ガレオン船と茶色い奴隷

芝原岳彦

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第三章 流転する運命

第65話 進化するエル・デルタ

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 初夏の市場は異様な活気にあふれていた。



 今までより多くのガレオン船が沖に停泊していた。

 それらと陸の間を、おびただしいハシケが往復していた。ハシケは両側に何本ものかいを付け、それを百足むかでのように規則正しく動かしながら、ガレオン船と陸地を往復していた。ハシケは、交易品の木箱、傭兵や人足、そして奴隷を運んでいた。それらの商品は陸地に着くなり、様々な形の馬車に乗せられてエル・デルタの街へ入った。ただ、奴隷用の馬車は真っ黒に塗り上げた不気味な色をしていた。



 ヨハネは、街の郊外にある丘の上に立って街と港の様子を眺めていた。



 港の様子は短い間で明らかに変わっていた。ガレオン船の停泊数は増え、ハシケは数えきれない程になった。交易品の量は増える一方だった。また、ガレオン船から送り込まれる人々も変わった。

 今までは、茶色い肌に黒い髪の小柄な人々が入ってきたが、今ではそれに加えて黒い肌で手足の長い人々も港に運ばれてきた。奴隷や奉公人が足りなくなっている証拠だった。
 それでも奴隷と奉公人の価格は値崩れしていなかった。

 人が欲しがられているのだ、奴隷商会で6年間働いているヨハネはそう考えた。



 次にヨハネはエル・デルタの街並みを見下ろした。
 北の大山脈から流れ出る大河の下流には、幾つもの二等辺三角形の中州が規則正しく造られていた。それらに加えて新しい三角の小島が幾つも海に向かって新たに作られ始めていた。たくさんの人足たちがそこで立ち働いていた。ヨハネもその中に交じって週に六日は働いていた。定期的に大増水する大河に流されないように、それらの小さな三角の島々は大石で土台を固められ、周囲は大きな石垣で守れられていた。その石垣で固められた中州群なかすぐんは、二等辺三角形の先を川の流れに向けて造られていた。島の間にはアーチ状の大きな橋が幾つも造られ、その上を様々な形をした馬車が行き来をしていた。



 食料や衣服を運ぶ大きな馬車、奴隷を運ぶ黒い馬車、そしてここ数月で増えたのが、個人を運ぶ馬車や10人近い人間を運ぶ乗合のりあい馬車だった。

 そのため御者不足・馬車不足が起こった。

 それを見越して北の大山脈からは大量の馬車と御者が送り込まれてきた。山脈の氏族は、エル・デルタで流通と運輸の需要があると聞きつけると、森の木を切って大量の馬車を作り、エリアールから買った大量の奉公人や奴隷に御者としての訓練を施してエル・デルタに送り込んだ。馬車業者たちはジェン紙幣やピラドル銀貨の準備が間に合わず、支払期日を遠目に設定した約束手形で支払いをした。氏族の代理人たちは手形払いを快く思わなかったが、通常の1割増の値段設定と引き換えに長めの支払い期日を認めた。その手形の満期までに代金を払うべく、御者たちは朝から晩まで人や物を乗せて街や海辺を走り回っていた。馬車を大量に保有して物流を行う大きな運送会社もエル・デルタに登場し始めた。



 ヨハネは街の変化の目まぐるしさにため息の出る思いだった。彼はしばらく市場を眺めていたが、人を探しに丘を降りて海辺の市場に入って行った。
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