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34.幸福な昼下がり
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斜面を覆う緑を窓から眺め、アロナは幸福な溜息をついた。
その胸にはカインが張り付いており、まだ痙攣するように腰をぴくりぴくりと動かしている。
ドルバイン主催の秘密の会の全てが終了し、別荘の管理人であるアロナとカインが村に戻ってきてから、もう半年近くが経っている。
今年の帰宅直後は、少しいつもとは仕様がかわり、貞操帯を外しても、カインの物がすぐには大きくならなかった。アロナはどうしようかと焦ったが、カインは、その小さく縮こまったものを見て、その惨めさに泣いて喜んだ。貞操帯でしつけられた通り、最愛の妻を抱きたいのに物理的に抱けない体にされたのだと感じ、さらなる興奮が襲ってきたのだ。
アロナには理解不能だったが、ドルバインによって完全に妻を奪われたようで最高に気持ちが良いのだと、カインはアロナにその興奮の理由を力説した。
しかしその興奮で、すぐにカインの物は復活し、カインは我慢できずにアロナの体に飛びついた。
カインは秘密の会でお預けされていた反動でアロナを抱き続け、農民としての日常が戻ってくるまでに数日がかかった。それはアロナにとって、秘密の会の延長のようなもので、甘い拷問期間が終わるまでアロナは寝室に閉じ込められることになったのだ。
そんな走り出しで迎えた春は、やはりいつも通りという感じにはいかなかった。
村は特別法令地区に指定され、ドルバインの指揮のもと、あらゆる変化が波のように押し寄せた。
村人たちの生活が劇的に変わるわけではなかったが、観光客用の宿や施設が増え、そこを管理する人や村を守るための警備兵が必要になった。
特別法令地区を利用する人の審査をするための新しい関所が建設され、国からの援助金もあっという間に底をつきかけたが、同時に観光客が一気に増え始めた。
仕事が出来ればお金も落ちる。
娼館に働きに行っていた村の女達が帰って来て、裸で行進したぐらいで、出稼ぎに行く必要がなくなるほど稼げるようになったのだから、もっと早く裸で行進するべきだったとさえ言いだした。
それは楽しい変化であり、裸の行進に加わった村の全てが特別法令地区の恩恵を受けた。
増えた仕事のおかげで出稼ぎはなくなり、金持ちの落とす金のおかげで村の予算も増えた。
領主の保護もあり、ドルバインも法律的な問題に目を配っていたため、村は順調に発展した。
無力な人々は、訓練された羊のように従順に、新しい時代に適応していったのだ。
そんな、あっという間の半年が過ぎ、収穫の時期が迫っていた。
窓からそれを眺めていたアロナは、胸をしゃぶっているカインを見おろし、その頭を優しく抱きしめた。
「今度の冬は何もないと良いわね」
赤くなった乳首から口を離し、カインは優しく笑った。
「そうだね。でもきっと何かあっても乗り越えられるよ」
カインの幸せそうな顔に満足し、アロナはカインの頬を抱いて唇を重ねた。
甘い夫婦の時間だったが、それは束の間の休息だった。
二人は村長の補佐役であり、寝取り寝取られ村の大事な役員でもあった。
親友夫婦に頼み込んで村長は代わってもらったが、無関係でもいられなかった。
農作業後の書類仕事に追われ、なかなか甘い時間も取れず、欲求不満の年になったのだ。
そんな中での久々の逢瀬だったが、カインには少し刺激が足りなかった。
「そろそろ来るかな……」
「誰が?」
全裸のアロナは、驚いて寝台下の服に手を伸ばそうとする。
「ドルバイン様に手紙を書いた。愛し合っているのに、冬にしか会えないのはおかしくないかと思ってね」
夫のくせに何をしているのかとアロナはカインを見返したが、夫は幸せそうに微笑んでいる。未だにこの夫の特殊な性癖の全てを理解出来ないでいるアロナだったが、カインが本心からそれを望んでいるのだとわかると、困った人ねと微笑んだ。
「ドルバイン様だってお忙しいのに……」
「愛する女性のためなら、多少無理をしてでも時間を作るよ」
「手紙になんて書いたの?」
嫌な予感がして、アロナは目を細めた。
「夫のいないところで二人きりで会いたいと書いたよ」
人妻好きのドルバインを誘いだすには最高の言葉に、アロナはカインに本当にそれでいいのかと、疑うように顔をしかめた。
幸福な微笑みを崩すことなく、カインはアロナの唇に柔らかく口づけをした。
「俺の欲望を叶えてくれる君と、ドルバイン様を心から愛している」
その言葉は、思いがけず深くアロナの心に染みこんだ。
世間で常識とされていることが誰にでもあてはまるわけではない。
自分だけの常識にとらわれてしまえば、その常識に当てはまらない人を切り捨てなければならなくなる。
多用な考えをもつ人々とうまく関係を築くには、相手を受け入れ、理解しようとする姿勢を持つことだ。
この村は特殊な性癖を持つ人々の存在を受け入れ、心理的な成長を促されてきた。
それは驚くべきことに、村の発展に繋がり多くの人々が移住してきている。
これからも様々な性癖の人を受け入れることになるかもしれない。
多くの問題が待ち構えている気がするが、その根底に愛があれば、必ずその先に道があると信じることが出来る。
カインの愛の中にその答を見たような気がして、アロナは感動して目を潤ませた。
カインの熱い眼差しに応え、舌を絡めて深く唇を重ねる。
「私も……。あなたも……ドルバイン様も愛している」
丁度良いタイミングで扉が鳴った。
カインが飛び起き、玄関に客を迎えに行く。
アロナは衣装棚から少し上質なドレスを引っ張り出し、急いで着替え始める。
「ドルバイン様!」
夫の歓喜の声が聞こえ、ドルバインの大きな気配が家に入り込んできた。
足音がしたと思った時には寝室の扉が開き、頭の禿げあがった赤ら顔の巨漢がそこに立っていた。
顔の半分は髭で覆われ、太い眉の下に、鋭い灰色の目が光っている。
腕や足は筋肉がついて逞しく見えるが、お腹は出ていて、ずんぐりとした体形だ。
襟もとからも胸毛が覗き、手の甲にまでびっしり毛が生えている。
ナリアが野獣のようなと表現したが、それは正確な表現ではないとアロナは思った。
凶悪な野獣に見えるが、その瞳に宿る知性は、高潔な人格であることを証明している。
にこりともしないのに、その眼差しは温かく、寡黙なのにその手は雄弁で、愛情深くアロナに触れる。
「久しぶりだな」
うっとりとその声音に耳を傾け、アロナは頬を染めてドルバインを見上げた。
その後ろでカインが二人の姿に見惚れている。
最愛の妻と身分の高い男が連れ立って出かけていく。
身分もなく、力もないカインは置いて行かれ、妻が何をしているのか想像するばかりだ。
その興奮に、カインはもじもじと腰を動かしている。
それを振り返り、ドルバインが箱を取り出した。
「最新の物を持ってきた。身につけたいか?」
カインが箱に飛びつき、蓋を開ける。
コアスライムの殻で出来た最新の男性用貞操帯が、小さなクッションの上におさめられていた。
大喜びで下着を下ろし始めたカインをアロナが心配そうに見守る。
黄金の鍵のついたその筒はぴたりとカインの物に張り付き、カインは鎖の付いたその鍵をドルバインに差し出した。
「お願いします」
喜びに目を輝かせる夫に見送られ、アロナはドルバインの腕に抱かれて外に出た。
馬に乗せられ、アロナが運ばれた先は、いつものドルバインの別荘だった。
冬の秘密の会に備え、秋から冬にかけては頻繁に屋敷の手入れに訪れるが、それが終われば、月に一度程度しか足を運ばない場所だった。
まだ草が枯れる時期ではないが、その庭先はきれいに手入れされ、花壇にも色とりどりの花が咲いている。
管理人はアロナとカインだが、ドルバインも時々訪れて、召使たちに家の手入れをさせているのだ。
馬を厩舎に入れ、戻ってきたドルバインは、待たせていたアロナの腰を引き寄せた。
「使用人は全員返した。今日は二人だけだが、大丈夫か?」
夫と離れることに不安を覚えるアロナを気遣って、ドルバインが声をかける。
その優しさに、アロナは頬を染めてうれしそうに頷いた。
「あの手紙はカインが勝手に出したものだろう。夫のいないところで会いたいなどと、お前が口にするわけがない」
「それを確かめる前に、私をここに連れてきたのですか?」
二人きりになることをアロナが断る可能性だってあったはずだ。
「お前に断られるのなら……せめて誰にも見られないところが良い」
その気弱な発言に、アロナは驚いた。どんなに強面で、髭で顔を半分隠していたとしても、最愛の女性に拒まれる痛みを隠しきることは難しい。
熱くなる目元や、込み上げる嗚咽を誰かに見られることを、ドルバインは恐れたのだ。
「そんな……私が断るなんてするわけがありません。夫と離れることには確かに慣れていませんが……でも……ドルバイン様を拒絶することなんてありません」
カインには簡単に出来る愛情表現を、ドルバインにもしていいものかわからず、アロナはおずおずとドルバインの体に甘えるように体を寄せた。
丸い腹に少し押し返されたが、その背中をドルバインの大きな腕が抱きしめた。
「俺は醜くないか?」
アロナに対してだけはどうしても気になってしまう。
求婚を快く受けてくれたナリアにさえ拒絶された痛みは、密かな恐れとしてドルバインの心に棘のように残っていた。
アロナは顔を上げ、つま先立ちになってドルバインの髭の中に唇を押し込んだ。
「ドルバイン様は、全部素敵です。そろそろ最初の頃に私が言ったことは忘れてください。それに、私だって心配になります。ドルバイン様のお屋敷にはきれいな女性達ばかり訪ねてこられるので、私は……いつか捨てられてしまいそうです」
いつも自信満々で元気なアロナの女性らしい一面に、ドルバインも驚き、その体を抱き上げた。
「その心配は不要だ。お前のような女が二人といるわけがない。夫を愛しすぎているところが、俺の胸を抉っている。それも心地良い。お前の全てが……好ましい」
饒舌な方ではないため、ドルバインは顔を赤くして歩き出した。
ドルバインの腕の中から、その顔を見上げ、アロナは黙ってその肩に顔を埋める。
幸福な二人の姿が屋敷の中に消えると、光の降り注ぐ中庭には静寂が訪れた。
その頃、カインは一人、自宅の寝室で幸福な妄想に浸っていた。
毛布の下、カインは股間を締め付ける装置だけを身につけている。
実際の物より小さく造られているその装置は、絶妙な痛みをカインにもたらし、カインは小刻みに震え、甘いうめき声を上げている。
閉ざされた瞼の裏には、最愛の妻と敬愛するドルバインの姿がある。
二人は豪華な寝室で、愛を語り合い、寝台に横たわる。
その姿は神々しいほど美しく、カインはただただその姿に見惚れている。
夫でありながら触れられない妻のことを想い、その体を存分に味わっているドルバインの姿を思い描く。シーツの上で腰が小刻みに動き出す。
その部屋の侵入者は、カーテンの隙間から差し込む柔らかな日差しだけだ。
吐息さえ聞こえる静かな寝室内に、カインの腰の動きに合わせ、毛布が擦れるかすかな音だけが聞こえていた。
その胸にはカインが張り付いており、まだ痙攣するように腰をぴくりぴくりと動かしている。
ドルバイン主催の秘密の会の全てが終了し、別荘の管理人であるアロナとカインが村に戻ってきてから、もう半年近くが経っている。
今年の帰宅直後は、少しいつもとは仕様がかわり、貞操帯を外しても、カインの物がすぐには大きくならなかった。アロナはどうしようかと焦ったが、カインは、その小さく縮こまったものを見て、その惨めさに泣いて喜んだ。貞操帯でしつけられた通り、最愛の妻を抱きたいのに物理的に抱けない体にされたのだと感じ、さらなる興奮が襲ってきたのだ。
アロナには理解不能だったが、ドルバインによって完全に妻を奪われたようで最高に気持ちが良いのだと、カインはアロナにその興奮の理由を力説した。
しかしその興奮で、すぐにカインの物は復活し、カインは我慢できずにアロナの体に飛びついた。
カインは秘密の会でお預けされていた反動でアロナを抱き続け、農民としての日常が戻ってくるまでに数日がかかった。それはアロナにとって、秘密の会の延長のようなもので、甘い拷問期間が終わるまでアロナは寝室に閉じ込められることになったのだ。
そんな走り出しで迎えた春は、やはりいつも通りという感じにはいかなかった。
村は特別法令地区に指定され、ドルバインの指揮のもと、あらゆる変化が波のように押し寄せた。
村人たちの生活が劇的に変わるわけではなかったが、観光客用の宿や施設が増え、そこを管理する人や村を守るための警備兵が必要になった。
特別法令地区を利用する人の審査をするための新しい関所が建設され、国からの援助金もあっという間に底をつきかけたが、同時に観光客が一気に増え始めた。
仕事が出来ればお金も落ちる。
娼館に働きに行っていた村の女達が帰って来て、裸で行進したぐらいで、出稼ぎに行く必要がなくなるほど稼げるようになったのだから、もっと早く裸で行進するべきだったとさえ言いだした。
それは楽しい変化であり、裸の行進に加わった村の全てが特別法令地区の恩恵を受けた。
増えた仕事のおかげで出稼ぎはなくなり、金持ちの落とす金のおかげで村の予算も増えた。
領主の保護もあり、ドルバインも法律的な問題に目を配っていたため、村は順調に発展した。
無力な人々は、訓練された羊のように従順に、新しい時代に適応していったのだ。
そんな、あっという間の半年が過ぎ、収穫の時期が迫っていた。
窓からそれを眺めていたアロナは、胸をしゃぶっているカインを見おろし、その頭を優しく抱きしめた。
「今度の冬は何もないと良いわね」
赤くなった乳首から口を離し、カインは優しく笑った。
「そうだね。でもきっと何かあっても乗り越えられるよ」
カインの幸せそうな顔に満足し、アロナはカインの頬を抱いて唇を重ねた。
甘い夫婦の時間だったが、それは束の間の休息だった。
二人は村長の補佐役であり、寝取り寝取られ村の大事な役員でもあった。
親友夫婦に頼み込んで村長は代わってもらったが、無関係でもいられなかった。
農作業後の書類仕事に追われ、なかなか甘い時間も取れず、欲求不満の年になったのだ。
そんな中での久々の逢瀬だったが、カインには少し刺激が足りなかった。
「そろそろ来るかな……」
「誰が?」
全裸のアロナは、驚いて寝台下の服に手を伸ばそうとする。
「ドルバイン様に手紙を書いた。愛し合っているのに、冬にしか会えないのはおかしくないかと思ってね」
夫のくせに何をしているのかとアロナはカインを見返したが、夫は幸せそうに微笑んでいる。未だにこの夫の特殊な性癖の全てを理解出来ないでいるアロナだったが、カインが本心からそれを望んでいるのだとわかると、困った人ねと微笑んだ。
「ドルバイン様だってお忙しいのに……」
「愛する女性のためなら、多少無理をしてでも時間を作るよ」
「手紙になんて書いたの?」
嫌な予感がして、アロナは目を細めた。
「夫のいないところで二人きりで会いたいと書いたよ」
人妻好きのドルバインを誘いだすには最高の言葉に、アロナはカインに本当にそれでいいのかと、疑うように顔をしかめた。
幸福な微笑みを崩すことなく、カインはアロナの唇に柔らかく口づけをした。
「俺の欲望を叶えてくれる君と、ドルバイン様を心から愛している」
その言葉は、思いがけず深くアロナの心に染みこんだ。
世間で常識とされていることが誰にでもあてはまるわけではない。
自分だけの常識にとらわれてしまえば、その常識に当てはまらない人を切り捨てなければならなくなる。
多用な考えをもつ人々とうまく関係を築くには、相手を受け入れ、理解しようとする姿勢を持つことだ。
この村は特殊な性癖を持つ人々の存在を受け入れ、心理的な成長を促されてきた。
それは驚くべきことに、村の発展に繋がり多くの人々が移住してきている。
これからも様々な性癖の人を受け入れることになるかもしれない。
多くの問題が待ち構えている気がするが、その根底に愛があれば、必ずその先に道があると信じることが出来る。
カインの愛の中にその答を見たような気がして、アロナは感動して目を潤ませた。
カインの熱い眼差しに応え、舌を絡めて深く唇を重ねる。
「私も……。あなたも……ドルバイン様も愛している」
丁度良いタイミングで扉が鳴った。
カインが飛び起き、玄関に客を迎えに行く。
アロナは衣装棚から少し上質なドレスを引っ張り出し、急いで着替え始める。
「ドルバイン様!」
夫の歓喜の声が聞こえ、ドルバインの大きな気配が家に入り込んできた。
足音がしたと思った時には寝室の扉が開き、頭の禿げあがった赤ら顔の巨漢がそこに立っていた。
顔の半分は髭で覆われ、太い眉の下に、鋭い灰色の目が光っている。
腕や足は筋肉がついて逞しく見えるが、お腹は出ていて、ずんぐりとした体形だ。
襟もとからも胸毛が覗き、手の甲にまでびっしり毛が生えている。
ナリアが野獣のようなと表現したが、それは正確な表現ではないとアロナは思った。
凶悪な野獣に見えるが、その瞳に宿る知性は、高潔な人格であることを証明している。
にこりともしないのに、その眼差しは温かく、寡黙なのにその手は雄弁で、愛情深くアロナに触れる。
「久しぶりだな」
うっとりとその声音に耳を傾け、アロナは頬を染めてドルバインを見上げた。
その後ろでカインが二人の姿に見惚れている。
最愛の妻と身分の高い男が連れ立って出かけていく。
身分もなく、力もないカインは置いて行かれ、妻が何をしているのか想像するばかりだ。
その興奮に、カインはもじもじと腰を動かしている。
それを振り返り、ドルバインが箱を取り出した。
「最新の物を持ってきた。身につけたいか?」
カインが箱に飛びつき、蓋を開ける。
コアスライムの殻で出来た最新の男性用貞操帯が、小さなクッションの上におさめられていた。
大喜びで下着を下ろし始めたカインをアロナが心配そうに見守る。
黄金の鍵のついたその筒はぴたりとカインの物に張り付き、カインは鎖の付いたその鍵をドルバインに差し出した。
「お願いします」
喜びに目を輝かせる夫に見送られ、アロナはドルバインの腕に抱かれて外に出た。
馬に乗せられ、アロナが運ばれた先は、いつものドルバインの別荘だった。
冬の秘密の会に備え、秋から冬にかけては頻繁に屋敷の手入れに訪れるが、それが終われば、月に一度程度しか足を運ばない場所だった。
まだ草が枯れる時期ではないが、その庭先はきれいに手入れされ、花壇にも色とりどりの花が咲いている。
管理人はアロナとカインだが、ドルバインも時々訪れて、召使たちに家の手入れをさせているのだ。
馬を厩舎に入れ、戻ってきたドルバインは、待たせていたアロナの腰を引き寄せた。
「使用人は全員返した。今日は二人だけだが、大丈夫か?」
夫と離れることに不安を覚えるアロナを気遣って、ドルバインが声をかける。
その優しさに、アロナは頬を染めてうれしそうに頷いた。
「あの手紙はカインが勝手に出したものだろう。夫のいないところで会いたいなどと、お前が口にするわけがない」
「それを確かめる前に、私をここに連れてきたのですか?」
二人きりになることをアロナが断る可能性だってあったはずだ。
「お前に断られるのなら……せめて誰にも見られないところが良い」
その気弱な発言に、アロナは驚いた。どんなに強面で、髭で顔を半分隠していたとしても、最愛の女性に拒まれる痛みを隠しきることは難しい。
熱くなる目元や、込み上げる嗚咽を誰かに見られることを、ドルバインは恐れたのだ。
「そんな……私が断るなんてするわけがありません。夫と離れることには確かに慣れていませんが……でも……ドルバイン様を拒絶することなんてありません」
カインには簡単に出来る愛情表現を、ドルバインにもしていいものかわからず、アロナはおずおずとドルバインの体に甘えるように体を寄せた。
丸い腹に少し押し返されたが、その背中をドルバインの大きな腕が抱きしめた。
「俺は醜くないか?」
アロナに対してだけはどうしても気になってしまう。
求婚を快く受けてくれたナリアにさえ拒絶された痛みは、密かな恐れとしてドルバインの心に棘のように残っていた。
アロナは顔を上げ、つま先立ちになってドルバインの髭の中に唇を押し込んだ。
「ドルバイン様は、全部素敵です。そろそろ最初の頃に私が言ったことは忘れてください。それに、私だって心配になります。ドルバイン様のお屋敷にはきれいな女性達ばかり訪ねてこられるので、私は……いつか捨てられてしまいそうです」
いつも自信満々で元気なアロナの女性らしい一面に、ドルバインも驚き、その体を抱き上げた。
「その心配は不要だ。お前のような女が二人といるわけがない。夫を愛しすぎているところが、俺の胸を抉っている。それも心地良い。お前の全てが……好ましい」
饒舌な方ではないため、ドルバインは顔を赤くして歩き出した。
ドルバインの腕の中から、その顔を見上げ、アロナは黙ってその肩に顔を埋める。
幸福な二人の姿が屋敷の中に消えると、光の降り注ぐ中庭には静寂が訪れた。
その頃、カインは一人、自宅の寝室で幸福な妄想に浸っていた。
毛布の下、カインは股間を締め付ける装置だけを身につけている。
実際の物より小さく造られているその装置は、絶妙な痛みをカインにもたらし、カインは小刻みに震え、甘いうめき声を上げている。
閉ざされた瞼の裏には、最愛の妻と敬愛するドルバインの姿がある。
二人は豪華な寝室で、愛を語り合い、寝台に横たわる。
その姿は神々しいほど美しく、カインはただただその姿に見惚れている。
夫でありながら触れられない妻のことを想い、その体を存分に味わっているドルバインの姿を思い描く。シーツの上で腰が小刻みに動き出す。
その部屋の侵入者は、カーテンの隙間から差し込む柔らかな日差しだけだ。
吐息さえ聞こえる静かな寝室内に、カインの腰の動きに合わせ、毛布が擦れるかすかな音だけが聞こえていた。
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