9度目の転生(バルバル亭の秘密R18編)

丸井竹

文字の大きさ
27 / 42
第三章 二人の秘密

27.ガラスの棺の秘密

しおりを挟む
「あなたは一体、何者なのだ?魔法使いなのか?」

呆然としていたジェイスは、震えながら問いかけた。

人の寿命と時を止め、さらに一瞬で見知らぬ土地に飛ばされた。
ローゼを罠に嵌めた魔法使いさえ怯えていた。
今となっては、魔法使いであるかどうかもわからない。

「呼び名があるかどうか、わからないが、魔法使いと人は私を呼びたがる。最初の人、最果ての魔法使い、あるいは死の魔法使い、あるいは神と呼ばれたこともある」

ごくりとジェイスは唾を飲み込んだ。

「魔法使いと呼ばれる者達がどこから生まれ、どうして魔法使いになるのか、それは宇宙がどこから生まれ、惑星がどのように増えているのか、そうした疑問と同じだけ解明するのは難しい。
私たちはエネルギーの塊であり、ただ存在しているだけだ。
全てはある日突然生まれ、そして自然の成り行きでこうしたところにある。
君たちは私達のような存在に憧れ、魔法使いを目指し、研究し、力を求める。
私達はそれを楽しんだり、おもちゃにしたり、それから、少し壊してみたりして遊んでいる。
そのうち退屈になり、ただ眺めるばかりになる。この人間たちは最初のころの力あるものが遊んだ結果だ」

「最初の頃の力あるもの?」

「わかりやすいように、魔法使いとしておこう。
ある魔法使いが、強く惹かれあうこの二つの魂を見つけた。
運命を刻まれた魂はばらばらに生まれながら、愛し合い、求めあう。
この魂は結びつくと幸福な光を放ち、美しい宝石のように一つになる。
その現象を実験しようと思いたった魔法使いは、二人に呪いをかけた。
二人は惹かれ合い求めあう。しかしその愛が成就した瞬間、死の呪いが発動し、不幸な運命が片割れを奪ってしまう」

「なぜ?」

「遊びに理由などないよ。ただ、離れないものを無理やり離してみたらどうなるか試してみた」

ジェイスは二人の姿を見つめた。
眠る少女は幸せそうな表情ではない。男の表情にも苦しみがある。

「魂はどうしても出会い、愛し合うが、その直後、必ず不運に見舞われどちらかが命を落とす。深い悲しみと喪失感が残された者を襲い、その生涯は悲しみに閉ざされる。
魂は肉体に宿り、何度も生まれ変わった。
五度目に生まれ変わった時、女の方が全ての記憶を取り戻した。
男と出会えば、彼を不幸にすると女は悟り、出会わないように気を付けた。
しかし魂はひきあい、どうしても出会ってしまう。
不幸になるから一緒にはなれないと女は何度も男の愛を断る。
一度だけだからと男が説得し、女と体を合わせると、翌日女は酷い死を迎え、男が悲しむことになる。
彼女は考えに考えて、九度目に転生した時、なんと私のところへやって来た。
その時、私は死の魔法使いと呼ばれ、大きな魔力の渦の中にいた。
人間が無事にたどり着けるような場所ではなかった。
だが、彼女は無事に辿り着いた。
驚くべきことに、彼女は呪いを逆手にとったのだ。
二人は出会えば必ず不幸な事件に巻き込まれ、どちらかが死ぬと決まっている。それこそが死の呪いだ。
つまり、生を受けた瞬間に呪いの発動が決まっているのであれば、それまでは死なない可能性にかけたのだ。
生身の人の体で魔力の渦をくぐり抜け、死の魔法使いと呼ばれる私に助けを求めてきた。
そして自分に愛する人に愛されない呪いをかけて欲しいと訴えた。
二人で不幸になるぐらいなら、男の方だけでも幸せにしようと女は決めたのだ。
生きて私のところまでたどり着いた褒美に、私は彼女の望みを叶えた」

淡々と最果ての魔法使いは話し続ける。

「本当に無力な人の魂が我らの呪いを打ち破り、男を幸福にすることが出来るのか、私にも興味があった。
大抵の魂は定められたように簡単に転がり、私達はそれを眺めるばかりだ。
ところが、彼女は誰が魂に呪いをかけたのかも知らないのに、同じような力をもつ私を見つけ出した。
私は女に魔法使いになる方法を教えた。
想像を絶する修行に耐え、女は十五になった時には一人前の魔法使いになっていた。
もちろん、私達のような存在ではない。人が魔法使いだと信じている方の魔法使いだ。
私達が作り出す魔力を使いこなし、自身の体を魔力で満たし世界と一体になる術を身につけさせた。
全ては一つの粒子から始まり、異なるものに見えたとしてもそれは全て同じものだと感じることから始まる学問でもある。
私は彼女の魂に念入りに愛する男と決して結ばれない呪いをかけた。
地上に降りた途端、彼女は魂に刻まれた運命により、男と出会った。
しかし呪いのせいで惹かれ合うことはなかった。
女は奴隷として道端に立ち、運命の男と目を合わせた。
その瞬間、男はどうしても女の姿から目を離せず、道中役に立つだろうと奴隷の女を買った。
それは男にとってまったくの偶然であった。
二人は共に旅をすることになった。
奴隷として男の性欲を満たすために体を重ねながらも、男は呪いのせいで女を愛することはなかった。
女は何度抱かれても男が不幸になることがないことに喜んだ」

「しかし、それでは……彼女は愛を得られず、孤独なままだ」

ジェイスは何度肌を重ねても孤独だったローゼを思い出した。

「女が優先したのは男の幸福だけだ。
女は魔法使いであることを告白し、彼のために様々な手助けをした。
困っている人々を見つけてきては、彼にその情報を伝え、彼がその技量で人々を助けるように仕向けた。
盗賊が出たと聞けば鳥になって飛んでいき、敵の場所や人数、隠れ家の構造まで調べ男に知らせる。
男は女が次々に連れてくる困っている人々に、仕方なく手を貸した。
二人は一緒にいても引き離されるような事件は起こらず、男は人々に英雄と讃えられた。
その結末を私も楽しみに見守った。
魂に埋め込まれた運命と私たちの呪いがどう作用するのか、初めての試みだ」

またもやその女の話はローゼの姿と重なった。
二番目の女でもいいからジェイスを幸福にしたいと願い、自分の幸せを後回しにした。

「男には女に出会う前に婚約していた女性がいた。運命づけられた相手ではなかったが、王国の王女で、男はその夫になる予定だった。ところが、隣国の王子に王女を求められ、その婚約は破棄され、男は罪なく国から追放されてしまった。
そうして放浪中に女の奴隷を買った男は、旅先で数々の手柄を立て大陸で英雄と呼ばれた。
そしてついに王国から男にもう一度戻って来て欲しいと要請があった。
隣国の王が王女を人質に王国への侵略を開始したのだ。
周辺の国々が滅ぼされていく中、魔法使いになった女は男を助け、数々の戦いを勝利に導いた。
そして、隣国に人質としてとらえられていた王女を男に救出させることに成功した」

ジェイスは胸が苦しくなった。
愛する男が他の女性と愛を深める手伝いをするなど、どれほどの心の痛みがあっただろう。

「女は二人を逃がし、隣国を操っていた別の魔法使いと戦うことになった。
女は呪いのおかげで死なない体であったことから、隣国の魔法使いを討ち滅ぼした。
その手柄は全て主人である男のものであると主張し、男は魔法使いの女と共に、自分を追放した王国に英雄として凱旋した。
男は再び王国の王女の婚約者となった。
男は最後まで女を愛さなかったが、多大な恩を感じ、王国の専属魔法使いとして丁重に王国に迎え入れたいと申し出た。
女は褒美をくれるなら他のものが欲しいと訴えた。
無一文の男を大陸の英雄に押し上げ、さらに奪われた王女の夫の座まで取り返し、王になる未来までもたらした女の言葉に、男はどんな願いでもかなえると約束した」

ジェイスは黙ってその話の結末を待つ。

「女は欲しい報酬は一つだけ。男の幸せだけだと訴えた。
王女と結婚し、子供を為し、王として国を治め、幸福な人生を終えて欲しい。それだけが自分の願いだと女は男に訴えた。
男は女の願いを聞き届け、必ず幸せな人生を送ると女に約束した」

「彼女は?」

漆黒の髪の魔法使いはガラスの棺に眠る少女を指さした。

「彼女は私のところに戻ってきた。九度目の転生で新しい試みを成功させた彼女は、このまま呪いを振り切れるか確かめて欲しいと私に頼んだ。
運命は人の体を超人にするわけではない。魂が宿る肉体は歳を取り、衰える。
また生まれ変われば男と出会い、男を不幸にする。
彼女は、もう二度と生まれ変わることのないように、時を止め、ここで永遠の眠りにつくことに決めた。
男だけが生まれ変わり、誰かと愛し合い、幸福な人生を終えて、また死に、生まれ変わる。男の魂だけは不幸な呪いから逃れることが出来ると女は考えた」

「その男が、この老いた男なのか?なぜここに?」

ジェイスの問いに、最果ての魔法使いは怪しく微笑んだ。

「それは見た方が早いだろう。この時間軸を覗いて見よう」

棺と男を包む光がさらに眩しくなり、その中にまた別の光景が映し出された。





しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

私の息子を“愛人の子の下”にすると言った夫へ──その瞬間、正妻の役目は終わりました

放浪人
恋愛
政略結婚で伯爵家に嫁いだ侯爵令嬢リディアは、愛のない夫婦関係を「正妻の務め」と割り切り、赤字だらけの領地を立て直してきた。帳簿を整え、税の徴収を正し、交易路を広げ、収穫が不安定な年には備蓄を回す――伯爵家の体裁を保ってきたのは、いつも彼女の実務だった。 だがある日、夫オスヴァルドが屋敷に連れ帰ったのは“幼馴染”の女とその息子。 「彼女は可哀想なんだ」 「この子を跡取りにする」 そして人前で、平然と言い放つ。 ――「君の息子は、愛人の子の“下”で学べばいい」 その瞬間、リディアの中で何かが静かに終わった。怒鳴らない。泣かない。微笑みすら崩さない。 「承知しました。では――正妻の役目は終わりましたね」

冷徹公爵の誤解された花嫁

柴田はつみ
恋愛
片思いしていた冷徹公爵から求婚された令嬢。幸せの絶頂にあった彼女を打ち砕いたのは、舞踏会で耳にした「地味女…」という言葉だった。望まれぬ花嫁としての結婚に、彼女は一年だけ妻を務めた後、離縁する決意を固める。 冷たくも美しい公爵。誤解とすれ違いを繰り返す日々の中、令嬢は揺れる心を抑え込もうとするが――。 一年後、彼女が選ぶのは別れか、それとも永遠の契約か。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~

真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

処理中です...