久遠の海へ ー最期の戦線ー

koto

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エピローグ 束の間の平和

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 アレクセイ大尉が率いる混成中隊は朝鮮半島の38度線以北に展開していた。この38度線は米ソ両国が同意したものだった。
 ソ連軍は満州と朝鮮北部の工業施設から工作機器などの各種資産をソ連本土へ輸送することを決定し、大部分の兵士がその任に当たっていた。その中にはダニイール兵長の姿もあった。
 彼が驚いたのは、敗戦国の民の姿ではなかった。これまで日本と共に戦った満州の民や、そもそも日本だった朝鮮の民が日本人を虐殺し、あるいは暴行、略奪などありとあらゆる犯罪を繰り広げたことだった。それは、まるで自らは戦勝国であると主張するかのようだった。そして、その滑稽さと、自らの罪を償わない姿勢をダニイールは直視することはできなかった。
――なんと汚いのか。これが今日まで日本軍と共に戦った者たちの最後なのか。
 
 そう考える中、複数の朝鮮人がこちらへ向かってきた。つたないソ連語で“女がいる”と告げ、何名かの兵士が彼に付いていった。今日のソ連軍は規律が完全にゆるみきっており、士官はそれを注意しようともせず、むしろ自らもついていく始末だった。
「これが今の戦争だ、兵長」
 指揮を取るアレクセイ大尉がそう声を掛ける。
「君の年で大人の汚さを知る必要はないのだが、部下はそれが分からないらしい。」
「私は祖国の為に戦い、二度と家族の下へ帰れない覚悟をしてました。だけど、だけど、終戦後のことを考えたことがありませんでした。」
 ダニイールは静かに、しかし純粋に話し、アレクセイもまた耳を傾けた。
「軍人は祖国を守る英雄たちだと聞かされてました。正義でもって国を脅かす悪を滅ぼす、名誉ある人々だと。でも、本当にそうなのでしょうか。今も何名かが任務を放棄し、女性の下へ行きました。こんなの犯罪じゃないですか!」

 ――ああ、本当にそうだよ。君は何も間違えていない。
 アレクセイは、心が痛むほど彼に同情していた。しかしそれを伝えることはなかった。だからこそ、代わりに一つの報告を話した。
「今回の戦争で、我が隊も多くの名誉を授かることができた。君にも勲章が授与される。それをもって、家族の下に帰りなさい。戦争は大人がする、汚い行為だ。まだ君が来るべき場所じゃない。」
 こうして、ダニイールの戦争は終わりを迎えた。機材を祖国へ運ぶ列車に乗り、家族の下へ帰る事となったのだ。
勲章と、“規律を守る立派な兵士”という虚像を抱えて。
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