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第一章
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「さんまっておいしいの?」
「うん、本当に嫌なヤツなんだ。意地悪で乱暴で」
「納豆は?」
「あいつは不潔だから嫌いだ。毎日お風呂に入ってないっていうし」
「梅干しは?」
「いつもうじうじしてて、すぐに泣き出すサイテーのヤツだよ。あいつも嫌いだ」
バックシートの謙太郎とトレーシーの会話に、夢美がぷっと吹き出した。
「ヤダ、謙太郎君たち、寝ぼけてるよ」
助手席の夢美が後ろを見て言った。
無理もない。夜中の三時に叩き起こされてのこのドライブなのだから。初めのうちこそキャッキャッと騒いでいた二人だけど、今じゃ半分以上夢の中に入って無意識に会話を続けている。それでも何となく会話になっているから可笑しい。
「真人は眠くならない?」
「うん、全然」
真人がちらっと横を見ると、夢美と目が合ってドキッとした。街灯の微かな明かりに浮かんだ夢美は美しかった。
夜はまだ明けない。
「おいおい、ちゃんと前を見て運転してよ。まだ免許取りたてなんだから」
「はいはい」
口実は謙太郎とトレーシーのためのドライブだけど、真人には夢美と初めてのデートでもある。兄貴に車を借りる約束をしてから一週間も迷って、勇気を出して、やっと夢美に声をかけた。いい返事が返ってきたときは、跳びあがらんばかりだった。
波の打ち付ける断崖の中腹をうねうねと走る海岸道路。海の中を一直線に突っ切る新しい道路はもうじき完成する。
切り立つ崖をゆるやかに曲がるカーブに入った時だった。
崖の向こうからスピードに乗ったヘッドライトが現れた時、真人はブレーキに足をかけていた。
大型のトレーラーはセンターラインを越えてもスピードを落とさない。
真人はブレーキを踏んだ。
「きゃあ!」
ゴン!
「いてぇ!」
夢美たちの悲鳴も真人の耳には入らない。このままではぶつかる。
真人はハンドルを切った。
赤いクーペは縁石に跳ねてガードレールを擦り、海へと続く暗黒の中へと飛んだ。
無重力の中で、真人はぎゅっとハンドルを握りしめたまま、夢美は大丈夫だろうかと思った。夢美を見ようとしたけれど、何も見えなかった。
「うん、本当に嫌なヤツなんだ。意地悪で乱暴で」
「納豆は?」
「あいつは不潔だから嫌いだ。毎日お風呂に入ってないっていうし」
「梅干しは?」
「いつもうじうじしてて、すぐに泣き出すサイテーのヤツだよ。あいつも嫌いだ」
バックシートの謙太郎とトレーシーの会話に、夢美がぷっと吹き出した。
「ヤダ、謙太郎君たち、寝ぼけてるよ」
助手席の夢美が後ろを見て言った。
無理もない。夜中の三時に叩き起こされてのこのドライブなのだから。初めのうちこそキャッキャッと騒いでいた二人だけど、今じゃ半分以上夢の中に入って無意識に会話を続けている。それでも何となく会話になっているから可笑しい。
「真人は眠くならない?」
「うん、全然」
真人がちらっと横を見ると、夢美と目が合ってドキッとした。街灯の微かな明かりに浮かんだ夢美は美しかった。
夜はまだ明けない。
「おいおい、ちゃんと前を見て運転してよ。まだ免許取りたてなんだから」
「はいはい」
口実は謙太郎とトレーシーのためのドライブだけど、真人には夢美と初めてのデートでもある。兄貴に車を借りる約束をしてから一週間も迷って、勇気を出して、やっと夢美に声をかけた。いい返事が返ってきたときは、跳びあがらんばかりだった。
波の打ち付ける断崖の中腹をうねうねと走る海岸道路。海の中を一直線に突っ切る新しい道路はもうじき完成する。
切り立つ崖をゆるやかに曲がるカーブに入った時だった。
崖の向こうからスピードに乗ったヘッドライトが現れた時、真人はブレーキに足をかけていた。
大型のトレーラーはセンターラインを越えてもスピードを落とさない。
真人はブレーキを踏んだ。
「きゃあ!」
ゴン!
「いてぇ!」
夢美たちの悲鳴も真人の耳には入らない。このままではぶつかる。
真人はハンドルを切った。
赤いクーペは縁石に跳ねてガードレールを擦り、海へと続く暗黒の中へと飛んだ。
無重力の中で、真人はぎゅっとハンドルを握りしめたまま、夢美は大丈夫だろうかと思った。夢美を見ようとしたけれど、何も見えなかった。
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