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第三章
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「蛇の城って言ったわね」
「蛇がうじゃうじゃ」
「まあ、とっても嫌だわ」
車の後ろのシートで謙太郎とトレーシーが話をしている。
「お、あれかな」
真人の声に、二人が前を見た。
「本当だ。蛇みたい」
「そういう意味だったのね」
砂丘の小高い丘から丘へとうねうね続くのは、万里の長城に似た城壁だった。
真人は城門の前に車を停めた。門の内側に階段がある。
「誰かいるのかな?」
人気のない階段を上りながら真人が言った。
「ここのどこかに人がいるとして、それを捜し出すとしたらとっても大変よ」
トレーシーの言葉が終わるか終わらないかの時に、上からわーという歓声が聞こえてきた。ブオーンと何か大きな機械の音が近づいてくる。
真人たちは階段を駆け上った。
うねうね長く伸び、両側を壁で囲まれた長城はサーキットとなっていた。両方の壁際に人々が立ち、その間を二台の車が走ってくる。
ブオーン、ブオーンと大きな音を残して二台の車が真人たちの目の前を走り去っていった。壁と壁の間はアスファルトできれいに舗装されている。
「すみません、ここは何をするところですか?」
真人は近くにいた、いかにも中国人といった格好の男に尋ねた。
「は?」
「ここは何という所ですか?」
「ここ? ここはレース場だよ」
「蛇の城じゃないのですか?」
「蛇の城? そう呼ぶ人もいるね」
「それじゃ」
真人は言いかけてやめた。ずうっと遠くまで壁際でレースを観戦している人は続いている。その中に夢美がいるとしても、この男がそれを知っているとは思えなかった。
「まだ何かある?」
「あ、いえ」
真人は少し考えたが、訊かないよりは訊いてみた方がいいと思った。万が一にも男は夢美のことを知っているかもしれない。
「夢美っていう名前の女の子を捜しているのですが、知りませんか? 長い髪の毛の」
「知っているよ」
真人の予想に反して、男はあっさりと答えた。
「どこにいますか?」
真人は興奮した面持ちで尋ねる。
「さあ、どこかな? レースに勝てば会えるよ。凄い美人だよ」
真人たち三人は顔を見合わせた。
「それじゃ普通の人がレースに出ることはできますか?」
「もちろん出られるよ。車がないなら駄目だけど」
「車はあります。それでどうすればレースに出られますか?」
「この先二キロくらい行ったところに受付がるから、そこに行ってエントリーすればいいだけだよ」
「エントリーしてから?」
「それだけね」
「それだけ?」
「それだけだね」
「行こう」
真人は謙太郎とトレーシーに言った。
「レースに出るか?」
男が尋ねる。
「はい。応援頼みます」
「ああ。分かったよ」
呆れた顔の男をあとにして、三人は階段を駆け下りた。
「一石二鳥だよね」
「ん?」
長城に沿って車を走らせる真人に話しかけたのは謙太郎だった。
「レースに勝てば夢美お姉ちゃんに会える。もしその人が夢美お姉ちゃんじゃないとしても、夢美お姉ちゃんがレースを見ていれば真人兄ちゃんの車を見て気が付くだろうし」
「謙太郎は鋭いな。その通りだ。お前たちも乗せて走るから、目を皿のようにして周りの観衆を見ていて」
「目を皿?」
トレーシーが尋ねた。謙太郎もよくわからないといった顔をしている。
「しっかりと、お皿のように目を開けて見ていてっていうこと」
「私まだ死にたくないわ」
トレーシーがぽつりと言った。
「安心しな。そんなに飛ばしたりはしないよ」
「でも真人兄ちゃん、勝たなきゃ、夢美お姉ちゃんに会えないよ」
今度は謙太郎が真面目な表情で言う。
「もともとレースに勝とうなんて思っちゃいないよ。免許を取ってまだ数カ月の初心者が勝てるわけがない。でも、レースに出れば夢美に会えるチャンスがあるかもしれない」
受付はすぐにわかった。大きな門の下に車が何台も停まっていて、長城の上に上れる道もあった。
レースのエントリーは真人の「レースに出たい」の一言で済んだ。
「蛇がうじゃうじゃ」
「まあ、とっても嫌だわ」
車の後ろのシートで謙太郎とトレーシーが話をしている。
「お、あれかな」
真人の声に、二人が前を見た。
「本当だ。蛇みたい」
「そういう意味だったのね」
砂丘の小高い丘から丘へとうねうね続くのは、万里の長城に似た城壁だった。
真人は城門の前に車を停めた。門の内側に階段がある。
「誰かいるのかな?」
人気のない階段を上りながら真人が言った。
「ここのどこかに人がいるとして、それを捜し出すとしたらとっても大変よ」
トレーシーの言葉が終わるか終わらないかの時に、上からわーという歓声が聞こえてきた。ブオーンと何か大きな機械の音が近づいてくる。
真人たちは階段を駆け上った。
うねうね長く伸び、両側を壁で囲まれた長城はサーキットとなっていた。両方の壁際に人々が立ち、その間を二台の車が走ってくる。
ブオーン、ブオーンと大きな音を残して二台の車が真人たちの目の前を走り去っていった。壁と壁の間はアスファルトできれいに舗装されている。
「すみません、ここは何をするところですか?」
真人は近くにいた、いかにも中国人といった格好の男に尋ねた。
「は?」
「ここは何という所ですか?」
「ここ? ここはレース場だよ」
「蛇の城じゃないのですか?」
「蛇の城? そう呼ぶ人もいるね」
「それじゃ」
真人は言いかけてやめた。ずうっと遠くまで壁際でレースを観戦している人は続いている。その中に夢美がいるとしても、この男がそれを知っているとは思えなかった。
「まだ何かある?」
「あ、いえ」
真人は少し考えたが、訊かないよりは訊いてみた方がいいと思った。万が一にも男は夢美のことを知っているかもしれない。
「夢美っていう名前の女の子を捜しているのですが、知りませんか? 長い髪の毛の」
「知っているよ」
真人の予想に反して、男はあっさりと答えた。
「どこにいますか?」
真人は興奮した面持ちで尋ねる。
「さあ、どこかな? レースに勝てば会えるよ。凄い美人だよ」
真人たち三人は顔を見合わせた。
「それじゃ普通の人がレースに出ることはできますか?」
「もちろん出られるよ。車がないなら駄目だけど」
「車はあります。それでどうすればレースに出られますか?」
「この先二キロくらい行ったところに受付がるから、そこに行ってエントリーすればいいだけだよ」
「エントリーしてから?」
「それだけね」
「それだけ?」
「それだけだね」
「行こう」
真人は謙太郎とトレーシーに言った。
「レースに出るか?」
男が尋ねる。
「はい。応援頼みます」
「ああ。分かったよ」
呆れた顔の男をあとにして、三人は階段を駆け下りた。
「一石二鳥だよね」
「ん?」
長城に沿って車を走らせる真人に話しかけたのは謙太郎だった。
「レースに勝てば夢美お姉ちゃんに会える。もしその人が夢美お姉ちゃんじゃないとしても、夢美お姉ちゃんがレースを見ていれば真人兄ちゃんの車を見て気が付くだろうし」
「謙太郎は鋭いな。その通りだ。お前たちも乗せて走るから、目を皿のようにして周りの観衆を見ていて」
「目を皿?」
トレーシーが尋ねた。謙太郎もよくわからないといった顔をしている。
「しっかりと、お皿のように目を開けて見ていてっていうこと」
「私まだ死にたくないわ」
トレーシーがぽつりと言った。
「安心しな。そんなに飛ばしたりはしないよ」
「でも真人兄ちゃん、勝たなきゃ、夢美お姉ちゃんに会えないよ」
今度は謙太郎が真面目な表情で言う。
「もともとレースに勝とうなんて思っちゃいないよ。免許を取ってまだ数カ月の初心者が勝てるわけがない。でも、レースに出れば夢美に会えるチャンスがあるかもしれない」
受付はすぐにわかった。大きな門の下に車が何台も停まっていて、長城の上に上れる道もあった。
レースのエントリーは真人の「レースに出たい」の一言で済んだ。
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