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33.会の終わり
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穴の開いた寝台を見おろして、アロナは腰に手を当て、よくもこんなものを作ったものだと感心していた。
側面の引き出し部分は車輪の付いた台に改造され、寝台下に差し込めるようになっていた。
枕を置く部分のマットを丸く切り取り、内側の綿も少し抜いて人が一人潜り込めるようになっている。
急ごしらえの仕事としては立派なものだった。
「実は前から計画していたんだ。その、俺が見ていないところでドルバイン様に抱かれるアロナのことが見たくて……。もちろん、間近で見る君も素敵だけど、俺のいないところで他の男性と愛し合っている姿を想像するのも楽しそうだと思っていた。こうした遊びに君を付き合わせていいのか迷ってはいたのだけど……」
カインの股間にはまだ貞操帯が付けられており、カインはその痛みに頬を赤くして耐えていた。潤んだ目元も、物欲しげに半開きになる唇も、アロナには魅力的に見えて、これはどっちの拷問なのだろうかと考えた。
マットの種明かしを終えたドルバインは、窓辺の椅子に座り、二人が寝台を片付ける様子を眺めている。
昨日、アロナの悲鳴で、夫婦の営みを中断させられたナリアとフェイデンは、今朝方馬車で帰って行き、今はこの広い別荘に三人だけだった。
もう帰ると朝食時にナリアから告げられたアロナは、心底ほっとした顔をしたが、ドルバインは表情を変えなかったため、その本心はわからなかった。
ただ、朝食後、ナリアがドルバインにまた来年も来るからと伝えに来ると、アロナを同席させ、夫の承諾が得られなければ受け入れられないと突っぱねた。
それを横で聞いていたアロナは、また来年もこの夫婦はやってくるのだろうとなんとなく思った。
フェイデンからは来年について何か言われることはなかったが、帰りの馬車に乗り込む間際に、ようやくドルバインに頭を下げた。
ドルバインと和解できなければ、復職出来ないため、いかにも渋々といった様子だった。
「すまなかった……」
貴族の謝罪とはこの程度のものなのかとアロナは不満だったが、フェイデンはアロナにも深々と頭を下げた。
「君の……夫にしたことも謝罪する。金は払ったが……十分ではなかった……。この会を擁護する側に回り、活動を支えたいと思う……」
驚きの発言だったが、アロナは許すとは言わなかった。
カインは国法管理局につかまり、拷問された時の心の傷が癒えておらず、フェイデンの姿を見ることも出来ず、厨房に隠れているのだ。
むっつりとしたアロナは、黙って怒りを抑え込んだ。
貴族の前では殺されても仕方のない命だと痛いほどわかっている。
ドルバインは無傷であり、その使用人だったカインだけが痛めつけられたのだ。
目も合わせず馬車に乗り込んでいくフェイデンの背中に、ドルバインが静かな一言を発した。
「国法中央管理局の方には俺から文書を送っておく。ナリアを路頭に迷わせるわけにはいくまい」
フェイデンのせいで処刑されるところだったというのに、ドルバインは元妻の幸せのために許すことにしたのだ。アロナはそのドルバインの態度を見習い、軽くフェイデンの背中に頭を下げた。
馬車が走り去り、三人はようやく秘密の会が終わった後の日常を取り戻した。
いつもは手分けをして片づけを始めるところだったが、アロナは昨夜の寝台はどうなっているのかとドルバインに問いかけ、三人はその部屋の片づけから始めることにしたのだ。
「次の冬はナリア様とその旦那様も一緒に来るのでしょうか?」
穴の開いたマットを立てて、埃を落としていたアロナは嫌な顔をした。
カインも少し怯えたように俯きながら、シーツを畳んでいる。
「当然だ。誤解を生むようなことは避けなければならない。しかし……考えていることがある。アロナ、俺はお前を俺の正式な妻にしようと思っている」
「いたっ」
カインが小さな悲鳴を上げた。
妻であるアロナをドルバインが堂々と、自分の妻にすると宣言されたことに興奮し、貞操帯の中で股間の物が大きくなりかけたのだ。
貞操帯の鍵はまだドルバインの首にかけられたままだ。
「それは……」
躊躇うアロナに、カインは優しく微笑みかけた。
「良かったな。アロナ」
ぶわりと涙が溢れだし、アロナはカインを無言で殴りつけた。
それほど強い力ではなかったが、カインはバランスを崩し、後ろに転んで尻もちをついた。
その上にさらに突進し、アロナはカインの胸を打つ。
「ご、ごめん、アロナ、ごめんってば」
反撃はせず、カインは暴れるアロナを抱きしめた。
その様子を、ドルバインはじゃれあう猫たちを見るように眺め、やれやれとため息をついた。
「関係性が変わるわけではない。これは財産上の問題だ」
床でもみあっていた二人が、驚いたようにドルバインを振り返った。
静かになった二人を見て、ドルバインが説明した。
「俺がアロナと結婚すればそれは貴族の結婚として記録に残る。俺の場合はダーナス様の許可を得れば出来ることだからそこに問題はない。
平民の結婚は、あってないようなものであり、貴族の記録の方が優先される。
つまり、アロナは俺の妻として正式に手続きされ、俺が死んだ後に俺の財産を受け継げる立場になる。その後で、アロナがカインと結婚すれば二人は同時に貴族の身分を得るし、さらに俺の財産を二人で守っていける。お前達に貴族の義務なんてものはわからないだろうから、後見人を立て、国の保護を受けられるように考えていかなければならないが、とりあえず俺に何かあった時に、アロナとカインがここを守っていけるようにはなるだろう」
目をぱちくりさせ、二人は顔を見合わせた。
「私達が貴族に?それにドルバイン様は引退された身ですよね?国の義務って……戦場に行かないといけないのですか?」
「場合によってはそうなるだろうし、俺にも動かせる部隊はある。しかしそれはお前達には負担だろう。税に関しても難しい手続きが必要だ。
俺達は領地を持ち、それを管理し、利益を産めば国に還元するようなこともしているが、まぁ……」
ぽかんとしている二人を見て、ドルバインは分厚い髭を撫でつけた。
「アロナが産んだ子を俺の後継者として教育した方が早いだろうな」
「お、お願いします!」
がばっと床に土下座をし、頭を下げたのはカインだった。
自分の妻がドルバインの子供を宿すことに、最高に興奮しての行動だったが、アロナは複雑な表情だった。
「先の長い話では……」
戸惑うアロナにドルバインは苦笑した。
ドルバインはもう引退した身だが、彼らはまだ若く、人生も始まったばかりと言ってもいいほどだ。
そんな若い二人を自分の物にしてしまっていいものかと、ドルバインの心にはわずかな迷いがあった。
彼らは野生動物のように生き生きと暮らしている。面倒なしがらみも、貴族間の複雑な心理戦とも無縁の存在だ。身分も低く、理不尽な締め付けも多いが、純粋で揺るぎない愛が彼らの幸福を支えている。
アロナの正直な反応を見て、ドルバインはその迷いを心に封じ込んだ。
「手続き上のことだけだ。身分がいらなくなれば捨てたら良い」
権力や財産に執着することなく、二人は愛に生きるだろうとドルバインは決断を出した。
これから先の長い人生の全てを見通せるわけでもないし、支配出来るわけでもない。
彼らは自分達で壁を乗り越えて道を切り開くのだ。
なんとなく心が軽くなり、二人は立ち上がると、部屋の掃除に戻った。
窓を開けて埃を吐き出すと、扉の下に三角の板を差し込み固定した。
「次の部屋のお掃除に行ってきます。あの、いつものお部屋でいいのですよね?」
後片付けが終われば、やっと三人のお楽しみの時間がやってくる。
カインがもう期待に胸を膨らませ腰を揺らしている。
ドルバインが無言でうなずくと、二人は跳ねるように部屋を飛び出していった。
それを見送り、ドルバインも書斎に向かう。
引退した身だというのに、仕事が大量に残っていた。
そこに、玄関扉を叩く音が聞こえてきた。
また来客なのかと、アロナとカインも、通路に面した部屋から飛び出してきて、吹き抜けになっている階段の下を見る。
ドルバインはさっさと階段を下りて扉に手をかけた。
それから後ろを向いて、上の二人に見えないところに下がっていろと手で合図をした。
扉を開けると、そこには領主のダーナスが立っていた。
肌寒い風が吹き込み、屋敷内を一気に駆け抜け二階の窓に抜けていく。
「ドルバイン、仕事を持ってきた」
単刀直入にダーナスが切り出した。
ドルバインは片方の眉を器用に下げて、少しだけ迷惑そうな顔をした。
「これというのもお前が悪い。まだ四十代で引退とはあまりにも早すぎる」
がたっと二階で音がした。
二人が後ろに尻もちをついた音だったが、ドルバインは涼しい顔で扉を閉めると、ダーナスを応接間に案内するため先頭に立って歩きだす。
「忙しそうだな。後片付けか?」
そこに例の二人が隠れていることを知っているダーナスは、二階をちらりと見上げながら、ドルバインの後について玄関を横切っていく。
ドルバインとダーナスの姿が消え、応接間の扉が閉まる音がすると、二階に隠れていたアロナとカインが扉の陰から顔を出した。
手すりから一階を見おろし、そこに誰もいないことを確かめる。
カインとアロナは顔を見合わせた。
「六十ぐらいだと思っていたわ……」
アロナの言葉に、さすがにそれは言い過ぎだとカインは思ったが、カインも引退するぐらいなのだから五十はいっていると思っていた。
頭髪が薄い事と、顔を覆う髭のせいで、だいぶ老けて見えていたのだ。
衝撃の事実に驚いていた二人は、やがて安心したように笑い合った。
「引退なんてまだまだ先ね」
少し不安になっていた二人は心の底から安心し、手分けをして屋敷の片付けを再開した。
それは穏やかな春の昼下がりのことであり、二人は幸福な気持ちで秘密の会の後片付けをやり終えた。
多忙なドルバインは、その日もダーナスの持ってきた仕事まで抱え、遅くまで書斎にこもっていたが、最後のお楽しみはちゃんと覚えていた。
寝室に入ってきたドルバインに、まだ起きていたアロナがまっさきに飛びつき、それからカインが毛布の中から立ち上がり、いそいそとズボンを脱いだ。
ドルバインも珍しくくつろいだ表情で寝室のランプを消した。
そして、その夜は、三人にとって間違いなく一年で最も幸福な夜になったのだ。
側面の引き出し部分は車輪の付いた台に改造され、寝台下に差し込めるようになっていた。
枕を置く部分のマットを丸く切り取り、内側の綿も少し抜いて人が一人潜り込めるようになっている。
急ごしらえの仕事としては立派なものだった。
「実は前から計画していたんだ。その、俺が見ていないところでドルバイン様に抱かれるアロナのことが見たくて……。もちろん、間近で見る君も素敵だけど、俺のいないところで他の男性と愛し合っている姿を想像するのも楽しそうだと思っていた。こうした遊びに君を付き合わせていいのか迷ってはいたのだけど……」
カインの股間にはまだ貞操帯が付けられており、カインはその痛みに頬を赤くして耐えていた。潤んだ目元も、物欲しげに半開きになる唇も、アロナには魅力的に見えて、これはどっちの拷問なのだろうかと考えた。
マットの種明かしを終えたドルバインは、窓辺の椅子に座り、二人が寝台を片付ける様子を眺めている。
昨日、アロナの悲鳴で、夫婦の営みを中断させられたナリアとフェイデンは、今朝方馬車で帰って行き、今はこの広い別荘に三人だけだった。
もう帰ると朝食時にナリアから告げられたアロナは、心底ほっとした顔をしたが、ドルバインは表情を変えなかったため、その本心はわからなかった。
ただ、朝食後、ナリアがドルバインにまた来年も来るからと伝えに来ると、アロナを同席させ、夫の承諾が得られなければ受け入れられないと突っぱねた。
それを横で聞いていたアロナは、また来年もこの夫婦はやってくるのだろうとなんとなく思った。
フェイデンからは来年について何か言われることはなかったが、帰りの馬車に乗り込む間際に、ようやくドルバインに頭を下げた。
ドルバインと和解できなければ、復職出来ないため、いかにも渋々といった様子だった。
「すまなかった……」
貴族の謝罪とはこの程度のものなのかとアロナは不満だったが、フェイデンはアロナにも深々と頭を下げた。
「君の……夫にしたことも謝罪する。金は払ったが……十分ではなかった……。この会を擁護する側に回り、活動を支えたいと思う……」
驚きの発言だったが、アロナは許すとは言わなかった。
カインは国法管理局につかまり、拷問された時の心の傷が癒えておらず、フェイデンの姿を見ることも出来ず、厨房に隠れているのだ。
むっつりとしたアロナは、黙って怒りを抑え込んだ。
貴族の前では殺されても仕方のない命だと痛いほどわかっている。
ドルバインは無傷であり、その使用人だったカインだけが痛めつけられたのだ。
目も合わせず馬車に乗り込んでいくフェイデンの背中に、ドルバインが静かな一言を発した。
「国法中央管理局の方には俺から文書を送っておく。ナリアを路頭に迷わせるわけにはいくまい」
フェイデンのせいで処刑されるところだったというのに、ドルバインは元妻の幸せのために許すことにしたのだ。アロナはそのドルバインの態度を見習い、軽くフェイデンの背中に頭を下げた。
馬車が走り去り、三人はようやく秘密の会が終わった後の日常を取り戻した。
いつもは手分けをして片づけを始めるところだったが、アロナは昨夜の寝台はどうなっているのかとドルバインに問いかけ、三人はその部屋の片づけから始めることにしたのだ。
「次の冬はナリア様とその旦那様も一緒に来るのでしょうか?」
穴の開いたマットを立てて、埃を落としていたアロナは嫌な顔をした。
カインも少し怯えたように俯きながら、シーツを畳んでいる。
「当然だ。誤解を生むようなことは避けなければならない。しかし……考えていることがある。アロナ、俺はお前を俺の正式な妻にしようと思っている」
「いたっ」
カインが小さな悲鳴を上げた。
妻であるアロナをドルバインが堂々と、自分の妻にすると宣言されたことに興奮し、貞操帯の中で股間の物が大きくなりかけたのだ。
貞操帯の鍵はまだドルバインの首にかけられたままだ。
「それは……」
躊躇うアロナに、カインは優しく微笑みかけた。
「良かったな。アロナ」
ぶわりと涙が溢れだし、アロナはカインを無言で殴りつけた。
それほど強い力ではなかったが、カインはバランスを崩し、後ろに転んで尻もちをついた。
その上にさらに突進し、アロナはカインの胸を打つ。
「ご、ごめん、アロナ、ごめんってば」
反撃はせず、カインは暴れるアロナを抱きしめた。
その様子を、ドルバインはじゃれあう猫たちを見るように眺め、やれやれとため息をついた。
「関係性が変わるわけではない。これは財産上の問題だ」
床でもみあっていた二人が、驚いたようにドルバインを振り返った。
静かになった二人を見て、ドルバインが説明した。
「俺がアロナと結婚すればそれは貴族の結婚として記録に残る。俺の場合はダーナス様の許可を得れば出来ることだからそこに問題はない。
平民の結婚は、あってないようなものであり、貴族の記録の方が優先される。
つまり、アロナは俺の妻として正式に手続きされ、俺が死んだ後に俺の財産を受け継げる立場になる。その後で、アロナがカインと結婚すれば二人は同時に貴族の身分を得るし、さらに俺の財産を二人で守っていける。お前達に貴族の義務なんてものはわからないだろうから、後見人を立て、国の保護を受けられるように考えていかなければならないが、とりあえず俺に何かあった時に、アロナとカインがここを守っていけるようにはなるだろう」
目をぱちくりさせ、二人は顔を見合わせた。
「私達が貴族に?それにドルバイン様は引退された身ですよね?国の義務って……戦場に行かないといけないのですか?」
「場合によってはそうなるだろうし、俺にも動かせる部隊はある。しかしそれはお前達には負担だろう。税に関しても難しい手続きが必要だ。
俺達は領地を持ち、それを管理し、利益を産めば国に還元するようなこともしているが、まぁ……」
ぽかんとしている二人を見て、ドルバインは分厚い髭を撫でつけた。
「アロナが産んだ子を俺の後継者として教育した方が早いだろうな」
「お、お願いします!」
がばっと床に土下座をし、頭を下げたのはカインだった。
自分の妻がドルバインの子供を宿すことに、最高に興奮しての行動だったが、アロナは複雑な表情だった。
「先の長い話では……」
戸惑うアロナにドルバインは苦笑した。
ドルバインはもう引退した身だが、彼らはまだ若く、人生も始まったばかりと言ってもいいほどだ。
そんな若い二人を自分の物にしてしまっていいものかと、ドルバインの心にはわずかな迷いがあった。
彼らは野生動物のように生き生きと暮らしている。面倒なしがらみも、貴族間の複雑な心理戦とも無縁の存在だ。身分も低く、理不尽な締め付けも多いが、純粋で揺るぎない愛が彼らの幸福を支えている。
アロナの正直な反応を見て、ドルバインはその迷いを心に封じ込んだ。
「手続き上のことだけだ。身分がいらなくなれば捨てたら良い」
権力や財産に執着することなく、二人は愛に生きるだろうとドルバインは決断を出した。
これから先の長い人生の全てを見通せるわけでもないし、支配出来るわけでもない。
彼らは自分達で壁を乗り越えて道を切り開くのだ。
なんとなく心が軽くなり、二人は立ち上がると、部屋の掃除に戻った。
窓を開けて埃を吐き出すと、扉の下に三角の板を差し込み固定した。
「次の部屋のお掃除に行ってきます。あの、いつものお部屋でいいのですよね?」
後片付けが終われば、やっと三人のお楽しみの時間がやってくる。
カインがもう期待に胸を膨らませ腰を揺らしている。
ドルバインが無言でうなずくと、二人は跳ねるように部屋を飛び出していった。
それを見送り、ドルバインも書斎に向かう。
引退した身だというのに、仕事が大量に残っていた。
そこに、玄関扉を叩く音が聞こえてきた。
また来客なのかと、アロナとカインも、通路に面した部屋から飛び出してきて、吹き抜けになっている階段の下を見る。
ドルバインはさっさと階段を下りて扉に手をかけた。
それから後ろを向いて、上の二人に見えないところに下がっていろと手で合図をした。
扉を開けると、そこには領主のダーナスが立っていた。
肌寒い風が吹き込み、屋敷内を一気に駆け抜け二階の窓に抜けていく。
「ドルバイン、仕事を持ってきた」
単刀直入にダーナスが切り出した。
ドルバインは片方の眉を器用に下げて、少しだけ迷惑そうな顔をした。
「これというのもお前が悪い。まだ四十代で引退とはあまりにも早すぎる」
がたっと二階で音がした。
二人が後ろに尻もちをついた音だったが、ドルバインは涼しい顔で扉を閉めると、ダーナスを応接間に案内するため先頭に立って歩きだす。
「忙しそうだな。後片付けか?」
そこに例の二人が隠れていることを知っているダーナスは、二階をちらりと見上げながら、ドルバインの後について玄関を横切っていく。
ドルバインとダーナスの姿が消え、応接間の扉が閉まる音がすると、二階に隠れていたアロナとカインが扉の陰から顔を出した。
手すりから一階を見おろし、そこに誰もいないことを確かめる。
カインとアロナは顔を見合わせた。
「六十ぐらいだと思っていたわ……」
アロナの言葉に、さすがにそれは言い過ぎだとカインは思ったが、カインも引退するぐらいなのだから五十はいっていると思っていた。
頭髪が薄い事と、顔を覆う髭のせいで、だいぶ老けて見えていたのだ。
衝撃の事実に驚いていた二人は、やがて安心したように笑い合った。
「引退なんてまだまだ先ね」
少し不安になっていた二人は心の底から安心し、手分けをして屋敷の片付けを再開した。
それは穏やかな春の昼下がりのことであり、二人は幸福な気持ちで秘密の会の後片付けをやり終えた。
多忙なドルバインは、その日もダーナスの持ってきた仕事まで抱え、遅くまで書斎にこもっていたが、最後のお楽しみはちゃんと覚えていた。
寝室に入ってきたドルバインに、まだ起きていたアロナがまっさきに飛びつき、それからカインが毛布の中から立ち上がり、いそいそとズボンを脱いだ。
ドルバインも珍しくくつろいだ表情で寝室のランプを消した。
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