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6.危険な遊び
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とりあえず初日は、その程度のごたごたでおさまった。
貴族のもてなしに慣れている二人は、なんとか二日目の朝も食堂に食事の用意をして護衛の男達にそれを知らせに行き、さらに追加の買出しのために午後から町に出かけた。
ナリアが何をしているのか、二人にはわからなかったが、彼らは客間と食堂、それから浴室ぐらいしか利用せず、春先の泥だらけの庭には出ようとしなかった。
ドルバイン不在のまま、三日目の夜が来た。
夕食の給仕を終えた二人は、厨房で二人だけの食事をとり、朝の仕込みを始めていた。
彼らが何日滞在するのかもわからず、アロナとカインは毎日の食材に頭を悩ませながらも、なんとか来客者たちの世話役を続けていた。
時々声をかけられることがあったが、それは常に侍女からカインへの質問で、部屋の備品の事、タオルや服の洗濯についてなど、侍女らがしなければならない仕事に関わることが主だった。
アロナはカインが連れて行かれると、少しだけ不快な気持ちになったが、なるべく何も考えないように努めていた。
「アロナ、先にお湯を使ってくれ。二階の浴室は俺が行くよ」
貞操帯のおかげで、カインは男扱いされていないのか、浴室の世話はカインが担当していた。
そこもアロナの納得いかない点だった。
厨房での仕事を終え、カインは二階に、そしてアロナは従業員用の浴室に向かった。
アロナが簡単にお湯を沸かし、体を洗っていると、上の階の浴室から水が跳ねる音が聞こえてきた。
さらに、女性達の楽しそうな声までしてくると、アロナは眉をひそめ上を見た。
二階の浴室の排水管は従業員用の浴室の隣を走っている。
アロナはなんとなく、嫌な気持ちになり、急いで浴室を出るとドレスを身につけ、ズボンまで履いて排水管に飛びついた。
二階のバルコニーを囲む柵に手をかけ、田舎育ちの運動神経で、手すりを支える柱の一本に片足を巻き付けると、一気に二階によじ登った。
窓のカーテンは開いたままで、灯りのついた室内の様子がくっきりと見えた。
室内にある家具のほとんどが壁際によせられ、中央に広いスペースが出来ている。
そこに、裸のカインが吊り下げられていた。
驚愕し、アロナはうっかり手すりから滑り落ちそうになった。
慌てて両手で石の手すりにしがみつき、アロナは体を回転させ、バルコニーの内側にお尻を落とした。
幸い室内の人々は吊り下げられたカインに夢中で、アロナが二階に侵入したことに気づいていなかった。
寄せられたカーテン裏に移動し、アロナは室内を覗き込んだ。
裸のカインの貞操帯が護衛のジーンによって外され、縮こまった中身がぽろりと顔を出した。
妻のアロナのものだというのに、女たちがカインのそれを覗き込んでいる。
こんな勝手が許されるわけがないと思いながらも、アロナは貴族の遊びを邪魔することも出来ず、声を殺して耳を澄ませた。
尖ったナリアの声が聞こえてくる。
「これだけ人妻がいるのに、少しも興奮していないじゃない。どういうことなの?」
ナリアに命じられ、侍女が嫌そうな顔をしながら、カインのそれを指でつついた。
「人妻でたたないにしても、おかしいでしょう?うちの侍女たちは美人ぞろいなのに」
カインは顔を赤くして俯いている。
「田舎臭い、ぶさいくな女が好きなのかしら?」
むっとしてアロナは鼻に皺を寄せた。
窓に手をかけ、カインにこれ以上酷いことをしたら許さないからと睨みつける。
貴族だったとしても、人の夫に勝手に手を出すなんて許されることではない。
ナリアがカインの前に立った。これ見よがしにふくよかな胸の谷間を強調してみせる。
戸惑ったようにカインは顔を背けている。
「カイン、上手に答えないと、そこを切り取ってしまうわよ」
護衛のドムがカインの横に立った。
「ドルバインは、どうしてあなたの奥さんなんかが良いのかしら?その理由を知っている?」
人妻が好きなのか、それともアロナが好きなのか、それを知りたいのかもしれない。
カインは困ったように首を横に振る。
「わ、わかりません。ドルバイン様に直接聞いてください。私には……」
カインは言葉を濁らせた。
ドルバインの性癖を知る者達は皆、口が堅い。自分達の性癖もまた隠しておくべきものだと知っているからであり、他人にそれを押し付けたり広めたりするようなことはしないのだ。
普通の人からみたら、人の妻に手を出す行為は略奪行為であり、国が禁じている不貞行為だと全員が理解している。
ドルバインの名誉のためにも、それを雇われている身で口にするわけにはいかなかった。
「鞭を取ってちょうだい」
ナリアの命令に、侍女の一人が素早く従った。
どこからともなく、馬に用いるような太い鞭を持ってきてナリアの手に渡す。
もう見ていられず、アロナは半開きの窓から室内に飛び込んだ。
「待ってください!私の夫に手を出さないで!」
室内にいた全員が驚きの表情でアロナを振り返ったが、カインだけが恐怖で真っ青になった。貴族に逆らえば、平民であるアロナもカインもすぐ殺されてしまう。
すぐに護衛のジーンがアロナを捕まえ、床に押し倒した。
「カイン!」
カインの両手は頭上で吊り上げられている。
「アロナ!」
ナリアは苛々と足を踏み鳴らした。
「一体どういう関係なの。これは!」
「カインを放してください!彼が何をしたというの?」
床に押さえ込まれながらも、アロナは必死に顔を上げ訴えた。
ナリアは椅子に座り、つま先で床をとんとんと叩いた。
「愛し合っている夫婦ですって?うそばっかり。ジーン、その子をやっちゃっていいわ。どうせ他の男達ともやりまくっているのでしょう?」
顔を赤くしてカインが怒りの声をあげた。
「やめてください!妻に手を出すな!」
ナリアに懇願し、すぐにアロナを押さえ込んでいるジーンに向かって叫ぶ。
仰向けにひっくり返されたアロナの上に、ジーンがのしかかり、ドレスの裾をまくりあげる。
「心配しなくても、彼は上手よ?彼女もすぐ気が変わるわ。あなたの前で喜んで彼に抱かれ始めたら、文句もいえないわよね?」
鞭を右手で振り、片手で軽く受け止めながら、ナリアはふとカインの役立たずな物を見た。
それは少しだけ元気になっている。
「いやっ!放して!」
アロナの抗議の声が聞こえた途端、それはまたぺちゃんと小さくなる。
「彼女は嫌がっている!お願いです!彼女を放してください!」
カインの怒りの声を聞き流し、ナリアは暴れるアロナに視線を向ける。
ジーンに押さえ込まれながらも、スカートをまくり上げられるのを阻止しようと手を伸ばして抵抗している。
「嫌がっていなければいいわけ?」
ちらりと視線を動かすと、カインのそこがまた少し大きくなる。
ずいぶんわかりやすい器官だとナリアは感心し、アロナに視線を戻した。
「いいわ。あなたの大事な夫、カインを解放してあげる。でも、ジーンかドム、どちらかと寝てもらうわ。そんなこと簡単でしょう?冬の間、お前達がどうやって稼いでいるか知っているわ。所詮、あなたは冬限定の売春婦よ」
かっとしたのは侮辱を受けたからではなかった。
ナリアは貧しい人々の暮らしをわかっていないのだ。
ドルバインの与えてくれる、カインの趣味と実益を兼ねた冬の仕事は最近のものであり、そうした仕事がない時は、冬でも川の水で採石場の石を洗っていた。
凍り付いた水面を割って、止まった流れから貴重な鉱石を拾うことだってしていたのだ。
種を買うために体を売ることだって珍しくない。
家畜が死んでも、何かを売る必要がある。
生きるために、女達は冬限定の娼婦として働きに出るのだ。色欲で遊びにいくように思われたくはない。それに、冬に行われる秘密の会も、生まれながらの性癖に苦しむ人たちがそれを仲間達で満たしあうための会であり、その苦しみを知りもしない人にばかにされたくもない。
まさに、何も知らないくせに口を出すなといった気持ちで、アロナは表情を引き締めた。
「お金を頂けるのであれば、それに見合う対価を頂けるなら、もちろん引き受けます。私たちはそのためにきていますから、しかし今強要されていることは、与えられた業務の範囲外です。私たちの雇い主であるドルバイン様に、確認を取ってください!私たちは、ドルバイン様に命じられ、お客様方のお世話を命じられているだけなのですから!」
アロナは毅然と顔を上げ、ナリアを睨みつけた。
殺されてしまうのではないかとカインは恐れ、縛られている手首を引っ張りアロナのところに駆けつけようと絨毯を裸足の足で蹴り上げた。
その時、下から大きな物音が上がってきた。
扉が開き、濡れた外套を身につけた、泥だらけの巨体が入ってきた。
「何事だ。これは!」
割れるような声が響き渡る。
「ドルバイン様!」
叫んだのはカインだった。
アロナは飛び込んできたドルバインを目にした途端、ほっとして体の力を抜いた。
ナリアは座ったまま、護衛の男達を下がらせ、侍女たちも逃げるようにナリアの後ろに回った。
ドルバインがすぐにアロナを助け起こし、短剣でカインの手首を縛るロープを切った。
二人の忠実な召使が抱き合って座り込むと、ドルバインはナリアの前に出た。
「これは一体どういうことだ?お前は何をしに来た」
怒りに顔を赤くして詰め寄ってきた元夫を見上げ、ナリアは肘あてに置いた拳を震わせた。
「なぜ……私ではなく、その女なのです?人妻が好きだと言いながら、私には手を出さない。それに、そんなの説得力ないわ。結婚してから、数えられるぐらいには私に触れてきたはず。
あなたはいつも私を排除しようとする。なぜ私ではないの!」
愛なのか、嫉妬なのか、一体何がナリアをこの行動に駆り立てているのか、その場にいる誰もが理解出来なかった。
ドルバインも困惑の表情だった。
なぜ今更?そんな疑問ばかりが頭に浮かんでいた。
「お前の夫はどこだ?お前は、普通の夫と結婚し、幸せに暮らしているはずだろう?」
ドルバインの言葉に、ナリアの目から涙が溢れでた。
貴族のもてなしに慣れている二人は、なんとか二日目の朝も食堂に食事の用意をして護衛の男達にそれを知らせに行き、さらに追加の買出しのために午後から町に出かけた。
ナリアが何をしているのか、二人にはわからなかったが、彼らは客間と食堂、それから浴室ぐらいしか利用せず、春先の泥だらけの庭には出ようとしなかった。
ドルバイン不在のまま、三日目の夜が来た。
夕食の給仕を終えた二人は、厨房で二人だけの食事をとり、朝の仕込みを始めていた。
彼らが何日滞在するのかもわからず、アロナとカインは毎日の食材に頭を悩ませながらも、なんとか来客者たちの世話役を続けていた。
時々声をかけられることがあったが、それは常に侍女からカインへの質問で、部屋の備品の事、タオルや服の洗濯についてなど、侍女らがしなければならない仕事に関わることが主だった。
アロナはカインが連れて行かれると、少しだけ不快な気持ちになったが、なるべく何も考えないように努めていた。
「アロナ、先にお湯を使ってくれ。二階の浴室は俺が行くよ」
貞操帯のおかげで、カインは男扱いされていないのか、浴室の世話はカインが担当していた。
そこもアロナの納得いかない点だった。
厨房での仕事を終え、カインは二階に、そしてアロナは従業員用の浴室に向かった。
アロナが簡単にお湯を沸かし、体を洗っていると、上の階の浴室から水が跳ねる音が聞こえてきた。
さらに、女性達の楽しそうな声までしてくると、アロナは眉をひそめ上を見た。
二階の浴室の排水管は従業員用の浴室の隣を走っている。
アロナはなんとなく、嫌な気持ちになり、急いで浴室を出るとドレスを身につけ、ズボンまで履いて排水管に飛びついた。
二階のバルコニーを囲む柵に手をかけ、田舎育ちの運動神経で、手すりを支える柱の一本に片足を巻き付けると、一気に二階によじ登った。
窓のカーテンは開いたままで、灯りのついた室内の様子がくっきりと見えた。
室内にある家具のほとんどが壁際によせられ、中央に広いスペースが出来ている。
そこに、裸のカインが吊り下げられていた。
驚愕し、アロナはうっかり手すりから滑り落ちそうになった。
慌てて両手で石の手すりにしがみつき、アロナは体を回転させ、バルコニーの内側にお尻を落とした。
幸い室内の人々は吊り下げられたカインに夢中で、アロナが二階に侵入したことに気づいていなかった。
寄せられたカーテン裏に移動し、アロナは室内を覗き込んだ。
裸のカインの貞操帯が護衛のジーンによって外され、縮こまった中身がぽろりと顔を出した。
妻のアロナのものだというのに、女たちがカインのそれを覗き込んでいる。
こんな勝手が許されるわけがないと思いながらも、アロナは貴族の遊びを邪魔することも出来ず、声を殺して耳を澄ませた。
尖ったナリアの声が聞こえてくる。
「これだけ人妻がいるのに、少しも興奮していないじゃない。どういうことなの?」
ナリアに命じられ、侍女が嫌そうな顔をしながら、カインのそれを指でつついた。
「人妻でたたないにしても、おかしいでしょう?うちの侍女たちは美人ぞろいなのに」
カインは顔を赤くして俯いている。
「田舎臭い、ぶさいくな女が好きなのかしら?」
むっとしてアロナは鼻に皺を寄せた。
窓に手をかけ、カインにこれ以上酷いことをしたら許さないからと睨みつける。
貴族だったとしても、人の夫に勝手に手を出すなんて許されることではない。
ナリアがカインの前に立った。これ見よがしにふくよかな胸の谷間を強調してみせる。
戸惑ったようにカインは顔を背けている。
「カイン、上手に答えないと、そこを切り取ってしまうわよ」
護衛のドムがカインの横に立った。
「ドルバインは、どうしてあなたの奥さんなんかが良いのかしら?その理由を知っている?」
人妻が好きなのか、それともアロナが好きなのか、それを知りたいのかもしれない。
カインは困ったように首を横に振る。
「わ、わかりません。ドルバイン様に直接聞いてください。私には……」
カインは言葉を濁らせた。
ドルバインの性癖を知る者達は皆、口が堅い。自分達の性癖もまた隠しておくべきものだと知っているからであり、他人にそれを押し付けたり広めたりするようなことはしないのだ。
普通の人からみたら、人の妻に手を出す行為は略奪行為であり、国が禁じている不貞行為だと全員が理解している。
ドルバインの名誉のためにも、それを雇われている身で口にするわけにはいかなかった。
「鞭を取ってちょうだい」
ナリアの命令に、侍女の一人が素早く従った。
どこからともなく、馬に用いるような太い鞭を持ってきてナリアの手に渡す。
もう見ていられず、アロナは半開きの窓から室内に飛び込んだ。
「待ってください!私の夫に手を出さないで!」
室内にいた全員が驚きの表情でアロナを振り返ったが、カインだけが恐怖で真っ青になった。貴族に逆らえば、平民であるアロナもカインもすぐ殺されてしまう。
すぐに護衛のジーンがアロナを捕まえ、床に押し倒した。
「カイン!」
カインの両手は頭上で吊り上げられている。
「アロナ!」
ナリアは苛々と足を踏み鳴らした。
「一体どういう関係なの。これは!」
「カインを放してください!彼が何をしたというの?」
床に押さえ込まれながらも、アロナは必死に顔を上げ訴えた。
ナリアは椅子に座り、つま先で床をとんとんと叩いた。
「愛し合っている夫婦ですって?うそばっかり。ジーン、その子をやっちゃっていいわ。どうせ他の男達ともやりまくっているのでしょう?」
顔を赤くしてカインが怒りの声をあげた。
「やめてください!妻に手を出すな!」
ナリアに懇願し、すぐにアロナを押さえ込んでいるジーンに向かって叫ぶ。
仰向けにひっくり返されたアロナの上に、ジーンがのしかかり、ドレスの裾をまくりあげる。
「心配しなくても、彼は上手よ?彼女もすぐ気が変わるわ。あなたの前で喜んで彼に抱かれ始めたら、文句もいえないわよね?」
鞭を右手で振り、片手で軽く受け止めながら、ナリアはふとカインの役立たずな物を見た。
それは少しだけ元気になっている。
「いやっ!放して!」
アロナの抗議の声が聞こえた途端、それはまたぺちゃんと小さくなる。
「彼女は嫌がっている!お願いです!彼女を放してください!」
カインの怒りの声を聞き流し、ナリアは暴れるアロナに視線を向ける。
ジーンに押さえ込まれながらも、スカートをまくり上げられるのを阻止しようと手を伸ばして抵抗している。
「嫌がっていなければいいわけ?」
ちらりと視線を動かすと、カインのそこがまた少し大きくなる。
ずいぶんわかりやすい器官だとナリアは感心し、アロナに視線を戻した。
「いいわ。あなたの大事な夫、カインを解放してあげる。でも、ジーンかドム、どちらかと寝てもらうわ。そんなこと簡単でしょう?冬の間、お前達がどうやって稼いでいるか知っているわ。所詮、あなたは冬限定の売春婦よ」
かっとしたのは侮辱を受けたからではなかった。
ナリアは貧しい人々の暮らしをわかっていないのだ。
ドルバインの与えてくれる、カインの趣味と実益を兼ねた冬の仕事は最近のものであり、そうした仕事がない時は、冬でも川の水で採石場の石を洗っていた。
凍り付いた水面を割って、止まった流れから貴重な鉱石を拾うことだってしていたのだ。
種を買うために体を売ることだって珍しくない。
家畜が死んでも、何かを売る必要がある。
生きるために、女達は冬限定の娼婦として働きに出るのだ。色欲で遊びにいくように思われたくはない。それに、冬に行われる秘密の会も、生まれながらの性癖に苦しむ人たちがそれを仲間達で満たしあうための会であり、その苦しみを知りもしない人にばかにされたくもない。
まさに、何も知らないくせに口を出すなといった気持ちで、アロナは表情を引き締めた。
「お金を頂けるのであれば、それに見合う対価を頂けるなら、もちろん引き受けます。私たちはそのためにきていますから、しかし今強要されていることは、与えられた業務の範囲外です。私たちの雇い主であるドルバイン様に、確認を取ってください!私たちは、ドルバイン様に命じられ、お客様方のお世話を命じられているだけなのですから!」
アロナは毅然と顔を上げ、ナリアを睨みつけた。
殺されてしまうのではないかとカインは恐れ、縛られている手首を引っ張りアロナのところに駆けつけようと絨毯を裸足の足で蹴り上げた。
その時、下から大きな物音が上がってきた。
扉が開き、濡れた外套を身につけた、泥だらけの巨体が入ってきた。
「何事だ。これは!」
割れるような声が響き渡る。
「ドルバイン様!」
叫んだのはカインだった。
アロナは飛び込んできたドルバインを目にした途端、ほっとして体の力を抜いた。
ナリアは座ったまま、護衛の男達を下がらせ、侍女たちも逃げるようにナリアの後ろに回った。
ドルバインがすぐにアロナを助け起こし、短剣でカインの手首を縛るロープを切った。
二人の忠実な召使が抱き合って座り込むと、ドルバインはナリアの前に出た。
「これは一体どういうことだ?お前は何をしに来た」
怒りに顔を赤くして詰め寄ってきた元夫を見上げ、ナリアは肘あてに置いた拳を震わせた。
「なぜ……私ではなく、その女なのです?人妻が好きだと言いながら、私には手を出さない。それに、そんなの説得力ないわ。結婚してから、数えられるぐらいには私に触れてきたはず。
あなたはいつも私を排除しようとする。なぜ私ではないの!」
愛なのか、嫉妬なのか、一体何がナリアをこの行動に駆り立てているのか、その場にいる誰もが理解出来なかった。
ドルバインも困惑の表情だった。
なぜ今更?そんな疑問ばかりが頭に浮かんでいた。
「お前の夫はどこだ?お前は、普通の夫と結婚し、幸せに暮らしているはずだろう?」
ドルバインの言葉に、ナリアの目から涙が溢れでた。
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