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皇太子の婚約者は暗殺者?
24.サモフォル国王夫妻
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「ムーダン!」
「姉さん!」
病院まで退屈せずに到着したシャオヤオはまず真っ先にムーダンとの再会を果たした。
案内された病院で一番上等だと言う、扉からして違う病室。その両の扉が開かれた先にいた何よりも大切な存在に、シャオヤオは脇目も振らず駆け寄りその身体を抱きしめた。
「ムーダン…よかった無事で…」
「姉さんこそ、元気そうでよかった」
それこそシャオヤオの台詞。
シャオヤオと同じ父親譲りの黒髪を撫でてやりながら安堵の息を何重にも吐く。およそに二月ぶり、久方ぶりの弟は最後に会った時より、いや、今まで生きてきた中で一番元気そうに見えた。顔色は勿論、抱きしめて感じる身体の肉付きもこれまでとは段違いに良い。視力が低下した目には補う為の大きな眼鏡が掛けられている。
手厚い保護を受けてきたのは疑いようもない。
離れていた間の話を聞きたいのに、安心やら安堵やら色々な感情が湧き出てくるので忙しくてシャオヤオは「よかった」しか言葉に出来なかった。
「2人とも積もる話があるだろうが、それは後でたっぷりと時間を取りゆっくりと…でいいだろうか」
暫く姉弟で抱き合っていると、少しだけ気持ちが落ち着いてきたところで皇太子が声を掛けてきた。
「2人にどうしても会ってもらいたい方々いるんだ」
そう言って皇太子が扉の方を見ると、セドリックに案内されて年老いた男女が入って来た。寄り添う姿に男女が夫婦である事が伺える。
見慣れない、しかし質が良さそうな独特の装束に東大陸の顔立ち。わざわざ皇太子がシャオヤオとムーダンに引き合わせる老夫婦。ひょっとして…。
「もしかして、サモフォル国王夫妻、様ですか?」
シャオヤオが思った事をそのままにムーダンが言葉にする。
一連の事情はシャオヤオより先に聞かされ、賢くもすぐ飲み込めたと言う話だった。それで現れた老夫婦をシャオヤオと同じように連想し、そう尋ねるのだから流石である。
「然様。そなた達の祖父母とさせていただく年寄りにございます」
ゆっくりと老夫…サモフォル国王が頷く。
同盟の調印の為にいずれ帝国へ入国する予定や反乱軍の手に落ち処刑される予定を所々で耳にしていたが、実際は当に内乱は鎮められていた訳で、既に入国していても不思議ではない。処刑云々はダスティシュが掴まされた嘘情報と言ったところだろう。
そして姉弟と夫妻が顔を合わせた今、行われるのは認知…。
「2人には少しばかり爺と婆の話にお付き合いいただきたく…」
互いの身体を支えるように寄り添う国王夫妻のその表情には色々な感情が映し出されている。
素朴な疑問に過ぎないがシャオヤオも聞いてみたい事があったので、話をするのは構わない。
ムーダンとは後でゆっくり話をすればいいのだから。
国王夫妻は顔色こそは悪くないものの長年の隠遁生活の影響かやせ衰えていた。高齢と言う事もあり、立ったままなのも悪いので、病室にあるソファーに移動する。
テーブルを挟んで対面する席に姉弟と夫妻、テーブルの短辺に当たる席に皇太子がそれぞれ座った。セドリックは皇太子の後ろの定位置にいる。それ以外の人間は全て病室から出された。
テーブルにはお茶とお菓子が用意され、シャオヤオがいつも通りに目の不自由なムーダンに取ってやろうとしたら、分厚い眼鏡は優秀らしく大丈夫だと断られてしまった。嬉しいが、姉さんは少しだけ寂しい。
「2人はとても仲のよろしい姉弟なのですね」
シャオヤオとムーダンのやり取りを見ていたサモフォル王妃がそう言って静かに微笑む。どこか懐かしさを含むその視線と言葉には、姉弟を通して在りし日への思いが込められていた。
「貴方達のような素敵な御子の親の立場を偽る事への謝罪を、本当のご両親にしなくてはなりませんね」
「いえ、それは…。それよりも私達が子供だと名乗って本当に大丈夫なのでしょうか? 第三王女が本当に生きていたら、それこそ本物の子供もいるかもしれないのに」
隣でムーダンがコクリと頷いた。
両親の思い出はシャオヤオですら朧気で殆どない。ムーダンに至っては皆無と言える。思うところがない訳ではないが、生きる為に出自を偽る事への罪悪感ははっきり言って薄い。許してくれる人達であれば嬉しいし、偽るくらいならみすぼらしく朽ちろと言うような人達なら切り捨てる。そんな感じだ。
それよりも、行方不明の第三王女…戸籍上母親となる人の方が気になっていた。このまま話を進めて、突然現れて母親を名乗られるのも偽物だと罵られるのも困る。場合によっては本物の子供が名乗り出る可能性だってあるのではないだろうか。
それ等の可能性を皇太子側が想定していないとは思わないので、ならば何かしらの手を用意しているだろうから聞いておきたい。当初、皇太子を暗殺するつもりだった頃は気にもしなかったが、今目の前に釣り下げられている環境はムーダンの将来の為にも是非とも欲しいとシャオヤオは思っているので。
「その心配は必要ありません。我等が娘、第三王女フェンシュは……既にこの世にないのですから」
「え…」
そっと俯く国王夫妻に、シャオヤオとムーダンは揃って目を見開いた。
行方不明、正確には生死不明となっていたはずの第三王女。
実際には既に亡くなっていると親である国王夫妻は告げる。
それも…。
「あの子が亡くなったのはクーデターが起こった2日後」
30年前のその日、その夜、反乱軍は突如として王族が就寝していた城に攻め込んで来た。
兆候は…あったのかもしれない。長い繁栄と平和に腑抜けて、気付かなかっただけかもしれない。起きてしまえば詮無き事だ。
混乱の中、少ないながらも手勢に守られて王族達は城を脱出した。
その時だった。
国王へと真っ直ぐに矢が飛んできたのは。
その矢から、身を呈してフェンシュ王女が父親を守ったのは。
「当時のあの子は、弟君と同じ年頃でした」
即死は免れた。…いや、即死の方がまだ良かったのかもしれない。
命からがら王族全員が山の中へと逃げ込んだがまともな治療なんて出来ようもなく、傷の痛みと熱に苦しんだ後にフェンシュ王女は2日目に息を引き取った。
何もしてやれなかったと語る国王夫妻の目には、フェンシュ王女の姿が30年経った今でも鮮明に映し出されているようだ。自分を守って傷付いた娘が、その傷で苦しんでいるのに何も出来なかった事への苦悩はどれほどのものだったか…想像するだけでも胸が痛い。
しかし現実は彼等に感傷の時間すら与えてくれなかった。
逃走中の身ではいつまでも王女の亡骸を抱えて行く事は出来ない。埋葬も満足にしてやれない。そればかりか、下手に遺体を反乱軍に見付けられでもしたらどんな扱いを受ける事か…。
苦渋の末、反乱軍がクーデターに抵抗した一般市民を処刑しその遺体を積み上げていた広場があり、いずれまとめて遺体を埋める予定を聞いて、せめてもと、そこに王女を紛れさせる事にした。
王女の身分を現す装飾品は全て外し、それまでその身を飾っていた物に比べればあまりにも粗末な服へと着替えさせられた王女は、護衛の1人に抱えられて去っていった。
護衛は戻ってこなかった。護衛もまた身分を偽る為に装備を外し、一般市民と同じ装いにしていた。王女を安置していたところを反乱軍に捕まり詰問されるも、“娘”を失って逆上した父親を演じ、その場で処刑された。“娘”は…王女は…親子として共に、反乱軍によって広場に投げ捨てられたそうだ。
それを国王夫妻が知った頃、既に王族は散り散りになっていた。
いつまでも固まって動くよりかは、それぞれが有力者や協力者の元に匿ってもらい再起を図った方がいいだろうと言う考えだった。
「別れる日、残った子供達が言ったのです。フェンシュは生き延びた事にしようと」
口にこそ出さなかったが、皆が心の何処かで王族が全滅する可能性に気付いていた。いずれ自分達は炙り出され、分かる形で処刑されると。けれどフェンシュ王女だけは、自分達が口を割りさえしなければその死を知られる事は永遠にない。
王族が、たった1人でも、何処かで生きている。
その可能性は反乱軍を恐れさせ、王族を支持する者達には微かであっても救いとなる。
そしていつか、いつの日か、見えない希望が形ある光としてサモフォル王国に降り注ぐ事を夢見て。
フェンシュ王女か希望の光となる日を夢に見て…王族は別離の時を迎えた。
そうして30年。
「最初にフリーデン帝国の御使者と会った時は夢かと思いましたよ」
使者は公式に正面から会いに行った訳ではない。国王夫妻を匿う職人達にも気付かれずに、こっそり潜んで会いに行ったのだ。その姿を見て、初めは遂に自分達も反乱軍に見付かったのだと思い命の終わりを覚悟したと国王は小さく笑う。
しかしそんな覚悟を余所に、フリーデン帝国の使者を名乗ったその者は取引を提案して来た。
生死不明の第三王女フェンシュから始まる壮大な計画。
夢想し続けた、夢。
「何度も何度も諦めたフェンシュと言う希望は、我等をフリーデン帝国へと繋げてくれた…」
多くの思いを耐える表情の国王の瞳から涙が流れ落ちた。寄り添う王妃も同様だ。
1人、また1人と、王族が、我が子達が反乱軍に見付かりその命を断たれた知らせを受けながら国王夫妻は耐え続けた。彼等の誰1人として、フェンシュ王女の所在を漏らす者はいなかったそうだ。
国王夫妻も自分達を匿ってくれた職人達にすらフェンシュ王女の事実を明かさなかったので、事実を知るのはもはや、今この話を打ち明けられた者達を除けば、夫妻の2人だけである。
「でも第三王女は…私達の親は亡くなっている設定になっていますけど」
「えぇ。これでやっとあの子の墓も立ててやれる」
サモフォル王国から脱出したフェンシュ王女は身分を偽り西大陸へと移り住む。そこでその地の男性と結婚し、二子を儲ける。しかしフリーデン帝国を中心とした戦火に巻き込まれ難民として避難するも、その先で命を落とした。
それが、本来なら幼く終えたはずのフェンシュ王女の続きの人生。
偽りの続きの人生に、親として思うところがない訳ではないだろう。だがその偽りに対して不満を言うような娘だったかは、偽るくらいなら反乱軍に諸共蹂躙されて滅びろと言うような娘だったかは、彼等が一番良く分かっている。そこはシャオヤオやムーダンより、はっきりとしているはず。
「皇太子殿下」
ムーダンが徐に皇太子を呼ぶ。
「僕達もお墓を立ててよいでしょうか? 口に出して呼ぶ事は出来なくても、僕と姉さんの本当の両親への感謝の気持ちは、ちゃんと伝えたいんです」
「…合葬にはなるが、命を落とした難民達への慰霊碑を立てるつもりだ。建立者の中に2人の名前も刻もう。それで構わないだろうか?」
「はい、ありがとうございます」
皇太子の返答にムーダンは笑顔で頭を下げる。
シャオヤオはその姿を見て、ムーダンは優しい良い子だよ…とずっと胸の奥に仕舞いこんで忘れていた両親に心の中でそう話し掛けた。
「姉さん!」
病院まで退屈せずに到着したシャオヤオはまず真っ先にムーダンとの再会を果たした。
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「ムーダン…よかった無事で…」
「姉さんこそ、元気そうでよかった」
それこそシャオヤオの台詞。
シャオヤオと同じ父親譲りの黒髪を撫でてやりながら安堵の息を何重にも吐く。およそに二月ぶり、久方ぶりの弟は最後に会った時より、いや、今まで生きてきた中で一番元気そうに見えた。顔色は勿論、抱きしめて感じる身体の肉付きもこれまでとは段違いに良い。視力が低下した目には補う為の大きな眼鏡が掛けられている。
手厚い保護を受けてきたのは疑いようもない。
離れていた間の話を聞きたいのに、安心やら安堵やら色々な感情が湧き出てくるので忙しくてシャオヤオは「よかった」しか言葉に出来なかった。
「2人とも積もる話があるだろうが、それは後でたっぷりと時間を取りゆっくりと…でいいだろうか」
暫く姉弟で抱き合っていると、少しだけ気持ちが落ち着いてきたところで皇太子が声を掛けてきた。
「2人にどうしても会ってもらいたい方々いるんだ」
そう言って皇太子が扉の方を見ると、セドリックに案内されて年老いた男女が入って来た。寄り添う姿に男女が夫婦である事が伺える。
見慣れない、しかし質が良さそうな独特の装束に東大陸の顔立ち。わざわざ皇太子がシャオヤオとムーダンに引き合わせる老夫婦。ひょっとして…。
「もしかして、サモフォル国王夫妻、様ですか?」
シャオヤオが思った事をそのままにムーダンが言葉にする。
一連の事情はシャオヤオより先に聞かされ、賢くもすぐ飲み込めたと言う話だった。それで現れた老夫婦をシャオヤオと同じように連想し、そう尋ねるのだから流石である。
「然様。そなた達の祖父母とさせていただく年寄りにございます」
ゆっくりと老夫…サモフォル国王が頷く。
同盟の調印の為にいずれ帝国へ入国する予定や反乱軍の手に落ち処刑される予定を所々で耳にしていたが、実際は当に内乱は鎮められていた訳で、既に入国していても不思議ではない。処刑云々はダスティシュが掴まされた嘘情報と言ったところだろう。
そして姉弟と夫妻が顔を合わせた今、行われるのは認知…。
「2人には少しばかり爺と婆の話にお付き合いいただきたく…」
互いの身体を支えるように寄り添う国王夫妻のその表情には色々な感情が映し出されている。
素朴な疑問に過ぎないがシャオヤオも聞いてみたい事があったので、話をするのは構わない。
ムーダンとは後でゆっくり話をすればいいのだから。
国王夫妻は顔色こそは悪くないものの長年の隠遁生活の影響かやせ衰えていた。高齢と言う事もあり、立ったままなのも悪いので、病室にあるソファーに移動する。
テーブルを挟んで対面する席に姉弟と夫妻、テーブルの短辺に当たる席に皇太子がそれぞれ座った。セドリックは皇太子の後ろの定位置にいる。それ以外の人間は全て病室から出された。
テーブルにはお茶とお菓子が用意され、シャオヤオがいつも通りに目の不自由なムーダンに取ってやろうとしたら、分厚い眼鏡は優秀らしく大丈夫だと断られてしまった。嬉しいが、姉さんは少しだけ寂しい。
「2人はとても仲のよろしい姉弟なのですね」
シャオヤオとムーダンのやり取りを見ていたサモフォル王妃がそう言って静かに微笑む。どこか懐かしさを含むその視線と言葉には、姉弟を通して在りし日への思いが込められていた。
「貴方達のような素敵な御子の親の立場を偽る事への謝罪を、本当のご両親にしなくてはなりませんね」
「いえ、それは…。それよりも私達が子供だと名乗って本当に大丈夫なのでしょうか? 第三王女が本当に生きていたら、それこそ本物の子供もいるかもしれないのに」
隣でムーダンがコクリと頷いた。
両親の思い出はシャオヤオですら朧気で殆どない。ムーダンに至っては皆無と言える。思うところがない訳ではないが、生きる為に出自を偽る事への罪悪感ははっきり言って薄い。許してくれる人達であれば嬉しいし、偽るくらいならみすぼらしく朽ちろと言うような人達なら切り捨てる。そんな感じだ。
それよりも、行方不明の第三王女…戸籍上母親となる人の方が気になっていた。このまま話を進めて、突然現れて母親を名乗られるのも偽物だと罵られるのも困る。場合によっては本物の子供が名乗り出る可能性だってあるのではないだろうか。
それ等の可能性を皇太子側が想定していないとは思わないので、ならば何かしらの手を用意しているだろうから聞いておきたい。当初、皇太子を暗殺するつもりだった頃は気にもしなかったが、今目の前に釣り下げられている環境はムーダンの将来の為にも是非とも欲しいとシャオヤオは思っているので。
「その心配は必要ありません。我等が娘、第三王女フェンシュは……既にこの世にないのですから」
「え…」
そっと俯く国王夫妻に、シャオヤオとムーダンは揃って目を見開いた。
行方不明、正確には生死不明となっていたはずの第三王女。
実際には既に亡くなっていると親である国王夫妻は告げる。
それも…。
「あの子が亡くなったのはクーデターが起こった2日後」
30年前のその日、その夜、反乱軍は突如として王族が就寝していた城に攻め込んで来た。
兆候は…あったのかもしれない。長い繁栄と平和に腑抜けて、気付かなかっただけかもしれない。起きてしまえば詮無き事だ。
混乱の中、少ないながらも手勢に守られて王族達は城を脱出した。
その時だった。
国王へと真っ直ぐに矢が飛んできたのは。
その矢から、身を呈してフェンシュ王女が父親を守ったのは。
「当時のあの子は、弟君と同じ年頃でした」
即死は免れた。…いや、即死の方がまだ良かったのかもしれない。
命からがら王族全員が山の中へと逃げ込んだがまともな治療なんて出来ようもなく、傷の痛みと熱に苦しんだ後にフェンシュ王女は2日目に息を引き取った。
何もしてやれなかったと語る国王夫妻の目には、フェンシュ王女の姿が30年経った今でも鮮明に映し出されているようだ。自分を守って傷付いた娘が、その傷で苦しんでいるのに何も出来なかった事への苦悩はどれほどのものだったか…想像するだけでも胸が痛い。
しかし現実は彼等に感傷の時間すら与えてくれなかった。
逃走中の身ではいつまでも王女の亡骸を抱えて行く事は出来ない。埋葬も満足にしてやれない。そればかりか、下手に遺体を反乱軍に見付けられでもしたらどんな扱いを受ける事か…。
苦渋の末、反乱軍がクーデターに抵抗した一般市民を処刑しその遺体を積み上げていた広場があり、いずれまとめて遺体を埋める予定を聞いて、せめてもと、そこに王女を紛れさせる事にした。
王女の身分を現す装飾品は全て外し、それまでその身を飾っていた物に比べればあまりにも粗末な服へと着替えさせられた王女は、護衛の1人に抱えられて去っていった。
護衛は戻ってこなかった。護衛もまた身分を偽る為に装備を外し、一般市民と同じ装いにしていた。王女を安置していたところを反乱軍に捕まり詰問されるも、“娘”を失って逆上した父親を演じ、その場で処刑された。“娘”は…王女は…親子として共に、反乱軍によって広場に投げ捨てられたそうだ。
それを国王夫妻が知った頃、既に王族は散り散りになっていた。
いつまでも固まって動くよりかは、それぞれが有力者や協力者の元に匿ってもらい再起を図った方がいいだろうと言う考えだった。
「別れる日、残った子供達が言ったのです。フェンシュは生き延びた事にしようと」
口にこそ出さなかったが、皆が心の何処かで王族が全滅する可能性に気付いていた。いずれ自分達は炙り出され、分かる形で処刑されると。けれどフェンシュ王女だけは、自分達が口を割りさえしなければその死を知られる事は永遠にない。
王族が、たった1人でも、何処かで生きている。
その可能性は反乱軍を恐れさせ、王族を支持する者達には微かであっても救いとなる。
そしていつか、いつの日か、見えない希望が形ある光としてサモフォル王国に降り注ぐ事を夢見て。
フェンシュ王女か希望の光となる日を夢に見て…王族は別離の時を迎えた。
そうして30年。
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しかしそんな覚悟を余所に、フリーデン帝国の使者を名乗ったその者は取引を提案して来た。
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夢想し続けた、夢。
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多くの思いを耐える表情の国王の瞳から涙が流れ落ちた。寄り添う王妃も同様だ。
1人、また1人と、王族が、我が子達が反乱軍に見付かりその命を断たれた知らせを受けながら国王夫妻は耐え続けた。彼等の誰1人として、フェンシュ王女の所在を漏らす者はいなかったそうだ。
国王夫妻も自分達を匿ってくれた職人達にすらフェンシュ王女の事実を明かさなかったので、事実を知るのはもはや、今この話を打ち明けられた者達を除けば、夫妻の2人だけである。
「でも第三王女は…私達の親は亡くなっている設定になっていますけど」
「えぇ。これでやっとあの子の墓も立ててやれる」
サモフォル王国から脱出したフェンシュ王女は身分を偽り西大陸へと移り住む。そこでその地の男性と結婚し、二子を儲ける。しかしフリーデン帝国を中心とした戦火に巻き込まれ難民として避難するも、その先で命を落とした。
それが、本来なら幼く終えたはずのフェンシュ王女の続きの人生。
偽りの続きの人生に、親として思うところがない訳ではないだろう。だがその偽りに対して不満を言うような娘だったかは、偽るくらいなら反乱軍に諸共蹂躙されて滅びろと言うような娘だったかは、彼等が一番良く分かっている。そこはシャオヤオやムーダンより、はっきりとしているはず。
「皇太子殿下」
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「僕達もお墓を立ててよいでしょうか? 口に出して呼ぶ事は出来なくても、僕と姉さんの本当の両親への感謝の気持ちは、ちゃんと伝えたいんです」
「…合葬にはなるが、命を落とした難民達への慰霊碑を立てるつもりだ。建立者の中に2人の名前も刻もう。それで構わないだろうか?」
「はい、ありがとうございます」
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