夢でもし君に会えたら

原口源太郎

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第二章

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「スカイツリーはキリマンジャロの麓だって言っていたな。かなり距離があるぞ」
「いっぱい走るの?」
 トレーシーは車に乗ることにいい加減飽き飽きしているようだ。
「うん、そうだな。でも、途中の通り道に自由の女神があるはずだから、そこに寄っていこうと思う」
 自由の女神は程なく見えてきた。自由の女神に続くように高層ビルの群れが並んでいる。だが、ミニチュア化されたようなビルの群れは、実際の摩天楼の十分の一ほどの高さしかないだろう。自由の女神像だけが本物のようにでかくそびえている
 真人は女神像の下で車を停めた。
「おーい、すみませーん、あなたは噂話が好きだって聞いて来たんですけど」
 真人は女神像に向かって大声で話しかけた。
「別の世界から迷い込んだ謙太郎という男の子と、夢美という女性についての話を聞いたことはありませんかー」
 女神像は真人の問いかけにピクリとも動かない。
「ねえー、自由の女神さーん」
「おい、おめー何やっとるだ」
 自由の女神像の向こう側から、ぼろをまとった髭面の男が出てきて真人に言った。
「ちょっと自由の女神に話があって」
「バカじゃねえの。こんなでっかいコンクリートの像が話しなんてするわけがないべ」
「そ、それもそうですね」
 男に普通の世界なら当たり前のことを言われ、真人は慌てて車に戻った。
「どうしたの? 何かわかった?」
 車でトレーシーは真人を見つめた。
「こんな造り物の像が話をするわけがないって」
「へー、ここはまともなのね」
 トレーシーが冷めた声で言った。
「取りあえず街へ行ってみよう」
 真人がエンジンをかけようとした時、前方から来た数台の車が女神像の足元へ何かを投げ捨てていった。その中の一台の車が真人たちのほうへ来た。
「おい、大爆発するぞ。早く逃げろ!」
 窓から顔を出した男が大声で怒鳴り、その車は走り去った。
 真人も慌ててエンジンをかけ、車をスタートさせる。
 ポン、ポン、ポンと花火のような爆発が起こった。
 真人は車を停めて後ろを振り返る。
 それだけだった。
「あれで大爆発だって?」
 真人は笑いながらトレーシーに言った。
「やっぱりまともじゃなかったわ」
 トレーシーはまた冷めた声で言った。
 すぐにパトカーのサイレンの音が聞こえてきた。
「お前たちか、やったのは! ちょっと署まで来い!」
 パトカーから降りた警察官は、無理矢理真人たちを車から引きずり出した。

「だから僕は犯人じゃありません。何で僕がそんなことをしなけりゃならないんですか」
 真人は警察署の取調室で必死になって訴えていた。
「それはさっきからこっちが聞いている事だろ」
「今さっきこの街に来たばかりなんですよ。もう行かなきゃならない。僕には時間がないんだ」
「うるさい! 勝手な事をぬかすんじゃない!」
 取調官が机をバンと叩いた。
 別の男が部屋に入ってきた。
「警部。娘が暴れて手に負えません」
「飴玉でもやっておけ!」
 警部の不機嫌な様子に、男は慌てて部屋を出ていった。
「娘とはどのような関係だ?」
 急に冷静な口調になって、警部と呼ばれた取調官が真人に尋ねた。
「隣に住んでいる大学の先生の子で・・・・」
「嘘をつけ! どこからさらってきたんだ!」
「さらってなんかいません」
 その時、建物の外でパンパンパンと例の花火の音がした。
 警部は部屋を飛び出していった。
 一人取り残された真人は取調室を抜け出し、トレーシーを捜した。
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