いつか君に巡り逢える

原口源太郎

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第2章

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「今の人たち、二年生?」
 そう言って僕を見上げる目を、思い出していた。
 駅前で優菜のマンションの名前を教えてくれた子だ。優菜の一番仲のいい友達で、確か岩崎という名前だった。
「そうだよ。一人は俺の友達の彼女」
「何だ。じゃああんなことしなくてもよかったんだ」
「そんなことないよ、俺は友達にも教えてないから。助かった。ね」
 そう言って僕は優菜を見た。優菜は笑って頷く。
 岩崎は優菜の親友であり、それまでの経緯もあるから、事情は全て知っている。
 サッカー部のマネージャーを始めた岩崎が偶然ここを通りかかって助かった。咄嗟にあんなことができるなんて凄いことだ。
「今のこと、彼には内緒ね」
 岩崎が優菜に言う。岩崎には中学時代から付き合っている彼がいる。もちろんサッカー部だ。
 僕たちはそのまま駅まで三人で歩いていった。
「今度アイスでもおごって下さいね」
 岩崎が人懐っこい顔で明るく言った。
「はいはい」
 僕はとても大変なことを引き受けてしまったように大げさに返事をしてやった。
 岩崎という子は頭がいい。勉強ができるかどうかはわからないけれど、何事にも機転が利くタイプだ。もしかしたら、優菜のことを尋ねた時にマンションの名前を教えてくれたのも、今の僕たちのことを予想してのことだったのかもしれない。
 優菜と岩崎が改札をぬけていくのを僕は見送った。
 優菜が振り返り、笑顔を見せる。僕も片手を挙げて応えた。

 何日か、優菜と顔を合わせない日が続いた。遠くから見かけることがあっても、それだけだった。ちょっと寂しい気がするけれど、仕方がない。本当は僕の彼女は優菜なんだぞと大きな声で学校中に言って回りたい気分だった。
 そんなある日の朝、僕は下駄箱の奥に、小さな封筒を見つけてドキッとした。普通サイズの半分くらいの大きさで、男の子と女の子が並んで虹を見ている絵がプリントされている。
 下駄箱の中に手紙が入っているなんて、初めての経験だった。
 表には僕の名前が書いてある。裏にはA・Sというイニシャルだけ。それがまるで隠すように履き古した上履きの向こうにあった。
 A・Sって誰だろう。そう考えながら、素早く手紙をポケットに押し込んだ。Aが名前だとすると、あの付く名前には心当たりがない。名字だとしても、僕の知っているのは青山くらいだけど、青山は男だ。Sが名字だろうか。鈴木ならSだけど、優菜も優花もYだからY・Sになる。
 カバンを教室の机の上に放り出すと、僕はトイレに行った。中身が気になって仕方がない。
 人目を気にしながらトイレの個室に入ると、ポケットから手紙を取り出してもう一度封筒をよく見てみた。きれいな字だ。女からのものに間違いないだろう。
 ちょっぴりドキドキしながら僕は封を丁寧に開けた。
 あなたが好きです、なんて書いてあったらどうしよう。僕には優菜という最高の彼女がいるのに。そんな馬鹿なことを考えている自分に恥ずかしくなりながら、手紙を広げた。
 明日のお昼、1時に図書館に来てください。二人きりで相談したいことがあります。
 それだけだった。名前も書いてない。
 いったい誰だろう。もちろん、心当たりなんてないし、もしかしたら悪戯かもしれない。大樹や勇介だろうか。あいつらがそんなことするわけがないか。
 とりあえず明日は行ってみるしかない。普通の男なら喜んで、彼女のいないやつならなおさら期待と不安に胸を躍らせて待ち合わせの場所に行くんだろうけれど。残念ながら僕は違う。もし会って、好きだとか、付き合ってほしいとかの愛の告白をされても、僕はその子を傷つけることしかできない。
 でも、その子をその場で待ちぼうけにして放っておくことはもっとできない。それは僕にとっては楽なことだろうけれど、この手紙を出した子には最低のことになる。
 経験が少ないながらも、僕も女の子を好きになった。片想いのつらく切ない胸を焦がすような想いは知っている。ありったけの勇気出して手紙を書いて、自分の持っている度胸をかき集めて待ち合わせの場所に来る。
 来るか来ないかわからない相手を待っている不安。もし来てくれたとしても、好きな人と親しくなれる喜びか、振られた悲しみか。どちらかが待っている。

 たった一通の手紙に惑わされ、あれこれと考えて学校での一日が終わった。自分はきちんとしていなければならない。毅然としていなければならない。待ち合わせの場所に行き、ちゃんと自分の言うべきことを言う。それだけだ。
 そう結論を出した途端に、一日のモヤモヤしていた気分がすっきりした。
 優菜にはそのうち話そう。別にやましいことがあるわけじゃない。自分がちゃんとしていればいい。
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