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第2章
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アップテンポな曲が周りの空気を揺らしている。通りには車が列を作っている。ショウウインドウはどこまでも続いている。とぼとぼ歩く僕たちの脇を、次々と人がすり抜けていく。その人たちの目には、僕たちは仲のいいカップルに映るのだろう。
「その時、私達女の子は五人いて、田中君のことはみんなの重大な関心事だったから、男の子の言葉にみんな静まり返った。男の子はそれに気を良くしたみたい。『それはYのイニシャルの人です』って言った。田中君が慌てて止めようとしたけど、遅かった。そこにいた五人のうちで、Yで始まるイニシャルは私だけだった」
そこで言葉を切り、優花は僕をじっと見つめた。
「今の話、信じられる?」
悪戯っぽい微笑みを浮かべて尋ねる。
「信じられない」
優花の笑みを見て、僕はなーんだ、嘘だったのかと思った。
「でも、事実だよ。私は気が動転して、顔がカーとして頭が真っ白になって。思わず『私は好きな人がいるからダメ―』とかいうようなことを言ったの。その日の夜は眠れなかった。ずーっと憧れてたんだもん。でも、それっきり。田中君、元気がなくなって。高校受験がすぐそこに控えていたから、みんな少しナーバスになってて、田中君もそうだと思ってた。高校の合格発表が済んで、春休みの間、私はきっと田中君から何か連絡が来ると思ってた。でも、ある日ふと気が付いたんだ。私が照れて思わず言った言葉を田中君は真に受けてしまったんだって」
僕と付き合うようになるまで、誰とも付き合うことがなかった理由がやっとわかった。
「春休みのある日、外で田中君とばったり出会ったことがあるの。まるで別人のようだった。髪はぼさぼさで、シャツはよれよれで。それ迄そんな恰好で人前に出るような人じゃなかったのに。その時にひと言ふた言、話をしたけど、まるっきりよそよそしくて、私は振られたんだなって思った。私が振られたというか、私が振ったというか。その時に、もう田中君と仲良くなることはないだろうけど、別に好きな人ができた時には、私は積極的にならなきゃいけないと思った」
そして優花は僕を見て微笑んだ。
「私、積極的だったでしょ?」
優花のとびきりの笑顔を見て、僕はしどろもどろになって狼狽えた。
「う、う、うん」
「あーあ、何だか長々と変な事、話しちゃった」
「高校じゃ同じクラスになったのに、それっきり?」
「それっきり。私のせいであんなに格好よかった田中君が変わってしまったのなら責任感じるけど。そうだとしてもどうしようもないし。それに本人、今のファッションをけっこう楽しんでいるんじゃない?」
「じゃ、だらしなくしているような姿はわざとか」
自分の姿やファッションに無頓着なわけじゃなかったんだ。お洒落だったヤツが急にそうなるわけがない。わざとだらしなく見える格好をしていたんだ。
「だから私、結構田中君のこと、気になってたんだ。それって別に好きだとか、そういうんじゃなくて田中君も幸せになって欲しい、自分を偽らないで欲しいって思ってた」
田中は田中なりに傷ついたのだろう。なぜそうなったのか想像できないけれど、優花との一件で何かが田中の中で変わってしまったのだろう。
「どうしてそんな事話したの?」
「さあ、どうしてかな。わからない」
優花は天を仰ぐようにして言った。白くて綺麗な首筋に、思わず見とれてしまいそうになった。
「それが相談事か?」
「んーん、違うの」
今度は足元を見て、小さく首を左右に振る。
「どうしてこんな事話したんだろ。自分でもよくわからない」
そして肩にかけたバックの中をごそごそと探して、一通の封筒を取り出した。
「これを見て」
「その時、私達女の子は五人いて、田中君のことはみんなの重大な関心事だったから、男の子の言葉にみんな静まり返った。男の子はそれに気を良くしたみたい。『それはYのイニシャルの人です』って言った。田中君が慌てて止めようとしたけど、遅かった。そこにいた五人のうちで、Yで始まるイニシャルは私だけだった」
そこで言葉を切り、優花は僕をじっと見つめた。
「今の話、信じられる?」
悪戯っぽい微笑みを浮かべて尋ねる。
「信じられない」
優花の笑みを見て、僕はなーんだ、嘘だったのかと思った。
「でも、事実だよ。私は気が動転して、顔がカーとして頭が真っ白になって。思わず『私は好きな人がいるからダメ―』とかいうようなことを言ったの。その日の夜は眠れなかった。ずーっと憧れてたんだもん。でも、それっきり。田中君、元気がなくなって。高校受験がすぐそこに控えていたから、みんな少しナーバスになってて、田中君もそうだと思ってた。高校の合格発表が済んで、春休みの間、私はきっと田中君から何か連絡が来ると思ってた。でも、ある日ふと気が付いたんだ。私が照れて思わず言った言葉を田中君は真に受けてしまったんだって」
僕と付き合うようになるまで、誰とも付き合うことがなかった理由がやっとわかった。
「春休みのある日、外で田中君とばったり出会ったことがあるの。まるで別人のようだった。髪はぼさぼさで、シャツはよれよれで。それ迄そんな恰好で人前に出るような人じゃなかったのに。その時にひと言ふた言、話をしたけど、まるっきりよそよそしくて、私は振られたんだなって思った。私が振られたというか、私が振ったというか。その時に、もう田中君と仲良くなることはないだろうけど、別に好きな人ができた時には、私は積極的にならなきゃいけないと思った」
そして優花は僕を見て微笑んだ。
「私、積極的だったでしょ?」
優花のとびきりの笑顔を見て、僕はしどろもどろになって狼狽えた。
「う、う、うん」
「あーあ、何だか長々と変な事、話しちゃった」
「高校じゃ同じクラスになったのに、それっきり?」
「それっきり。私のせいであんなに格好よかった田中君が変わってしまったのなら責任感じるけど。そうだとしてもどうしようもないし。それに本人、今のファッションをけっこう楽しんでいるんじゃない?」
「じゃ、だらしなくしているような姿はわざとか」
自分の姿やファッションに無頓着なわけじゃなかったんだ。お洒落だったヤツが急にそうなるわけがない。わざとだらしなく見える格好をしていたんだ。
「だから私、結構田中君のこと、気になってたんだ。それって別に好きだとか、そういうんじゃなくて田中君も幸せになって欲しい、自分を偽らないで欲しいって思ってた」
田中は田中なりに傷ついたのだろう。なぜそうなったのか想像できないけれど、優花との一件で何かが田中の中で変わってしまったのだろう。
「どうしてそんな事話したの?」
「さあ、どうしてかな。わからない」
優花は天を仰ぐようにして言った。白くて綺麗な首筋に、思わず見とれてしまいそうになった。
「それが相談事か?」
「んーん、違うの」
今度は足元を見て、小さく首を左右に振る。
「どうしてこんな事話したんだろ。自分でもよくわからない」
そして肩にかけたバックの中をごそごそと探して、一通の封筒を取り出した。
「これを見て」
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