勇者ブルゼノ

原口源太郎

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第三章

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 翌日の朝、ブルゼノが放牧場に羊を連れていってから家に帰ってくると、昨日と同じようにセイナが待っていた。弓を持っている。
「はい」
 ブルゼノが近づくと、セイナは手にしていた弓を差し出した。
「おじいちゃんが手入れをしてくれたの。もう、ずっと使っていなかったから」
 ブルゼノは弓を受け取った。思っていたよりも立派なものだ。
「王様から頂いたものだって」
 ブルゼノの心を見透かしたようにセイナが言った。
「そんな大事なものを使っていいの?」
「いいのいいの。あげる。家に置いておいても役に立たないから。おじいちゃんもまたこの弓が活躍できるって喜んでいたのよ」
 ブルゼノはちょっと気が重くなった。
 この立派な弓を使いこなせるようになるのだろうか。

 道場に行くと、小さな子供たちがあちこちを騒ぎながら走りまわっていた。
 昼間に仕事をしていて、子供の面倒を見られない親が武術の稽古をつけてもらうという名目で、この道場に子供を預けている。しかし子供たちは好き勝手に走りまわったり遊んだりしているだけだ。
「懐かしいですな」
 ブルゼノが持ってきた弓を手にして老武道家が言った。
「今日から早速、弓の稽古を・・・」
「まずは弓道場の整備からですな」
 武道家はセイナの言葉を遮って言った。
「こちらへ」
 武道家に案内されて道場の裏に行くと、建物に沿って細長い荒れ地があった。片方の端に盛ってある土は崩れかけ、その周りの板塀は傾いて朽ちかけている。
「ここが昔の弓道場です。ずっと使われておりませんでしたので、このありさまで。今日は二人でここを使えるように整備してもらいたい。夕方までには何とかなるでしょうな」
 武道家の言葉を聞き、セイナとブルゼノは顔を見合わせた。

 翌日、ブルゼノが羊を牧場へ連れて行ったあと、セイナと道場へ行くとパフラットが待っていた。
「今日から私も一緒に稽古をしようと思いましてね」
 それまで黙々と木刀を振っていたパフラットが、ブルゼノとセイナの前に来て言った。
「野菜作りのほうはいいのですか?」
 セイナが尋ねた。
「今まで世話をしていた畑は少しずつ人に任せるようにしてきました。これから武道家として、そして冒険者として生きていくのなら、今のままじゃ駄目だと思いましたから。グルドフさんを見ていると、私の剣術なんて、至らないところばかりです。それに、一番大きいのはセイナさんやブルゼノ君を見ていて、自分も本気になって頑張らなければならないと思ったからなのです」
「そうですか。私も頑張ります」
 セイナが感動したように言った。
「ブルゼノ君、さっそく始めようかね」
 老武道家が小さな子供たちをぞろぞろと引き連れてやってきて、ブルゼノに言った。
「はい」
 ブルゼノは一人取り残されたような気持ちで返事をした。
「子供たちを頼むよ」
 武道家は誰に言うとでもなく言って歩いていった。
 ブルゼノは慌ててその後を追った。
 子供たちと共に残されたのはパフラットとセイナだけだった。
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