勇者ブルゼノ

原口源太郎

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第一章

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 ブルゼノはセイナと別れて、いったん家に帰るつもりだったが、誘われてセイナの家に行った。
 グルドフという凄い勇者が、本当にあの時に会った人かを確かめるためだ。
 ブルゼノは何だかセイナの子分になったような気分だった。あれやこれやセイナの言うことに従う。第一、セイナはババロンのことを『あなた』と呼んでいたのに、自分のことは『あんた』と呼ぶ。たいした違いじゃないのかもしれないけれど、それだけでも自分は子分扱いされているような気がした。
「お主はもしかしたら、うるせーのか?」
 セイナのおじいさんの元勇者がブルゼノを見て言った。
「いえ、ブルゼノです。ブ、ル、ゼ、ノ」
「すまぬ。最近耳が遠くなってしまっての。それでセイナ、わしに何か用かの?」
「グルドフという勇者のことを知りたいの。おじいちゃんはグルドフを知っている?」
 セイナは大きな声で元勇者に話しかけた。
「もちろん知っておるとも」
「見た目的にはどのような感じ?」
「見た目? わしよりちょっと背が低くて、丸い童顔で、鼻の下にちょび髭をはやしておる」
「ああ、やっぱりあの時の」
「何日か前にここに来たよ」
「ここ? この家に?」
 セイナは驚いて尋ねた。
「そう。何でも王様にこの国の勇者になるべき者を探してほしいと頼まれたとか申しておった」
「それでおじいちゃんは何て言ったの?」
「わしにはとんと当てがござらんと・・・・」
「ばか! おじいちゃんのばか! 私がいるじゃない」
「お前は女子だからの」
「女だって勇者になれるわ」
「わしはお前の母を勇者に育てようとして失敗しておるからの」
「私はお母さんとは違うわ!」
 そう言うと、セイナは泣き出しそうな顔で家を飛び出していった。

「あのような、きつい孫娘の相手をしてくれて申し訳ないの」
 老人がぼそぼそと言った。
 ブルゼノは初めて来た家に一人取り残されて、どうしたものかと途方に暮れているところだった。
「申し訳なくないです。セイナは凄いと思います。僕みたいにたいした目標もなく、なんとなく毎日を過ごしているのと違って、きちんとした目標や夢を持って、日々そのために厳しい修行をしている。凄いと思います」
「そうかの」
「セイナはきっと勇者になれます。勇者になって世界中を冒険してまわるのです」
「そうなれればいいが。所詮、女子は女子。わしはセイナの母を勇者にしようと育ててきたが、勇者にすることはできなかった。男と女は別物だ。だがセイナの母は優しい性分だったが、セイナはあの通り強い性格を持っておる。その分、母よりも勇者になれる可能性はあるかもしれぬが」
「セイナならきっと勇者になれます」
 ブルゼノはまた同じ言葉を繰り返した。
「うむ」
「それでは僕はこれで。帰ります」
「よかったらまた遊びに来なされ」
「はい。失礼します」
 ブルゼノは元勇者に頭を下げて家を出た。
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