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第一章 竜の国
31.預言者の言葉
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ルシアンから第七騎士団を迎えに行くように命じられたデレクとヒューは、その理由を知って驚いた。
預言者から、騎士達に直接言葉を伝えるため、周辺の騎士達を出来るだけルト村に集めるように指示があったというのだ。
それを伝えられた第七騎士団の騎士達も驚いた。
通常預言者の言葉は、王から騎士達にその言葉が伝えられる。
「預言者様から直々にお言葉があるということは、ようやく十年前の真相が明かされるということか?」
第七騎士団は十年前、生贄の入れ替わりに気づかず、シーアを生贄の山に送り込んだ。
先触れであったエリックとウィリスは苦い思いを引きずっている。
二人が生贄として捧げた少女は国の英雄になったのに名前すら石碑に刻まれなかったのだ。
どんな話があるのか、デレクとヒューも内容までは知らされていない。
とりあえずナタ村の封鎖は解除され、第七騎士団はデレクとヒューと共に、その質問の答えを知る預言者のもとに急いだ。
すっかり暗くなり、ランタンを吊り下げてルト村に到着すると、大勢の騎士が村の前の広場に集まっていた。
中央に置かれた馬車の上に、黒いローブに身を包んだ預言者が既に立っていた。
馬を下り、列の後ろに加わったデレクは、預言者の後ろにラーシアの姿を見つけ、前に数歩動いた。
その肩をヒューが押さえつけた。
二人は新人だ。前に出られる立場ではない。
第七騎士団が馬を下り、既に整列している騎士達の後ろに並ぶ。
炎のあかりに浮かぶ預言者の姿は、不気味な静けさに包まれている。
膝までの長さの金色の髪が風に揺れ、皺深い瞼から覗く青い目は不思議な光を宿す。
その姿に騎士達は畏怖の念を抱く。
思念を読むだけではなく、十年先の未来までも予見する預言者は、騎士達の忠誠心が本物かどうかさえ見抜いてしまう。家に帰りたいなどとふと思ってしまえば大変だ。
集まった騎士はざっと千人は超えている。
全員が緊張の面持ちで預言者の言葉を待つ。
『ついにこの計画を告げる日がきた』
突然、全員の頭の中でしわがれた男の声が響いた。黒い箱の上に立つ預言者は口を動かしてはいない。
驚いた者はいたが、叫んだものはいなかった。
『竜と対話し続けたが、生贄を捧げずに済む方法を見つけることが出来ずにきた。
十年前、竜に生贄の名を告げられた時、私はさらなる対話を試みたがそれは叶わなかった。
交渉を続け、百年以上が経った。私には思念を通じて語り掛けるという特殊な能力があるが、私にも寿命がくる。
私が死んだ後、竜と対話し、交渉を続けられる者を探していた。あるいは、これを終わらせることが出来る者を。
十年前、私は生贄が入れ替わったことに気が付いた。しかしそれをあえてそのまま見逃した。竜の反応をみたのだ。彼がどのように生贄を探しているのか、なぜこの国に執着するのか、百年の時を経ても知ることはできなかった。
しかし、今回対話の糸口をつかんだ。生贄を指定しておきながら、入れ替わった生贄を受け入れたのはなぜなのかと問いかけた。
そして竜と対話の出来る少女を用意出来ると交換条件を出した。
竜は怒ったが、対話を続けることに成功し、目的をようやく明かした。
契約により内容は明かせないが、今年が恐らく最後の竜の年になる。
なぜなら、竜は私の提示した生贄を受け入れたからだ』
ラーシアが一歩前に出て預言者の横に並ぶ。
『私ほどの力はないため、このように皆に語り掛けることはかなわないが、竜に近づけば思念による対話が可能だ。
私が生まれた南の島でもこれだけの力をもつ娘が生まれるのは稀なことだ。
このラーシアという娘を生贄の山に捧げることにする。
この娘が竜と対話し、私の寿命が尽きる前に、竜を鎮めることができれば、竜の年は終わりを告げる。
竜の年は、犠牲となった娘たちのために祈る日となり、国は生まれ変わる。
竜の怒りを買えば、村が滅びたあの日のように竜が襲ってくることになる。
その時は騎士の諸君の力が必要だ。竜との戦いに備えて欲しい』
渾身の力を込めて、デレクが腰の剣を握った。
自分たちの手で竜を退けることが出来るなら。そうするべきだ。
『私の力が及ばず、多くの犠牲者を出してきたことを申し訳なく思う。平和な時代を壊さないよう無理をさせてきた。皆の忠誠と真摯な働きに感謝している。
どうか私の言葉を信じ、最後までついてきて欲しい』
第一騎士団が踵を打ち鳴らし、剣を抜いて天にかざした。
すぐに他の騎士達が同じ姿勢を取る。
デレクとヒューも剣を抜いて忠誠の構えを見せた。
杖を突き、預言者が階段を下り始める。
ラーシアもその後ろに続く。
ほっそりとしたラーシアの姿は階段を下りると見えなくなった。
騎士達がすぐに遮断天幕の周りを固める。
突然、女のむせび泣く声があがった。
デレクとヒューが振り向くと、ケティアが泣き崩れていた。
その傍らにはいつの間にかケビンがいる。
二人の穏やかな暮らしは守られたのだ。
いろいろ小さな問題は残っているだろうが、少なくとも明日は来る。
「ラーシアの望み通りじゃないか」
ヒューがデレクの背中を叩いた。
「しかし竜を怒らせたら、ラーシアより俺達の方が先に死ぬかもしれないぜ?」
竜の先触れである重責から解放され、ヒューは本来の明るい口調を少し取り戻したようだった。
実際、ヒューはデレクと二人で先触れの仕事をするよりは、全員で竜退治をする方がましだとさえ思っていた。
先触れになってから気が休まる時がなかったのだ。
竜と戦うことになっても、これだけ大勢の先輩騎士が前にいるのだ。
その背中を追いかければいい。これほど楽な仕事はない。
「いろいろ難しいことを考えるより、戦って死んだ方が気楽だよ」
ヒューの本音がこぼれ、落ち込んでいたデレクは思わず笑った。
「ハハハ……そうだな。全くだ……。国を守って、彼女を守って……戦い抜けるなら本望だな……」
どこからか小さな拍手があがった。それは次第に大きな拍手にかわった。
ルト村の人々が騎士達を讃えるように手を叩いていた。
彼らにも預言者の言葉は聞こえていた。
目の前にいる騎士達が勇敢にも竜退治に向かうのだと知ったのだ。
「デレク、ヒュー」
第四騎士団のルシアンが二人を呼んだ。
「すぐにナタ村に飛んでくれ。預言者の言葉を告げ、余計な心労をかけた村長に謝罪をしなければならない。それから村の者達にも事情を話す。
国が竜との戦いを決意したことを受け入れてもらいたい。
それからできればその話は外に出さないように話して欲しい。
完全に秘密にすることは難しいが、恐怖を広げたくはない。竜の襲撃があるとしたら、生贄を捧げてから数日の間とのことだ。それ故、観光客の安全確保のため、預言者の言葉を合図に国を封鎖する措置を取る」
竜と戦争状態に入ることを国中に知らせる時期については、慎重に考えなければならない。
一人の生贄で騎士達が百人助かるならその方が良いと考える者もいるだろう。
「国を出る者が増えるかもしれないな」
ヒューの言葉にデレクも無言でうなずいた。
再びナタ村に戻った二人は、村長を前に頭を下げた。
その後村人達を集め、預言者の言葉を伝えると、村人たちはやはり複雑な顔をした。
国の計画を聞かされず、身代わりの生贄を差し出した彼らの心には騙されたという意識が残る。
しかし大金は受け取っているし文句を言える立場でもない。
それに大半の人にとって、生贄がシーアでもイシャリでも同じことだった。
それ故、竜の襲来があるかもしれないと聞くと、いきり立つ者もあった。
「一人の生贄で助かるのに、俺達全員が死ぬかもしれないのか?」
その言葉に村長はやり切れない表情でうなだれた。
十年前生贄に選ばれたのが他の誰かであれば、同じことを言ったかもしれない。
しかし、もう愛する者が生贄に選ばれる痛みを知ってしまったからには、とても一人殺せばいいとは口にはできない。
デレクが前に出た。
「ならば、お前達が生贄になるか?」
静かな殺意を匂わせるデレクの声に、場がしんと静まった。
「お前達は竜が来たと知らせを受け避難することが出来るが、これまでの生贄たちは皆十六の少女だった。
彼女たちは罪もなく山頂に縛られ、恐ろしくても逃げることは出来ず、どんな苦痛が襲ってくるかもわからず竜を待つしかなかった。
今回生贄になるのはこの国の人間でもない。異国の少女だ。
この国の現状を知り、自ら力になれるかもしれないと生贄に名乗り出た。
自分の国の問題でもないのに、彼女は竜に一人で立ち向かう。
それなのに、この国の人間は異国の少女を犠牲にすることを当然と考え、自分たちの命ばかりを守ろうとする。
お前達の平和な暮らしを守るため、苦痛と恐怖に耐えた少女たちのことは考えないのか。
俺達は百年間、一人の生贄のことを考えないように生きてきた。
それは国が意図してきたことだった。竜を退ける有力な方法を得られず、見せかけの平和で人々の穏やかな暮らしを十年ずつ守っていくしかなかったからだ。
しかし、王国はそのただ一人の命を見捨て続けてきたわけではなかった。
俺達もまた、助かる命の方ではなく、十六で竜に立ち向かった尊い犠牲者達に目を向ける時がきたのだ。
王国の騎士は全員、今回国の作戦に従い生贄の少女に寄り添い、その一つの命のために戦い抜く。お前達もこの国の人間なら覚悟を決めることだ。
十年間、お前達は竜に焼かれずに生きた。誰のおかげで平和を享受することが出来たのか、彼女たちの犠牲に見合った生き方をしてきたか、俺達は考えるべきだ」
熱く語ったデレクの言葉を遮るものはいなかった。
全てが正しく人々の胸に届いたわけではなかった。
ただ反論しにくい空気になったのは確かだった。
大半の人々は十六の少女が山頂に縛られ、逃げることも敵わず竜を待つ姿を想像した。
「竜が来る場所は預言者様が知らせてくださる。国土は少し焼かれるかもしれないが、預言者様は命を最優先で考えると約束してくださった。どこに逃げてどこに隠れたらいいのか、預言者さまが全て教えて下さる。知らせを待て。
この話は外に出してはいけない。多くの観光客がまだこの国を訪れている。
生贄の日を境に国を封鎖することが決まっている。それまでは秘密にしておくように」
人々を黙らせ、必要なことを伝え終わると、デレクとヒューはナタ村を後にした。
預言者から、騎士達に直接言葉を伝えるため、周辺の騎士達を出来るだけルト村に集めるように指示があったというのだ。
それを伝えられた第七騎士団の騎士達も驚いた。
通常預言者の言葉は、王から騎士達にその言葉が伝えられる。
「預言者様から直々にお言葉があるということは、ようやく十年前の真相が明かされるということか?」
第七騎士団は十年前、生贄の入れ替わりに気づかず、シーアを生贄の山に送り込んだ。
先触れであったエリックとウィリスは苦い思いを引きずっている。
二人が生贄として捧げた少女は国の英雄になったのに名前すら石碑に刻まれなかったのだ。
どんな話があるのか、デレクとヒューも内容までは知らされていない。
とりあえずナタ村の封鎖は解除され、第七騎士団はデレクとヒューと共に、その質問の答えを知る預言者のもとに急いだ。
すっかり暗くなり、ランタンを吊り下げてルト村に到着すると、大勢の騎士が村の前の広場に集まっていた。
中央に置かれた馬車の上に、黒いローブに身を包んだ預言者が既に立っていた。
馬を下り、列の後ろに加わったデレクは、預言者の後ろにラーシアの姿を見つけ、前に数歩動いた。
その肩をヒューが押さえつけた。
二人は新人だ。前に出られる立場ではない。
第七騎士団が馬を下り、既に整列している騎士達の後ろに並ぶ。
炎のあかりに浮かぶ預言者の姿は、不気味な静けさに包まれている。
膝までの長さの金色の髪が風に揺れ、皺深い瞼から覗く青い目は不思議な光を宿す。
その姿に騎士達は畏怖の念を抱く。
思念を読むだけではなく、十年先の未来までも予見する預言者は、騎士達の忠誠心が本物かどうかさえ見抜いてしまう。家に帰りたいなどとふと思ってしまえば大変だ。
集まった騎士はざっと千人は超えている。
全員が緊張の面持ちで預言者の言葉を待つ。
『ついにこの計画を告げる日がきた』
突然、全員の頭の中でしわがれた男の声が響いた。黒い箱の上に立つ預言者は口を動かしてはいない。
驚いた者はいたが、叫んだものはいなかった。
『竜と対話し続けたが、生贄を捧げずに済む方法を見つけることが出来ずにきた。
十年前、竜に生贄の名を告げられた時、私はさらなる対話を試みたがそれは叶わなかった。
交渉を続け、百年以上が経った。私には思念を通じて語り掛けるという特殊な能力があるが、私にも寿命がくる。
私が死んだ後、竜と対話し、交渉を続けられる者を探していた。あるいは、これを終わらせることが出来る者を。
十年前、私は生贄が入れ替わったことに気が付いた。しかしそれをあえてそのまま見逃した。竜の反応をみたのだ。彼がどのように生贄を探しているのか、なぜこの国に執着するのか、百年の時を経ても知ることはできなかった。
しかし、今回対話の糸口をつかんだ。生贄を指定しておきながら、入れ替わった生贄を受け入れたのはなぜなのかと問いかけた。
そして竜と対話の出来る少女を用意出来ると交換条件を出した。
竜は怒ったが、対話を続けることに成功し、目的をようやく明かした。
契約により内容は明かせないが、今年が恐らく最後の竜の年になる。
なぜなら、竜は私の提示した生贄を受け入れたからだ』
ラーシアが一歩前に出て預言者の横に並ぶ。
『私ほどの力はないため、このように皆に語り掛けることはかなわないが、竜に近づけば思念による対話が可能だ。
私が生まれた南の島でもこれだけの力をもつ娘が生まれるのは稀なことだ。
このラーシアという娘を生贄の山に捧げることにする。
この娘が竜と対話し、私の寿命が尽きる前に、竜を鎮めることができれば、竜の年は終わりを告げる。
竜の年は、犠牲となった娘たちのために祈る日となり、国は生まれ変わる。
竜の怒りを買えば、村が滅びたあの日のように竜が襲ってくることになる。
その時は騎士の諸君の力が必要だ。竜との戦いに備えて欲しい』
渾身の力を込めて、デレクが腰の剣を握った。
自分たちの手で竜を退けることが出来るなら。そうするべきだ。
『私の力が及ばず、多くの犠牲者を出してきたことを申し訳なく思う。平和な時代を壊さないよう無理をさせてきた。皆の忠誠と真摯な働きに感謝している。
どうか私の言葉を信じ、最後までついてきて欲しい』
第一騎士団が踵を打ち鳴らし、剣を抜いて天にかざした。
すぐに他の騎士達が同じ姿勢を取る。
デレクとヒューも剣を抜いて忠誠の構えを見せた。
杖を突き、預言者が階段を下り始める。
ラーシアもその後ろに続く。
ほっそりとしたラーシアの姿は階段を下りると見えなくなった。
騎士達がすぐに遮断天幕の周りを固める。
突然、女のむせび泣く声があがった。
デレクとヒューが振り向くと、ケティアが泣き崩れていた。
その傍らにはいつの間にかケビンがいる。
二人の穏やかな暮らしは守られたのだ。
いろいろ小さな問題は残っているだろうが、少なくとも明日は来る。
「ラーシアの望み通りじゃないか」
ヒューがデレクの背中を叩いた。
「しかし竜を怒らせたら、ラーシアより俺達の方が先に死ぬかもしれないぜ?」
竜の先触れである重責から解放され、ヒューは本来の明るい口調を少し取り戻したようだった。
実際、ヒューはデレクと二人で先触れの仕事をするよりは、全員で竜退治をする方がましだとさえ思っていた。
先触れになってから気が休まる時がなかったのだ。
竜と戦うことになっても、これだけ大勢の先輩騎士が前にいるのだ。
その背中を追いかければいい。これほど楽な仕事はない。
「いろいろ難しいことを考えるより、戦って死んだ方が気楽だよ」
ヒューの本音がこぼれ、落ち込んでいたデレクは思わず笑った。
「ハハハ……そうだな。全くだ……。国を守って、彼女を守って……戦い抜けるなら本望だな……」
どこからか小さな拍手があがった。それは次第に大きな拍手にかわった。
ルト村の人々が騎士達を讃えるように手を叩いていた。
彼らにも預言者の言葉は聞こえていた。
目の前にいる騎士達が勇敢にも竜退治に向かうのだと知ったのだ。
「デレク、ヒュー」
第四騎士団のルシアンが二人を呼んだ。
「すぐにナタ村に飛んでくれ。預言者の言葉を告げ、余計な心労をかけた村長に謝罪をしなければならない。それから村の者達にも事情を話す。
国が竜との戦いを決意したことを受け入れてもらいたい。
それからできればその話は外に出さないように話して欲しい。
完全に秘密にすることは難しいが、恐怖を広げたくはない。竜の襲撃があるとしたら、生贄を捧げてから数日の間とのことだ。それ故、観光客の安全確保のため、預言者の言葉を合図に国を封鎖する措置を取る」
竜と戦争状態に入ることを国中に知らせる時期については、慎重に考えなければならない。
一人の生贄で騎士達が百人助かるならその方が良いと考える者もいるだろう。
「国を出る者が増えるかもしれないな」
ヒューの言葉にデレクも無言でうなずいた。
再びナタ村に戻った二人は、村長を前に頭を下げた。
その後村人達を集め、預言者の言葉を伝えると、村人たちはやはり複雑な顔をした。
国の計画を聞かされず、身代わりの生贄を差し出した彼らの心には騙されたという意識が残る。
しかし大金は受け取っているし文句を言える立場でもない。
それに大半の人にとって、生贄がシーアでもイシャリでも同じことだった。
それ故、竜の襲来があるかもしれないと聞くと、いきり立つ者もあった。
「一人の生贄で助かるのに、俺達全員が死ぬかもしれないのか?」
その言葉に村長はやり切れない表情でうなだれた。
十年前生贄に選ばれたのが他の誰かであれば、同じことを言ったかもしれない。
しかし、もう愛する者が生贄に選ばれる痛みを知ってしまったからには、とても一人殺せばいいとは口にはできない。
デレクが前に出た。
「ならば、お前達が生贄になるか?」
静かな殺意を匂わせるデレクの声に、場がしんと静まった。
「お前達は竜が来たと知らせを受け避難することが出来るが、これまでの生贄たちは皆十六の少女だった。
彼女たちは罪もなく山頂に縛られ、恐ろしくても逃げることは出来ず、どんな苦痛が襲ってくるかもわからず竜を待つしかなかった。
今回生贄になるのはこの国の人間でもない。異国の少女だ。
この国の現状を知り、自ら力になれるかもしれないと生贄に名乗り出た。
自分の国の問題でもないのに、彼女は竜に一人で立ち向かう。
それなのに、この国の人間は異国の少女を犠牲にすることを当然と考え、自分たちの命ばかりを守ろうとする。
お前達の平和な暮らしを守るため、苦痛と恐怖に耐えた少女たちのことは考えないのか。
俺達は百年間、一人の生贄のことを考えないように生きてきた。
それは国が意図してきたことだった。竜を退ける有力な方法を得られず、見せかけの平和で人々の穏やかな暮らしを十年ずつ守っていくしかなかったからだ。
しかし、王国はそのただ一人の命を見捨て続けてきたわけではなかった。
俺達もまた、助かる命の方ではなく、十六で竜に立ち向かった尊い犠牲者達に目を向ける時がきたのだ。
王国の騎士は全員、今回国の作戦に従い生贄の少女に寄り添い、その一つの命のために戦い抜く。お前達もこの国の人間なら覚悟を決めることだ。
十年間、お前達は竜に焼かれずに生きた。誰のおかげで平和を享受することが出来たのか、彼女たちの犠牲に見合った生き方をしてきたか、俺達は考えるべきだ」
熱く語ったデレクの言葉を遮るものはいなかった。
全てが正しく人々の胸に届いたわけではなかった。
ただ反論しにくい空気になったのは確かだった。
大半の人々は十六の少女が山頂に縛られ、逃げることも敵わず竜を待つ姿を想像した。
「竜が来る場所は預言者様が知らせてくださる。国土は少し焼かれるかもしれないが、預言者様は命を最優先で考えると約束してくださった。どこに逃げてどこに隠れたらいいのか、預言者さまが全て教えて下さる。知らせを待て。
この話は外に出してはいけない。多くの観光客がまだこの国を訪れている。
生贄の日を境に国を封鎖することが決まっている。それまでは秘密にしておくように」
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