赤い星に生まれて

丸井竹

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2.旅立ち

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気温の低下による警告音で目を覚ましたリブは、素早く周囲を確認した。
そこは廃棄場の底で、大量の処分品が地面も見えないほど折り重なっている。
見上げると、壁の上の方に四角い穴がぽっかりと開いていた。

そこから落ちたら壊れているはずだが、リブの体に損傷はなかった。
たまたま衝撃を吸収する処分品の上に落ちたのかもしれない。
古い部品はそのままであることを確かめ、やはり修理を諦め処分されたのだとリブは悟った。

通常であれば、生命反応が切れるまで動くべきではなかったが、リブは立ち上がり、もう一度上を見た。
四角い穴は娼館にあった排気口にも見える。
ミアにお別れを言う暇もなかったのだと思うと、リブは不思議な心地になった。
首を傾け、修理の箇所をまた探す。

おかしいところはないのに、何かがおかしい。
処分品の上を歩きながら、リブはその穴の底に出口があるか探し始めた。

気温の急激な低下で、耳の奥で警告音が絶えず鳴り続けている。

「リブ!」

突如、聞こえた声にリブは上を見た。
四角い穴から何かが飛び出した。

リブは大急ぎで処分品の上を走り出し、両手を伸ばした。
その腕の中に、馴染みの体がふわりと落ちてきた。

破損しないように衝撃を逃がし、リブは柔らかな処分品の上に座り込んだ。
しっかりと抱き留め、腕の中を確認する。

「ミア?どうして?」

清掃員の服装をしたミアが帽子の下から顔を出した。

「リブを探しにきたのよ。来月までいると言っていたのに急に消えたから、おかしいと思ったの。体温維持装置も持ってきた」

ミアは服の前を開き、赤く膨れた人工心臓を一つ切り離してリブに渡した。
暖房のない場所で一夜を過ごすなら必須の道具だ。
ある程度の寒さには耐えられるが、さすがにアーブの外では呼吸を維持するのも難しい。

「これでも駄目だったら順番に仮死状態になって、交代で休みましょう」

分厚く着こんだ服の下から、ミアが蜘蛛型の窓ふき器を取り出した。
リブは笑ってミアを抱き上げた。
壁に貼り付けると、それは垂直の壁をするすると登っていく。
それにリブが片腕で捕まり、もう一方の腕にミアを抱いた。

「ミア、だけど俺はもう戻れる場所がない。娼館に送るからミアは戻ったらいい」

窓ふき器にぶら下がり、揺れながらリブが言った。

「残念だけど、私も部品がなくて廃棄が決まったの。それで部品商人に話しを聞いてきたのだけど、古代都市シーラの機関室にはまだ男性用の部品も残っているそうなの。
ただ、もうそこに部品を取りに行く商人はいないのよ。ねぇ、私達でそこに行って部品を探さない?」

廃棄処分になった後に、生きる目的が出来るとは思いもしなかったリブは少し黙り込み、頭の中を探った。

「そんな命令は入っていない……」

「私もよ。でも、どうせ廃棄されるのだから、どこで死んでも同じことでしょう?それに、いつも隠れ場所から見ているばかりだった外にも行ってみたい」

赤い砂嵐の吹き荒れる大地には、生物が生きられる場所はないとされている。
しかしその向こうに古代都市シーラの遺跡があることも確かなのだ。

軽い衝撃と共に、窓ふき器が止まり、壁の真上に到達していた。
そこは穴の上であり、地上だった。

ミアが手を伸ばして壁の縁につかまり、地上にあがるとリブを隣に引き上げた。
二人は並んで座り、赤茶けた砂の向こうに目を向けた。
穴の反対側には透明なドームで覆われたきれいな町が広がっている。

「わかった。行こう」

リブが立ち上がり手を差し出した。
ミアはうれしそうにその手を取った。
二人は並んで歩きだす。

心臓はまだ動いているし、繋いだ手の間にも熱がうまれている。
その熱は全身を巡り、仮死状態にならないように効率よく使われる。

古代都市シーラはアーブの東にある。
そこがどんな場所なのか見たことはなかったが、旧式の部品はもうそこにしかないと言われている。

日が暮れ始めると急激に気温が下がり、二人は言葉もなく支え合うように丸くなって地面に座り込んだ。
互いに唇を合わせ、抱き合いながら熱があるところを探り合う。
風を避ける場所もない。
日中は風に軽々と舞い上がる赤い砂も、ずっしりと重くなり地面に張り付いている。

「ミア?……」

ミアは指をたて、砂をかいた。
指がきしきし音をたて、ひび割れ始める。

「だめだ。壊れてしまう」

リブが止めようとしたが、ミアはやめなかった。

「シーラにつけば部品はあるもの。リブは壊れないように待っていて」

少しだけ地面を掘ると、ミアはリブをひっぱりその中に横たえた。
その上に自分がうつ伏せに重なり、分厚い服をひっかぶる。

「ちょっとだけこうしていましょう。熱が溜まるまでの間。ほんの少しの間だけよ」

ミアの心音を確かめながらリブはその背中を抱きしめた。
瞼は凍り、手足の指も固くなる。
少しずつ仮死状態に近づいていく。
二人はぴたりと動きを止めた。

日が昇り、それからまた夜になった。
それを何度か繰り返し、突然熱を感知し、二人は飛び起きた。
目の前で巨大な飛行物体が燃えている。

被っていた服に火が飛び移る。
リブがそれをミアから引き剥がし、手をひっぱり走り出した。
空を見上げると、白い空に同じような飛行物体の姿がある。

大地に異変を感知すると突撃してくる、狂暴な存在だ。
無数の黒い点を見上げ、リブがミアを抱き上げた。
両腕に抱いて走り続ける。

「彼らの補給所が近くにあるはずだ」

淡い光の中に、うっすらと塔が透けている。
ミアがリブの背中越しに後ろを見る。

巨大都市アーブを包む半円のドームが光を反射し、まばゆい光を放っている。
その手前に赤い砂嵐が舞い上がっている。

「リブ!嵐が来る!」

ミアは叫び、後ろを振り返った。
うっすらと見えていた塔が、少しずつくっきりと形になって迫ってきた。
透明の柱や壁で作られているように見えた塔は、距離を詰めると、石を積んだような黒壁に変わっていく。
赤い砂が舞い上がり、二人の体にばちばちと当たる。
ミアはリブの頭を抱きしめ、目を庇った。

目を閉じても一度確かめた方角を迷ったりしない。
塔の正面に四角い穴が開き、二人の体はそこに滑り込んだ。
背後で扉が閉まり、同時に砂粒が叩きつけられる音が響いた。

二人が目を開けると、塔内部はぼんやりと明るく、その先の通路まで照らし出されている。

「ミア、大丈夫か?」

リブの腕から床の上に下りたミアの腕は、砂からリブの頭を守ったため、真っ赤になっていた。
赤い砂は細かく見えるが一粒ずつが鋭く、固い金属でできている。

「大丈夫よ」

食い込んだ砂粒を払い落とし、ミアは自己修復機能を高める。
腕はきれいに元に戻った。
二人は並んで光の照らす通路を進みだした。

がらんとした空洞には何もない。
天井は見えないぐらい高く、タイルのはげている床には、瓦礫が転がっている。
崩れた壁や天井の破片か、あるいはそこにあった何かが数千年の時を経て朽ちたものらしかった。

それらのものを乗り越え、先に進むと、地下に向かう階段が現れた。
リブが先に下りてミアに声をかける。

「一定の気温が保たれていそうだ。ここで今夜は過ごそう」

リブの手を頼りにミアも地下に下りる。
そこは昔の食料庫らしく、暖かな土壁に囲まれていた。

「おいで」

リブはミアを引き寄せた。ミアも喜んでその腕の中に飛び込んだ。
狭い配管室でそうしていたように二人は抱き合い、唇を重ねた。
リブがミアの服を脱がせ始めた。

薄手のドレスの下から豊かな胸が溢れでた。
その先端には金色のピアスが嵌めこまれ、雫型の鈴が揺れている。

「外さないで来ちゃった。だって……」

鈴はリブからの贈り物だ。
リブはミアの胸をピアスごとしゃぶり、強く吸い上げた。
痛みは自動的に快感に変換される。
そのように作られているからだ。

「んっ……」

こうしたやり方しか知らないリブとミアは、目を合わせうっとりと微笑み合う。
ミアはブーツの紐をほどき、リブは服を脱いだ。
裸になると、リブの股間にはすでにそそり立つ肉の棒があった。
その根元をミアはブーツの紐で縛りあげた。

「ああ……」

苦痛と快感が入り混じった声がリブの口からこぼれた。
その色っぽい喘ぎ声に、ミアは少し意地悪な笑みを浮かべ、足を開いて仰向けになった。

「入れて……私がいくまで、リブはいっちゃだめよ」

その言葉だけで、リブのそこは興奮し燃えるような熱をもつ。
苦痛に呻きながら、リブはミアの中に縛られたそれをゆっくり押し込んだ。
強い快感に包まれながらも、その熱は非情なブーツの紐で縛られ外には出ない。

「あ……ミア……早く……」

許可をねだりながらリブは腰を震わせる。
その刺激を受けながら、ミアも背中をのけぞらせた。
押し上げられる胸をリブが舌先で嬲り、唇でくわえてひっぱりあげる。

「うんっ……あっ……」

乳首がちぎれそうなほど引っ張られ、ミアも苦痛に顔を歪めた。
それはうねるような快感の渦になり、下腹部に向かう。

リブの指がミアの乳首をさらに引っ張った。
鈴が鳴り、ピアスの穴が大きく伸びる。

「あっ!ちぎれちゃう……」

痛みと快感にかすかな恐怖がくわわり、ミアは甘い悲鳴をあげた。
リブも必死に腰を振り、ミアの快感を押し上げる。
そうしないと締め付けられたそこは痛みを蓄え、吐き出したい欲求が高まり続ける。

「ミア、ミア、出したい……」

懇願するリブの声を口づけで塞ぎ、ミアはそっと揺れる腰の根元に手を伸ばした。
ぱんぱんに膨らんだそこを優しく手で包み、指でこすりあげる。

「んっ……んっ……」

腰遣いは激しさを増し、リブはさらにミアの奥に肉の先端を押し出した。
嬌声を上げ、ミアが達すると、リブはさらに腰を動かし催促した。

「早く……早く……」

ミアの指がゆっくりブーツの紐をほどいてやる。
馬のりになったリブが改めて腰を打ち付け、あっという間に欲望を吐き出した。
ミアを抱きしめ、その耳をしゃぶり首筋に歯を立てる。

「んっ……ミア……」

互いを抱きしめ、甘い息遣いに耳を澄ませる。

二人はほぼ同時に、やはり不思議そうに首を傾けた。
こうして体を重ねると溶け合うような一体感に包まれる。
この不思議な感覚を味わうには、相手はリブでなければいけないし、ミアでなければならない。

やっぱり同じ部品を分け合って作られたからではないかとミアは改めて考えた。

「明日、一日歩けばたどり着けるかな」

体を横たえ、リブはミアを抱き寄せた。

「たぶんね。部品商人が言っていた。昔は三日かかったって。往復六日もかけて命がけで運んでも、儲けが少ないからやめたそうよ」

ミアの髪を撫でながら、リブは何かを思いついたように声を弾ませた。

「俺達が部品売りになれないかな。運搬するものがあれば、移動もきっと楽になる」

「アーブは大きな町だから、誰かが道路を作っているかも。壊れていても修理すれば使えるしね」

二人は目を合わせ、幸福な微笑みをたたえると目を閉ざした。
外の音は一切聞こえない。冷気は襲ってきたが、仮死状態になるほどの冷えではない。二人は静かに眠りに落ちた。


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