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痴漢のターゲット探しは、実は駅のホームで乗車待ちの列が整う前に終わっていることが多い。ターゲットをロックオンする目、荒くなる鼻息。あ、この人、痴漢する気だ、と察するのは案外簡単だったりもする。そして、痴漢はターゲットの真後ろをさりげなく陣取り、あとは乗車の流れにあわせて女の子に身体を密着させるのだ。
そうはさせないぞと、尚也は今日も痴漢をしそうな男と清佳の間に割り込み、彼女の真後ろに陣取る。その行動に、まるで自分こそが痴漢のようだと、彼は自嘲した。その代わり彼はいつも、最終的にはさやかと背中合わせになるように、乗りながら身体をひねる。もちろん、鞄を両手で前に抱えるのも忘れない。
しかし今日は少し違った。清佳と背中合わせになりながら、尚也の心臓は緊張と羞恥と背徳感とその他の色々な感情で今にも破裂してしまうのではないかという程、早鐘を打っていた。心臓を隠すように鞄を片手で抱えると、彼はその時を待った。
“その時”を想像しただけで、尚也の下半身に血が集まる。──ヤバイ。これじゃあ俺は、まるで本物の痴漢じゃないか。少し前屈みになりながら彼は軽く深呼吸をし、心を落ち着けるために今日提出の小難しい課題レポートの事を考えた。
──いや、まるで、じゃない。俺は今から彼女のために痴漢をするのだ。
鼻にかけるような車掌の声が、清佳の降りる乗り換え駅に到着することを告げる。車両のドアが開く瞬間、尚也は鞄を持っていない方の手を捻って、なるべくいやらしく、清佳の臀部を触った。
清佳はハッとして、電車から降りる大勢の人に流されながらキョロキョロと辺りを見回した。そして、喜びを押し隠すように唇を噛む。──やった! 私もついに痴漢に遭ったんだわ!
ついに朝の雑談で報告できる、と、彼女は痴漢のいやらしい手つきを思い出しながら、晴れやかな気分で乗り換えのホームへと向かった。
尚也は、大部分の人が降りてかなり空間に余裕のできた電車の中で、動悸の収まらない心臓を、抱える荷物で隠していた。物凄い後悔と、誰かが見ていたんじゃないかという不安が襲ってくる。しかし、そんな中にふつふつと何ともいえない高揚感があることに気がついて、尚也は心の内でかぶりを振った。
──こんな大それたことができたんだ。今度こそ、あの子に声をかけよう。尚也はそんな事を考えながら、動悸が収まるのを待った。
その日の夕方、清佳は珍しく一人で帰った。自身が部活で遅くなり、夏実には先に帰ってもらったのだ。帰宅ラッシュで混雑する乗り換えの駅のホームで電車を待っていると、
「こんばんは」
と声をかけられた。清佳が声のした方を向くと、大学生くらいの男性がいた。まったく知らない人なので、彼女は警戒して、返事はせずに一歩後ずさった。
「突然で、びっくりしたよね。実はよく電車が一緒になってて、君のこと気になってたんだ」
そう言われると清佳も悪い気はしない。顔を上げてよくよく見ると、ちょっと好みの顔かも、と思い直した。
尚也と清佳がぎこちなく軽い自己紹介をしていると、ホームに電車が入ってくる。待ち列の全員がこの車両に乗れば、朝のラッシュほどではないとはいえ、かなり窮屈だろう。
「清佳さん可愛いから、電車で変な奴が寄ってこないように俺が守るよ」
二人で一緒に電車に乗りながら、尚也が言った。清佳はいきなりかけられた甘い言葉に、赤面しながらも、少し嬉しそうに笑った。
──今までもずっと見守ってたし、君の願いも叶えてあげるからね。
end
そうはさせないぞと、尚也は今日も痴漢をしそうな男と清佳の間に割り込み、彼女の真後ろに陣取る。その行動に、まるで自分こそが痴漢のようだと、彼は自嘲した。その代わり彼はいつも、最終的にはさやかと背中合わせになるように、乗りながら身体をひねる。もちろん、鞄を両手で前に抱えるのも忘れない。
しかし今日は少し違った。清佳と背中合わせになりながら、尚也の心臓は緊張と羞恥と背徳感とその他の色々な感情で今にも破裂してしまうのではないかという程、早鐘を打っていた。心臓を隠すように鞄を片手で抱えると、彼はその時を待った。
“その時”を想像しただけで、尚也の下半身に血が集まる。──ヤバイ。これじゃあ俺は、まるで本物の痴漢じゃないか。少し前屈みになりながら彼は軽く深呼吸をし、心を落ち着けるために今日提出の小難しい課題レポートの事を考えた。
──いや、まるで、じゃない。俺は今から彼女のために痴漢をするのだ。
鼻にかけるような車掌の声が、清佳の降りる乗り換え駅に到着することを告げる。車両のドアが開く瞬間、尚也は鞄を持っていない方の手を捻って、なるべくいやらしく、清佳の臀部を触った。
清佳はハッとして、電車から降りる大勢の人に流されながらキョロキョロと辺りを見回した。そして、喜びを押し隠すように唇を噛む。──やった! 私もついに痴漢に遭ったんだわ!
ついに朝の雑談で報告できる、と、彼女は痴漢のいやらしい手つきを思い出しながら、晴れやかな気分で乗り換えのホームへと向かった。
尚也は、大部分の人が降りてかなり空間に余裕のできた電車の中で、動悸の収まらない心臓を、抱える荷物で隠していた。物凄い後悔と、誰かが見ていたんじゃないかという不安が襲ってくる。しかし、そんな中にふつふつと何ともいえない高揚感があることに気がついて、尚也は心の内でかぶりを振った。
──こんな大それたことができたんだ。今度こそ、あの子に声をかけよう。尚也はそんな事を考えながら、動悸が収まるのを待った。
その日の夕方、清佳は珍しく一人で帰った。自身が部活で遅くなり、夏実には先に帰ってもらったのだ。帰宅ラッシュで混雑する乗り換えの駅のホームで電車を待っていると、
「こんばんは」
と声をかけられた。清佳が声のした方を向くと、大学生くらいの男性がいた。まったく知らない人なので、彼女は警戒して、返事はせずに一歩後ずさった。
「突然で、びっくりしたよね。実はよく電車が一緒になってて、君のこと気になってたんだ」
そう言われると清佳も悪い気はしない。顔を上げてよくよく見ると、ちょっと好みの顔かも、と思い直した。
尚也と清佳がぎこちなく軽い自己紹介をしていると、ホームに電車が入ってくる。待ち列の全員がこの車両に乗れば、朝のラッシュほどではないとはいえ、かなり窮屈だろう。
「清佳さん可愛いから、電車で変な奴が寄ってこないように俺が守るよ」
二人で一緒に電車に乗りながら、尚也が言った。清佳はいきなりかけられた甘い言葉に、赤面しながらも、少し嬉しそうに笑った。
──今までもずっと見守ってたし、君の願いも叶えてあげるからね。
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