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白銀の夜明け ―聖域の向こう側へ―
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数日後、朝の光が辺境の隠れ家に差し込んでいた。
エルフレイドは鏡の前に立ち、新しい旅装に身を包んでいた。白銀の鎧も、聖教国の紋章が入ったマントもここにはない。代わりに纏ったのは、質素だが丈夫な、どこにでもいる旅人の服だった。
ふと、彼女の手が自分の胸元に触れる。
数日前まで絶望に震えていたその場所には、もう何の痛みも、不吉な脈動もない。あるのは、レオンハルトが心血を注いで取り戻してくれた、温かな鼓動だけだ。
「……準備はいいですか、エルフレイド様」
部屋に入ってきたレオンハルトが、彼女をかつての「団長」ではなく、一人の女性としての名で呼んだ。
彼はすでに馬の準備を終え、聖教国の追っ手が届かない隣国への地図を広げている。
「ええ。もう『様』はいらないわ、レオンハルト。私はもう、国を守る盾ではないのだから」
彼女は微笑み、彼が差し出した手をごく自然に握り返した。
聖教国は今頃、消えた「零号検体」の捜索に躍起になっているだろう。魔族との戦いも、教会の腐敗も、まだ終わってはいない。
だが、エルフレイドの心に迷いはなかった。一度は泥に沈み、地獄の底を這った彼女にとって、この平凡な「自由」こそが、何よりも尊い奇跡だった。
「これからは、自分のために、そしてあなたのために戦いたい。……いいかしら?」
「もちろんです。あなたの行く道が、俺の戦場だ」
二人は隠れ家を後にし、朝露に濡れた草原へと歩み出す。
かつて戦場で血を流し、絶望に叫んだエルフレイドの瞳には、今、ただ真っ直ぐに続く道と、隣を歩く最愛の男の横顔だけが映っていた。
白銀の聖女の伝説は、あの日、地獄の泥濘の中で潰えた。
そして今、ただ一人の女としての、新しい物語が始まろうとしている。
二人の影が、昇り始めた太陽の光の中に溶けて消えていく。
その足取りは、どこまでも軽く、そして力強かった。
完
エルフレイドは鏡の前に立ち、新しい旅装に身を包んでいた。白銀の鎧も、聖教国の紋章が入ったマントもここにはない。代わりに纏ったのは、質素だが丈夫な、どこにでもいる旅人の服だった。
ふと、彼女の手が自分の胸元に触れる。
数日前まで絶望に震えていたその場所には、もう何の痛みも、不吉な脈動もない。あるのは、レオンハルトが心血を注いで取り戻してくれた、温かな鼓動だけだ。
「……準備はいいですか、エルフレイド様」
部屋に入ってきたレオンハルトが、彼女をかつての「団長」ではなく、一人の女性としての名で呼んだ。
彼はすでに馬の準備を終え、聖教国の追っ手が届かない隣国への地図を広げている。
「ええ。もう『様』はいらないわ、レオンハルト。私はもう、国を守る盾ではないのだから」
彼女は微笑み、彼が差し出した手をごく自然に握り返した。
聖教国は今頃、消えた「零号検体」の捜索に躍起になっているだろう。魔族との戦いも、教会の腐敗も、まだ終わってはいない。
だが、エルフレイドの心に迷いはなかった。一度は泥に沈み、地獄の底を這った彼女にとって、この平凡な「自由」こそが、何よりも尊い奇跡だった。
「これからは、自分のために、そしてあなたのために戦いたい。……いいかしら?」
「もちろんです。あなたの行く道が、俺の戦場だ」
二人は隠れ家を後にし、朝露に濡れた草原へと歩み出す。
かつて戦場で血を流し、絶望に叫んだエルフレイドの瞳には、今、ただ真っ直ぐに続く道と、隣を歩く最愛の男の横顔だけが映っていた。
白銀の聖女の伝説は、あの日、地獄の泥濘の中で潰えた。
そして今、ただ一人の女としての、新しい物語が始まろうとしている。
二人の影が、昇り始めた太陽の光の中に溶けて消えていく。
その足取りは、どこまでも軽く、そして力強かった。
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