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第一章 奴隷たちの島々
第18話 血まみれの恋
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ヨハネは鉄格子から顔を突き出しながら声を殺して叫んだ。
「こっち。こっちだよ。生垣の一番下。その小さな柊モクセイの横」
娘は両手で自分の肩を抱きしめながら、ゆっくりとヨハネに向かって歩いてきた。裸足の足が敷き砂を踏んで、サク、サクと音を立てた。娘は茂みの隙間に傷だらけのヨハネの顔を見つけて叫んだ。
「あなた!」
そして声を押し殺した小さな声でつぶやいた。
「あなた、いったいそんな所で何やってるの。血がいっぱい出てるじゃない」
彼女は鉄格子の前まで来てしゃがみ込むと、右腕に巻き付けてあった手ぬぐいをほどいて、ヨハネの顔に付いた傷口を拭いた。井戸水で湿らせてあったその手ぬぐいは、ほてった傷口を心地よく冷やした。しゃがみ込んだ娘の顔は、ちょうどヨハネが顔を突っ込んでいる鉄格子の少し上にあった。
娘はクスクス笑って言った。
「まるで芋虫みたい」
「ひどいなあ。必死で通り抜けたんだよ」
「どうやってこの壁を通り抜けたの」
「これは壁じゃないよ。生垣だよ。隙間はたくさんあるよ」
「でもこの木は棘だらけでしょ」
「そうだよ。だから全身傷だらけの血まみれになったんだ」
「なに考えてるのよ」
「もう一度、君に会いたかったんだよ」
そう言われると娘は目を大きく見開いて、ゆっくりと閉じると、まるでまつ毛が重くなったようにゆっくりと目を半分だけ開いた。
「僕はヨハネ。この商会の奉公人だ。君の名前は?」
「昼間も言ったでしょう。奴隷に名前なんかないわ。あるのは奴隷番号だけ。」
「じゃあ、なんて呼ばれてるの」
「奴隷番号T」
「じゃあ、ティーって呼んでいいかい? いい響きだと思わない? ティーってさ」
娘はしばらく瞳を左右に動かして、迷っていたが、やがてクスクスと笑い出した。
「いいかもしれないわね。ティー。番号よりずっといいわ。ここでの私の名前はティー」
「ここでのあつかいはどう。食事や寝床はどうなってるの」
「食事はアロースのお粥よ。夜は寝わらで寝るの」
「えっ、男奉公人より良い食べ物じゃないか」
「そうなの? 奴隷は大事な商品だから、良いものを食べさせて、清潔にさせられるのよ。その方が高く売れるから」
ヨハネはそれを聞いてティーから視線を逸そらした。ティーもいつかどこかに売られていく、一時的に商品が倉庫に納められている、今はその束の間だった。
「ねえ。あなたも今日の野次馬の中にいたの? 馬車に乗る時の」
「いいや。僕は遠くにいてあそこにはいなかったよ」
「やめさせようとは思わなかったの」
「無理だよ。僕は一番の下っ端で、今日も顔の骨が砕けるほど殴られたんだよ」
「ふうん。勇気がないのね」
「無茶だよ。他の奉公人たちはたくさんいるんだよ」
「……まあいいわ。許してあげる。この手ぬぐい貸してくれて、嬉しかった。人に優しくされたの、久しぶりだったから」
そう言うとティーは鉄格子に、体をかがめてヨハネの首に手ぬぐいを巻いた。その時、ティーの服の胸元が少し下がって胸の膨らみが少しだけ、ヨハネの目に入った。ティーの黒い髪の毛が、ヨハネの鼻先をかすめ、甘い臭いが鼻孔に満ちた。
「もう、戻らなくっちゃ。ほかの女奴隷たちが感づくわ」
「もう少し大丈夫だよ」
「だめよ。みんな勘が鋭いんだから」
「そうだ。これあげるよ。今日もらったんだ。市参事会の黒パン」
ヨハネは懐から、掃除人足の代わりにもらったおがくず入りのパンを取り出してティーに手渡した。
「ありがとう。実はとってもお腹がすいてたの。でもあなたはいいの?」
「僕は大丈夫。食べなよ。おがくずの少ないパンだよ」
「うん。ありがとう。じゃあ、私は帰るわ。見つかると大変だから」
ティーは立ち上がった。
「待って。また会いに来る。また会えるよね」
「うん。わたし夜はできるだけ裏庭に出るようにするから」
そう言い残すと、ティーは奴隷小屋の裏口へ小走りで駆け去った。
髪が揺れ、白い貫頭衣の裾が上下に揺れるのを見て、ヨハネの胸は熱くなった。
この後、またカラタチの棘と柊ひいらぎモクセイの刃がヨハネの帰り道を待っていたが、そんな事は気にならないほど彼の心も体も熱くなっていた。ヨハネは長くて細いため息をつくと、体をねじって棘と刃の道を這いつくばって帰った。
ヨハネの通った後には、満月の青い光を受けたカラタチの白い花が力強く咲いていた。
「こっち。こっちだよ。生垣の一番下。その小さな柊モクセイの横」
娘は両手で自分の肩を抱きしめながら、ゆっくりとヨハネに向かって歩いてきた。裸足の足が敷き砂を踏んで、サク、サクと音を立てた。娘は茂みの隙間に傷だらけのヨハネの顔を見つけて叫んだ。
「あなた!」
そして声を押し殺した小さな声でつぶやいた。
「あなた、いったいそんな所で何やってるの。血がいっぱい出てるじゃない」
彼女は鉄格子の前まで来てしゃがみ込むと、右腕に巻き付けてあった手ぬぐいをほどいて、ヨハネの顔に付いた傷口を拭いた。井戸水で湿らせてあったその手ぬぐいは、ほてった傷口を心地よく冷やした。しゃがみ込んだ娘の顔は、ちょうどヨハネが顔を突っ込んでいる鉄格子の少し上にあった。
娘はクスクス笑って言った。
「まるで芋虫みたい」
「ひどいなあ。必死で通り抜けたんだよ」
「どうやってこの壁を通り抜けたの」
「これは壁じゃないよ。生垣だよ。隙間はたくさんあるよ」
「でもこの木は棘だらけでしょ」
「そうだよ。だから全身傷だらけの血まみれになったんだ」
「なに考えてるのよ」
「もう一度、君に会いたかったんだよ」
そう言われると娘は目を大きく見開いて、ゆっくりと閉じると、まるでまつ毛が重くなったようにゆっくりと目を半分だけ開いた。
「僕はヨハネ。この商会の奉公人だ。君の名前は?」
「昼間も言ったでしょう。奴隷に名前なんかないわ。あるのは奴隷番号だけ。」
「じゃあ、なんて呼ばれてるの」
「奴隷番号T」
「じゃあ、ティーって呼んでいいかい? いい響きだと思わない? ティーってさ」
娘はしばらく瞳を左右に動かして、迷っていたが、やがてクスクスと笑い出した。
「いいかもしれないわね。ティー。番号よりずっといいわ。ここでの私の名前はティー」
「ここでのあつかいはどう。食事や寝床はどうなってるの」
「食事はアロースのお粥よ。夜は寝わらで寝るの」
「えっ、男奉公人より良い食べ物じゃないか」
「そうなの? 奴隷は大事な商品だから、良いものを食べさせて、清潔にさせられるのよ。その方が高く売れるから」
ヨハネはそれを聞いてティーから視線を逸そらした。ティーもいつかどこかに売られていく、一時的に商品が倉庫に納められている、今はその束の間だった。
「ねえ。あなたも今日の野次馬の中にいたの? 馬車に乗る時の」
「いいや。僕は遠くにいてあそこにはいなかったよ」
「やめさせようとは思わなかったの」
「無理だよ。僕は一番の下っ端で、今日も顔の骨が砕けるほど殴られたんだよ」
「ふうん。勇気がないのね」
「無茶だよ。他の奉公人たちはたくさんいるんだよ」
「……まあいいわ。許してあげる。この手ぬぐい貸してくれて、嬉しかった。人に優しくされたの、久しぶりだったから」
そう言うとティーは鉄格子に、体をかがめてヨハネの首に手ぬぐいを巻いた。その時、ティーの服の胸元が少し下がって胸の膨らみが少しだけ、ヨハネの目に入った。ティーの黒い髪の毛が、ヨハネの鼻先をかすめ、甘い臭いが鼻孔に満ちた。
「もう、戻らなくっちゃ。ほかの女奴隷たちが感づくわ」
「もう少し大丈夫だよ」
「だめよ。みんな勘が鋭いんだから」
「そうだ。これあげるよ。今日もらったんだ。市参事会の黒パン」
ヨハネは懐から、掃除人足の代わりにもらったおがくず入りのパンを取り出してティーに手渡した。
「ありがとう。実はとってもお腹がすいてたの。でもあなたはいいの?」
「僕は大丈夫。食べなよ。おがくずの少ないパンだよ」
「うん。ありがとう。じゃあ、私は帰るわ。見つかると大変だから」
ティーは立ち上がった。
「待って。また会いに来る。また会えるよね」
「うん。わたし夜はできるだけ裏庭に出るようにするから」
そう言い残すと、ティーは奴隷小屋の裏口へ小走りで駆け去った。
髪が揺れ、白い貫頭衣の裾が上下に揺れるのを見て、ヨハネの胸は熱くなった。
この後、またカラタチの棘と柊ひいらぎモクセイの刃がヨハネの帰り道を待っていたが、そんな事は気にならないほど彼の心も体も熱くなっていた。ヨハネは長くて細いため息をつくと、体をねじって棘と刃の道を這いつくばって帰った。
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