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第二章
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車を走らせていると、船はすぐに見えてきた。二隻の船が、あちこちを向いて並んでいる。大きな船で、甲板には大きな大砲も見える。巨大な戦艦だった。
「大きな船ね」
海に浮かぶように砂漠に半ば埋まりかけている戦艦を見てトレーシーが言った。
「あれは戦争の時の船だよ」
船のすぐ脇まで走り寄り、真人は上を見上げた。
「すみませーん、謙太郎っていう名前の男の子はいませんかー」
十数メートルも上の甲板で動きまわっていた男たちが覗き込むように下を見た。
「何?」
「謙太郎っていう名前の男の子はいませんか?」
しばらく間があった。
「みんな知らないってよー。大和のほうに行ってみな」
上から大きな声が帰ってきた。
「すみませんでした」
真人は車に乗り込んで、もう一方の船に行った。
真人の問いかけに、すぐに返事が返ってきた。
「知ってるよー。友達かー? 上に上がってきな!」
真人とトレーシーはやっと見つけたという喜びを抱えて甲板へ通じる長い階段を上っていった。
甲板では男たちがせわしなく動きまわっている。
「ちょうどいいところに来たな。これから始まるところだ。そこら辺に身を隠しときな」
逞しい体つきの、軍服を着た中年の男が言った。
「え? 何が始まるんです?」
「見りゃわかるだろ。戦争だよ。怪我をしても知らんぞ、隠れていないと」
真人とトレーシーは取りあえず言われた通り、近くの物陰に身を隠した。
真人たちの目の前にあるバカでかい砲塔がぎりぎりと動き、砲身を隣の戦艦に向ける。向こうの戦艦の大きな砲塔も同じように動いている。
真人は慌てた。こんな至近距離であんなバカでかい戦艦の主砲の一撃をまともに食らったら普通でいられるわけがない。
真人はトレーシーの手を引き、もっと安全な場所を捜した。簡単な物陰に身を潜めるくらいじゃ、とても助かるとは思えない。
トレーシーの手を引き、高くそびえる艦橋の裏側へと走った。
「撃て―!」
誰かが叫ぶ声がした。
「伏せて耳を塞げ!」
真人がトレーシーに叫ぶように言い、自分も耳を塞いでその場にうずくまる。
ドーン!!!!
あまりの音の大きさに、耳を塞いでいた手はあまり意味を持たないようだった。
ドカーン!!!!
むこうの戦艦の壁に、もうもうと白煙が上がった。
「命中!」
また誰かが叫ぶ。
「武蔵のヤローども、ざまーみやがれ」
「俺たちの勝ちだ!」
男たちが口々に叫ぶ。
白煙が風に流されると、微かにへこんだ船の外壁が現れた。
「ありゃりゃ」
その時、砲撃を浴びた戦艦武蔵の砲門が火を噴いた。
「退避! 退避!」
また誰かが叫んだが、退避などしている余裕もなく大きな音がして、船がびりびりと揺れた。
「おい! どこがやられた!」
「舷側が少しへこんだだけです!」
「やっぱり駄目か」
「ということは、引き分けか」
男たちが話している。
「もう大丈夫だよ」
さっきの逞しい男が真人たちのところに来て言った。
「何だったんです? 今のは」
「戦争だよ。最後の戦争。お互いに一発ずつしか弾を持っていなかった。この勝負で勝った方が負けた方を支配するはずだった」
「へえ」
真人は思わずため息が出た。
「あんたたち、謙太郎君の友達だって?」
「ああ、謙太郎はここにいますか?」
「ここにはいない。友達を捜すと言って昨日出かけた」
「どこへ?」
「わからない。俺たちはラクダに最高の荷物を付けて送り出してやった」
「そうですか。ありがとうございました。行こう、トレーシー」
真人はトレーシーの手を引いて甲板の端まで行くと、地上へと下りる階段を降り始めた。
「謙太郎君は西に向かって行ったぞ」
男が頭上で叫んだ。
真人は男に手を振った。
「大きな船ね」
海に浮かぶように砂漠に半ば埋まりかけている戦艦を見てトレーシーが言った。
「あれは戦争の時の船だよ」
船のすぐ脇まで走り寄り、真人は上を見上げた。
「すみませーん、謙太郎っていう名前の男の子はいませんかー」
十数メートルも上の甲板で動きまわっていた男たちが覗き込むように下を見た。
「何?」
「謙太郎っていう名前の男の子はいませんか?」
しばらく間があった。
「みんな知らないってよー。大和のほうに行ってみな」
上から大きな声が帰ってきた。
「すみませんでした」
真人は車に乗り込んで、もう一方の船に行った。
真人の問いかけに、すぐに返事が返ってきた。
「知ってるよー。友達かー? 上に上がってきな!」
真人とトレーシーはやっと見つけたという喜びを抱えて甲板へ通じる長い階段を上っていった。
甲板では男たちがせわしなく動きまわっている。
「ちょうどいいところに来たな。これから始まるところだ。そこら辺に身を隠しときな」
逞しい体つきの、軍服を着た中年の男が言った。
「え? 何が始まるんです?」
「見りゃわかるだろ。戦争だよ。怪我をしても知らんぞ、隠れていないと」
真人とトレーシーは取りあえず言われた通り、近くの物陰に身を隠した。
真人たちの目の前にあるバカでかい砲塔がぎりぎりと動き、砲身を隣の戦艦に向ける。向こうの戦艦の大きな砲塔も同じように動いている。
真人は慌てた。こんな至近距離であんなバカでかい戦艦の主砲の一撃をまともに食らったら普通でいられるわけがない。
真人はトレーシーの手を引き、もっと安全な場所を捜した。簡単な物陰に身を潜めるくらいじゃ、とても助かるとは思えない。
トレーシーの手を引き、高くそびえる艦橋の裏側へと走った。
「撃て―!」
誰かが叫ぶ声がした。
「伏せて耳を塞げ!」
真人がトレーシーに叫ぶように言い、自分も耳を塞いでその場にうずくまる。
ドーン!!!!
あまりの音の大きさに、耳を塞いでいた手はあまり意味を持たないようだった。
ドカーン!!!!
むこうの戦艦の壁に、もうもうと白煙が上がった。
「命中!」
また誰かが叫ぶ。
「武蔵のヤローども、ざまーみやがれ」
「俺たちの勝ちだ!」
男たちが口々に叫ぶ。
白煙が風に流されると、微かにへこんだ船の外壁が現れた。
「ありゃりゃ」
その時、砲撃を浴びた戦艦武蔵の砲門が火を噴いた。
「退避! 退避!」
また誰かが叫んだが、退避などしている余裕もなく大きな音がして、船がびりびりと揺れた。
「おい! どこがやられた!」
「舷側が少しへこんだだけです!」
「やっぱり駄目か」
「ということは、引き分けか」
男たちが話している。
「もう大丈夫だよ」
さっきの逞しい男が真人たちのところに来て言った。
「何だったんです? 今のは」
「戦争だよ。最後の戦争。お互いに一発ずつしか弾を持っていなかった。この勝負で勝った方が負けた方を支配するはずだった」
「へえ」
真人は思わずため息が出た。
「あんたたち、謙太郎君の友達だって?」
「ああ、謙太郎はここにいますか?」
「ここにはいない。友達を捜すと言って昨日出かけた」
「どこへ?」
「わからない。俺たちはラクダに最高の荷物を付けて送り出してやった」
「そうですか。ありがとうございました。行こう、トレーシー」
真人はトレーシーの手を引いて甲板の端まで行くと、地上へと下りる階段を降り始めた。
「謙太郎君は西に向かって行ったぞ」
男が頭上で叫んだ。
真人は男に手を振った。
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