久遠の海へ ー最期の戦線ー

koto

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赤く染まる北の大地

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「我々は貴国の軍組織が即刻、日本本土からの撤兵することを申し立てる。」
 連合国軍最高司令官総司令、いわゆるGHQは日本国の意思決定機関とも言えるほどの権力を有していた。選挙という極めて民主主義的な方法で政府閣僚が決められる日本は、GHQ独裁下にあるという、なんとも皮肉な体制が現状だった。
 しかし、GHQ内部も一枚岩ではなかった。
 
 英連邦とマッカーサー率いる米軍からなる派閥は、日本の降伏間近に参戦し、更にはポツダム宣言受託を拒否するという凶行に出たソ連を信用できなくなっていた。むしろ次の戦争相手とさえ認識していたほどだ。
その為、ソ連の国力を向上させることを良しとしない。だからこそ、ヤルタ会談以上の領土割譲を与えるべきではないという考えで一致していた。
 もう一つの派閥は、ヤルタ会談以上の成果を望むソ連と、それを暗黙した米政府の派閥だ。これは、留萌から釧路ライン以北の占領を望むソ連側の意思が尊重された結果だった。沖縄を将来的にも占領したいアメリカ政府にとって、その正当化の為にソ連に北海道北部の占領を許可したとさえ言えるだろう。
 だが、この関係は突然終わる事となった。ルーズベルトが急死し、副大統領トルーマンが大統領に就任したためだ。

 トルーマンは反共思想が強い人物だった。
「急に何をおっしゃいますか。アメリカは沖縄を、ソ連は北北海道をというのが、これまでの方針でしょう。」
 GHQ内部では米ソ代表者が会談に臨んでいた。ソ連にとっては、何ら前触れもなく米国の意思が180度変更されたのだから、その驚愕は計り知れないものだった。
 アメリカ側代表者もまた同じだった。ルーズベルトの急死を伝えられ、臨時に就任した副大統領はこれまでと全く反対の方針を打ち出す。混乱の渦中にあったといえる。

「とにかく、ソ連による北海道への侵攻は認められない。即時撤兵は米英両政府の意思である。」
 会談は平行線に終わる。それは当然のことだった。そして、この間にも道内では戦闘が続けられていた。

 日本の降伏文書調印式が行われた9月2日、ソ連軍が侵攻を開始した9月3日、その間に多くの日本人が犠牲になった。特に3日からはソ連日本占領軍司令部は降伏を拒否している日本軍残党に審判を下すと宣言し、戦闘機による攻撃も始めるに至っていた。
 ソ連軍航空機は稚内の近くにある浅茅野飛行場を拠点に行動していた。現在、ソ連軍が道内に有する唯一の航空基地だ。ここを確保するために、留萌のみではなく稚内に上陸していたのだ。そして、それは道内において航空機攻撃を行うことを当初から予想していた事を意味していた。
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