放っておけばいいのよ。調子に乗り過ぎよ」

焼き菓子をほおばり、マーラは頬を膨らませながらお茶を一口飲んだ。

「臨時収入は入りそうだが……」

カインの言葉に、アロナは急に告げられた春先の仕事のことを思い出した。
露骨に憂鬱な溜息をつく。
怪訝な顔をするカルビンとマーラに、カインはドルバインに頼まれた春先の仕事について説明した。
親友夫婦も難解な顔をする。

「どうしてドルバイン様の元奥様が、三人の関係を確かめにくるの?」

「知らないわよ……。同性の前でやるのは嫌だわ……」

アロナの気持ちに激しく同意して、マーラはその手を握った。

「その奥さんもそういう性癖なんじゃない?誰かがしているのを見たいとか」

「ドルバイン様とよりを戻したいのかもしれないわ。だって容姿はともかく、ドルバイン様は優しいし強いし、頼りがいのある方よ」

妻が他の男を褒める言葉を聞き、カインはもぞもぞと体を左右に揺らして股間の状態を落ち着かせた。
思い出したように、アロナはテーブルの下に手を伸ばし、まだ荷ほどきもしていない鞄から小さな革袋を取り出した。

「私たちが留守の間、家を見てくれていたお礼よ」

「ありがとう、助かるわ」

仕事のなくなる冬は蓄えを使い潰してしまう。出稼ぎで娼館に働きに行く妻たちもいるぐらいなのだ。
そう考えれば、仕事があるのはありがたい話だ。カインにいたっては、趣味と実益を兼ねている。

「でも、本当になんだか不安なの。ドルバインの奥様がもし、私に嫉妬しているようならば、私、殺されてしまうのではないかしら」

大抵の貴族たちは、農民の命を自分たちの命よりも軽いと考える。
幸い、ドルバインは身分の差にこだわらず、二人を大切に扱ってくれるが、やはり他の貴族たちには気を遣う。

「そういえば、アロナと一回出来ないだろうかって、村長のところの息子がうちに訪ねて来たのよ」

マーラの突然の報告に、カインは顔を赤くし股間に手をあてる。
村長の息子のルータスは女癖が悪いと評判だ。

アロナに睨まれ、カインは慌てて首を横にふった。

「駄目だ。俺達はこの村ではそうしたことはしないと決めている。それに、アロナの気持ちを一番に考えている。彼は妻がいるし、妻の了承も得られないだろう。それに、村で噂が広まるのは困る」

皆、口にしないだけで、ドルバインの館で何が行われているかなんとなくわかっている。
貴族のやることに口を出せないから黙っているだけだ。

「まぁ、ドルバイン様に頼まれた仕事であれば、断れないだろうな……」

四人は会えなかった冬の間の情報交換を終えると解散し、親友夫婦は、隣とはいえかなりアロナとカインの家からは距離のある自宅に戻っていった。



それから数日後、朝靄の中、頭を光らせ、立派な白髭をたくわえた村長がやってきた。
杖をつきながら、まだ雑草さえ生えていない泥道をやってくる長老の姿を、家の前にいたカインが見つけ駆け寄った。

すっかり年老いた村長は、カインが近づいてくると、ほっとして足を止めた。

「カルビン達がお前達の住まいを訪ねたと聞いて、もう調子は良いのかと思い訪ねてきた。その……」

カインは、村長の言葉の意味を察し、ちょっと待っていてくださいと告げると、家に走って戻り、すぐに袋を抱えて引き返してきた。

「今年の寄付金です」

村長はそれを受け取り、頭を下げたが、まだ何か言いたそうにちらちらとカインを見た。

「その……カルビン達から聞いたと思うが、その……うちの馬鹿息子のことだ……」

アロナと寝たがっている話だとすぐに気づき、カインは聞いていますと小さく答える。
村長のことは尊敬しているが、その長男に問題があることは有名な話だ。

「真に受けないでくれ。あれは……ちょっと親のわしも手を焼いている。次の村長は投票で決めようと思っているぐらいだ。その……」

村長は、周囲に視線がないのを確かめ、少しカインに近づいた。

「お前達の稼ぎには感謝している。この村にも冬の間、娼館に働きに行く妻たちがいる」

「え?!」

そこまで貧しい村ではないと思っていたカインは少し大きな声を出し、慌てて口を閉ざした。

「そうなのですか?寄付金はそうした人たちの救済にあてられないのですか?」

農民の生活は気候に左右されやすいし、家畜も病気や怪我で失ってしまう時がある。村人全員が使える馬や馬車の他にも、大きな損害を出して冬を越せないような人たちの救済にも使われていいのではないかとカインは思った。

「農地が三つほど駄目になった。さすがに、一年間の生活費は賄えない。それに、娼館で働いてもお前が寄付してくれる額の十分の一にもならないのが現実だ。お前達の客が、貴族であることで、妬んでいる村人もいる。これは微妙な問題だ。
困っている人たちを無条件で助けてやれば、それを不公平だと思い、働きたくないと考える者が出てくるかもしれない。生活困窮者たちが、村の備品や共同で使える馬車などを利用して、自力で商売を始め、なんとかしてもらうしかないと思っている。
それ故、皆で利用できる施設を増やすべきだと考えているが……気を付けて欲しい。
貴族の家で出稼ぎが出来るというだけで、お前達を妬み、恵まれているのだから、ある程度酷い目にあってもいいだろうと考える者もいる。わしは純粋に感謝している。それを伝えておきたかった」

カインは真剣な表情で頷いた。
村に多額の寄付をしていても、善行を偽善と決めつけ、偉そうだと考える者もいるだろう。
冬の稼ぎのため、町の娼館に出稼ぎに行く女達は、高級娼婦のように多額のお金を得るアロナを妬んでいるかもしれないのだ。

長老はそうした人々の存在を頭に入れて村の運営をしていかなければならない立場だ。
村長の息子であるルータスを思い出し、カインは嫌な気持ちになった。
人の情を感じさせない蛇のような目をした、自分の利益しか考えていない、あまり人間として尊敬できるところのない男だ。

妻も子供もいて、年齢は恐らくドルバインと同じぐらいだ。
それなのに、村長はまだ息子にその地位を譲る気がない。

親の目から見ても、相当問題があるのだろうとカインは推測した。

その日の夕食時、カインはさっそくアロナに村長から聞いた話を報告した。

「妬まれている可能性があるから、気を付けるようにと伝えに来てくれたのだと思うが、息子のルータスのことも気がかりだったのだと思う」

アロナは、ルータスの名前を聞くと、やはり嫌そうな顔をした。

「いつも町に遊びに行っているような人じゃなかったかしら。私たちの寄付金も一部、あの人が着服しているのではないかってフレアが噂していたわ。
カルビンが村の帳簿を確認に行って、マーラも見たそうよ。帳簿は合っていると思うけど、どこかで抜かれているかもしれないわね」

不正は多少あるものだと覚悟はしている。
村長の息子が親の地位にあぐらをかき、良い暮らしをするのも当然のことだと受け止めているが、それにしてもルータスの噂は酷いものばかりだ。

「次男に継がせたいところだろうが、そうなれば、長男のルータスが怒って何をしでかすかわからないと、村長がこぼしていたと聞いたこともあるな」

どこの家庭にも問題はあるものだ。
あまり楽しい話題ではなかったが、二人は話しているうちに食事を終え、さっさと寝支度に入った。
お湯を沸かし、体を洗ったアロナが寝室に入ると、そこにはカインが待っていた。
その手にはドルバインの股間の物をかたどった道具が握られている。

それは中が空洞になっており、カインの物に被せる仕様になっている。
根元に留め具のゴムがあり、カインはそれを装着すると、達することが出来なくなる。
寝取られ好きのカインは、他の男の物で達したあとのアロナを抱くのが好きなのだ。

「今夜は眠れると思ったのに……」

にこにこして寝台に座っているカインを見て、アロナは困ったように微笑んだ。



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