Angry Days

櫻井広大

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 久しぶりに聞いたケイコの声はセアンを安堵させ、穏やかな気分にさせた。その日の夜は気絶するように眠り、しばらくは夢の中にいた。
 近くでトラックがひっくり返りそうな勢いそのままクラクションホーンを鳴らしたときに目が覚めた。一匹の猫がストリートへ飛び出したらしく、それを避けようとしたドライバーが反射的に鳴らしてしまったのだとみえた。車内から身を半分乗り出した巨漢で髭もじゃのドライバーは腕で額を拭い、ゆったりとストリートを横切る猫を呆れるように見送った。その後、エンジン音を轟かせ、トラックはうっすら電灯に照らさせながら、ガタゴトと消えていった。
 ストリートの真ん中に立ち、夜空を見上げると星がひとつやふたつ、点在していた。指で星を繋いでみればケイコと自分が浮かび上がるかなと思ったが、ただ指が目の前で揺らめいただけだった。じっと星を眺めていると次第に光を失い、夜空で彷徨ったかのように感じた。しかし、視線を外してみると星に光が蘇り、見つめると消える。なんでこんなに呼吸が苦しくなるのだろう。空を見上げているからではない。なんでこんなに自分はケイコを待ち続けているのだろう。ケイコを探して会えないと、なんでこんなに一人ぼっちに感じるのだろう。もともと孤独には慣れているはずなのに。
 以前の孤独な状態は、孤独でなかった。なべて人間に不信を抱き、期待などしていなかった。一人でいることを心底望んでいた。人が来るのを恐れ、嫌っていた。自分から招いた孤独は、孤独でなかった。
 しかし、自分の元へ来ないだろうかと願いながら待つ孤独は、孤独だった。いったん快楽を味わってしまったら、もうそれなしでは浮き足立つのは抑えられない。その人を待つのをやめることができない。早く会いたい。早く来てくれ。早く。早く。そればかり考えてしまう。人影が頭上を覆うと思わずケイコ、と呼んでしまう。異常だろうか。もうちょっと待ってみようかな、と変に辛抱強くなるのはケイコに会いたいから。それでも会えないと恨みと悲しみと虚しさが口に広がるのは、ケイコに会いたいから。いっそのことどこかへ駆け出してケイコとの距離を少しでも縮めたいと願うのは、ケイコに会いたいから。駆け出して、ケイコがもしここにやって来てしまったら、せっかくのチャンスが無駄になると憶測を立ててしまうのは、ケイコに会いたいから。全てケイコに会いたいがためなんだ。会いたいから、ここを動くことができないんだ。
 今日こそは来るだろうか、なんて考えるのは疲れた。考えたって何も変わらないなら、考えない方がいい。ただひたすら座っていれば時間がケイコの来訪を教えてくれるはずだ。そう思うと夜空から視線を外し、またビニール袋をかぶって眠りについた。
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