愛があってもやっぱり難しい

丸井竹

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4.訪れた貴族の女性

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粗末な寝台がぎしぎしと軋む足元で、カインは股間を晒し、四つん這いの状態でその上で行われる行為を食い入るように見つめている。

夫婦の寝室で行われる、あまりにも淫らな行為にアロナはまだ困惑気味で、ドルバインの体に組み敷かれながら、時々小さな声で嫌だと呻いた。
しかしその声は、ドルバインが唇を重ねれば止まってしまうし、胸をまさぐられれば、堪えきれない嬌声に変わってしまう。
なにより、抵抗らしい抵抗もせず、アロナは恥じらうように身をよじるばかりだ。

カインは二人の結合部分を後ろからも確認し、今にも舐めんばかりに近づいた。

「舐めるなよ。今日はお預けだ」

ドルバインの命令に、カインはすぐに床の上に戻り、四つん這いで舌を出す。
その腰は小刻みに震え、虚しい一人交尾の恰好になっている。

アロナは時折夫の恍惚とした表情を横目に見て、本当にこの行為が許されているのかどうか確かめた。
確かに特殊な性癖ではあるが、互いを思いやる気持ちがあるからこそ成り立つ関係であることを忘れたことはない。

夫が満足していることに安心し、アロナもようやく心ゆくまで肉体的な快感を貪り始める。
この関係に今ではアロナも満足しているが、最初にドルバインに抱かれた時は大変な覚悟が必要だった。

変態で気持ちの悪い太った中年男にしか見えず、夫のためとはいえ全身に鳥肌が立って止まらなかった。
ところが今は、全く違う風に感じている。
野盗に襲われた時も助けてくれたし、先ほどはルータスからも守ってくれた。

多少強引でも、紳士的で、その分厚く熱い手はアロナを大切に扱ってくれる。

「んっ……んっ……」

ドルバインがアロナの両足首を掴み、上に引き上げた。
あられもない恰好で、太い杭を打ち込まれ、アロナは眉根を寄せて甘い声を上げ続ける。

「カインにその顔を見せてやれ」

恥ずかしくて死にそうだが、カインの喜ぶ顔も見たくてたまらない。
アロナが横を向くと、恍惚とした表情のカインの姿があった。
その唇が語っている。

『きれいだ……アロナ』

肉体的な快楽を得ながら、心まで満たされ、アロナはカインに手を伸ばした。
その手に触れることの出来ないカインが苦しそうな息遣いで腰を振る。

深く奥を突かれ、アロナは大きく体をのけぞらせた。
ドルバインの髭に覆われた口がアロナの唇を奪う。ちくちくした刺激も気持ちが良い。
うっとりと目を閉じると、ドルバインが腰を震わせ、ゆっくり息を吐き出した。

急な仕事の前金がわりの交わりに、カインは大満足し、ドルバインはお代は払ったとばかりに、あっさり帰って行った。
寝台に横たわり、気だるい余韻に浸っていたアロナは、カインがドルバインの見送りに出ていくと、春先に予定していた仕事をどうやって人に頼もうかと考えた。

そうして諸々の準備を終え、二日後、アロナとカインは村を出てドルバインの別荘に向かった。


冬の終わりにきれいに掃除を終えて出てきたばかりの別荘は、雪解け水の音の中、眩しい春先の光の中で静かに二人の到着を待っていた。

「冬もきれいだけど、春先の別荘もいいわね」

庭先の地面にはやわらかな草が生え始め、別荘を囲む木々の枝には膨らんだつぼみがついている。
木立の中には、冬眠を終えた花リスの飛び回る姿もあった。

農家の春は忙しく、景色を楽しむどころではないが、別荘では優雅な時間を楽しむことが出来る。
別荘には既にドルバインが手配した召使たちが到着しているらしく、新鮮な空気を取り込むように扉は開いたままで、庭先に残っていたはずの雪も道の端に寄せられていた。

二人は馬を厩舎に入れ、荷物を下ろすと、並んで別荘の玄関に足を踏み入れた。

「遅いわよ!」

突然、鋭い女性の声が飛んできて、二人は飛ぶように離れて姿勢を正した。
玄関広間の中央に、毛皮のマントを着こんだ貴族の女性が立っていた。
派手な化粧をして、豪華な装飾品で全身を飾り立てている。

「え?!あ、あの……まさかナリア様ですか?」

二人は慌ててお辞儀をした。

「そうよ。誰もいないから勝手に入らせてもらったわ。うちの召使たちに雪かきまでさせたのよ」

突然やってきたくせに、二人の遅刻を責め始めた貴婦人に、面食らいながらも二人はさらに頭を下げる。

「す、すみません。あの、厨房に行ってきます。すぐに温かな飲み物を」

荷物を抱え、アロナが走って玄関広間を横切り厨房に向かった。
追いかけようとしたカインをナリアが呼び止めた。

「カイン、待ちなさい。あなたがカインよね?ドルバインに聞いているわ」

「は、はい……」

ナリアに呼び止められたカインを心配するようにアロナは、厨房に続く通路の手前で足を止めたが、用もないのにとどまって貴族の怒りを買うのも恐ろしい。
背後に聞き耳を立てながら、ゆっくり玄関広間を遠ざかる。

カインは困惑したように立っていた。
ナリアの背後には護衛らしい武装した二人の大男が立っている。
さらに二階から侍女と思われる女性達が三人おりてきて、荷物の整理が終わったとナリアに告げた。
この五人がナリアの連れてきた召使らしく、彼らはナリアの指示を待つように黙っている。

ナリアは、カインをじろじろ眺め、それから階段に向かって歩きだした。

「ついてきなさい」

ナリアの召使に取り囲まれるようにカインは二階に上がり、ナリアと共に客間に入った。
正面のソファにナリアが座り、その背後に屈強な男が二人立つ。

「調べはついているの。ドルバインの開催しているサロンで働いているそうね。あの……噂は本当なの?変態の集まりだって」

普通の人から見ればそうだろうが、ドルバインのことを変態だとは言いたくない。
それに人の性癖とは、それぞれが秘めておくものであり、了解も無しに公表されていいものではない。

相手が貴族とはいえ、他人の秘密を口には出せないとカインは口を固く閉ざし、わずかに下を向いた。

「あなたもそうなのでしょう?人妻ではないと出来ないとかなんとか」

ナリアが後ろの男達に指で合図をし、男達がカインの傍に近づいた。
何が始まるのかとカインは緊張で体を固くした。

無表情の大男二人がカインの脇にしゃがみこみ、一気にカインのズボンを引き下ろした。

「え?!」

大事なところが丸出しになり、カインは逃げようとしたが、大男の一人が上から押さえこんだ。

「おかしいわね。人妻が目の前にいるのに興奮していないじゃない」

ドルバインと真逆の性癖の持ち主であるカインは、ナリアの誤解に気づいたが、自分が妻を寝取られることが好きなのだと、わざわざ教える気にもなれず、顔を赤くして俯いた。

「失礼な男ね。私だって人妻よ?やっぱり嘘だったのね。いいわ。念のためにあれをお願い」

もう一人の男がカインの腰に何かを巻き付けた。
ひんやりとした感触に包まれ、カインは小さく飛び上がろうとしたが、その肩は既に大男に押さえ込まれている。

下腹部には、見慣れない物が取り付けられていた。
それは性器専用の拘束具だった。
ドルバインからアロナに贈られた男性器の模型に使われていたコアスライムの殻で作られており、柔らかく肌触りは良いのに、伸縮性がなく形崩れはしない丈夫なものだ。

「私の侍女たちに手を出されても困るから、この家で働く以上、それを付けてもらうわ。どうせ奥さんのことは抱けないのでしょう?抱けないなら、それも必要ないわよね」

一体何が起こっているのか、カインにはさっぱり理解出来なかったが、憧れの拘束具を付けられたことに興奮し、無言で頷いた。

ナリアの目からは、屈辱で震えているようにさえ見えていた。

「では、ここに滞在中はお願いね。うちの侍女たちは全員人妻だから」

その言葉は、カインが興奮するか試しているような声音だったが、カインのそこは少しも大きくならず、拘束具の中で小さくなって留まっていた。
思ったような反応を示さないカインに、ナリアは不審な顔をしたが、もう行っても良いと手を振った。

カインは恭しく頭を下げるとズボンを引き上げ、急いで部屋を飛び出すと、アロナのいる厨房に向かって駆けだした。

厨房では、お茶の用意を終えたアロナが、人数分のカップをお盆に並べていた。
飛び込んできたカインを振り返り、アロナは不審な顔をする。
カインは興奮したように顔を赤くして、扉の前で固まっている。

「どうしたの?」

カインは無言でズボンを膝まで下げた。
股間に見慣れないぴかぴかの器具がついている。
アロナは小走りに近づき、それを間近に見た。

それはコアスライムの殻で作られた男性器に見えた。
しかし、その形状はあまりにも小さい。
袋部分には実際にカインの物がおさまっているらしく、網目状のケースの中に柔らかな肉が見えた。
一番大きくなる部分については、もう拷問器具のようにしか思えない状態で蓋がされている。

「大きくならないじゃない……」

筒状の先に被さった網に触れると、それはやはり固く、先端が伸びないようになっている。

「痛くない?」

アロナがそっと先端の隙間を指で触れる。
柔らかな指の感触に、カインの物はたちまち固くなり、大きくなろうと拘束具の中で膨らみ始める。
しかしそれは出来ず、カインは苦痛の声を上げ、床に崩れ落ちた。

「大丈夫?カイン!」

カインは恍惚とした顔を上げた。

「アロナ……痛くて……苦しい」

その目から涙があふれる。アロナは怒りに拳を握りしめた。

「いくら貴族だからって人の夫にこんな勝手なことをするなんて、許せない!」

飛び出していこうとするアロナを、カインは素早く抱きしめ引き止めた。

「ち、違うよ!アロナ……最高だ!」

「は?」

アロナの目が点になる。
カインは感動で唇を震わせ、泣き出した。

「気持ちいい。痛くて、苦しくて、気持ち良い!君に触れたいのに触れられない、最高の気分だ。ものすごくじらされている。いろいろ誤解はあるのだけど、もうどうでもいいぐらい最高の気分だ。ずっと欲しかった。以前、仲間と酒場に行き、悪乗りで占い師の家に買い物に行かされた話をしただろう?その時に、こうしたおもちゃが売っていて、欲しかった話をしなかっただろうか?どうしよう。ナリア様もドルバイン様と同じ、俺にぴったりの性癖の方なのかもしれない」

カインの言葉の意味がよくわからず、アロナは首をひねる。

「そうなの?ちょっと、よくわからないけれど……うれしいの?その、きつそうだし、苦しそうなのに、気持ち良いの?」

乙女のように目を輝かせ、カインは力強く頷いた。

「すごく。気持ちが良い!」

複雑な表情でアロナは握っていた拳を開いた。

「あなたが……それで良いなら……文句は言わないけど……」

「相手は貴族なのだから、文句はいけない。俺は……大抵のことは我慢できるし、これに関しては喜びしか感じていないから大丈夫だ」

カインの言葉に、アロナはそれをどう理解したらいいのかと難しい顔をしたが、すぐに自分の仕事を思い出した。
お盆を取りに戻る。

「お茶が冷めちゃうから持っていくわね。浴室の点検や、食材の確認はしたけれど、部屋の準備はまだだからついでに聞いてくるわ」

「あ、ああ。気を付けてくれ。その……ナリア様が何を考えておられるのかわからないから」

アロナが厨房を出ていくと、カインは椅子に座り、ズボンの中に手を入れて自分の戒められている性器に触れた。
大きくなりたくてたまらないそこは、熱を持ち、何もしていないのに性欲が高まっていく。

おかげで、何の反応もなかった乳首までが熱を持ったように敏感になってきていた。
こんな状態で、アロナがドルバイン様に抱かれたりなんてしたら、その興奮はどうなってしまうのかと、カインは想像するだけで腰をふりたくなった。

しかしそれはナリアの意図としていることではないはずだ。急に心配になり、カインは甘美な痛みに耐えながら、よろよろと体を起こすと、アロナを追って厨房を出た。

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