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第三章
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「山」
真人は自信がなかったので小さな声で言い返した。
でも、通じたようだ。
門のすぐ脇の地面の、砂に隠された扉が開いた。
「誰だ?」
中から顔を出したのは女だった。女も銃を真人に向けている。
「あの、こちらにマイクという人がいると聞いてきたんですが」
「入りな」
真人は地下へと階段を降りていった。
そこでも。数人の女が銃を構えていて、真人はすぐに身体検査をさせられた。
「マイクっていう男は捕虜なの。捕虜に何の用?」
女たちの中で、リーダー格らしい落ち着いた雰囲気の女が尋ねた。
真人はこの世界に来てからのことを包み隠さず話した。
「そう、それは大変ね。嘘を言っているようでもないし」
女は真人の目をじっと見ながら言った。エッフェル塔は男ばかりだったが、ここは女ばかりだ。
真人はマイクが監禁されているところに連れていかれた。
ふたたび真人はマイクに事情を説明した。
「真の予言者ならピラミッドにいるよ」
マイクは優しい顔をした男だった。
「ピラミッド?」
「スフィンクスに近い方のピラミッドだ。中に入れるようになっていて、予言者はその中で暮らしている。もし予言者に会いに行くというのなら、よく注意した方がいい。予言者に会うまでには困難な道のりを乗り越えていかなければならない」
そこでマイクは言葉を切り、真人をじっと見つめた。
「君はエッフェル塔に戻るのだろ?」
「はい」
「ならば伝えてほしい。お互いに争う必要はないのだと」
「その必要はないわ」
真人と一緒にいたリーダーらしい女が言った。
「この少年まで捕虜にするつもりか」
マイクが強い口調で言った。
女は構えていた銃を下した。
「違うわ。あなたも返してあげる。私達はあなたの意見に賛成だわ」
そして女は鉄格子の扉を開けるためにカギを取りだした。
真人とマイクは凱旋門のアジトを出て、エッフェル塔のアジトに戻った。
「俺たちは何を恐れている? 俺たちは凱旋門を支配しようなんて考えたことがあったか? ないはずだ。女たちも同じだ。俺たちの建物を支配しようなんて少しも思っちゃいないんだ」
マイクの話を聞いていた男たちは肩からぶら下げていた銃を下した。
男たちの顔を見て、自分の言いたいことをわかってくれたと理解したマイクは、最後に真人を見て手を握りしめた。
「ありがとう」
たったそれだけの言葉だったが、マイクの想いは真人に十分伝わった。
真人たちはエッフェル塔のアジトを出て、車に乗り込んだ。
「あの人たちは戦争をしているのかしら」
走り出した車の中でトレーシーがぽつりと言った。
「戦争じゃない。ケンカだよ。それも、もうじき終わろうとしている」
真人たちがアジトを出るときも、マイクは凱旋門の女たちの様子を仲間たちに話していた。女たちと話してみてわかったのは、十数年前にちょっとした勘違いから男と女がいがみ合うようになり、今では理由もわからずに対立したままでいる。お互いが武装し疑心暗鬼になって暮らしているのは全く無意味なことなのだと。
真人はこの後のことを想像して楽しくなった。あと数カ月もすれば、エッフェル塔や凱旋門の周りに家が建ち、街ができるだろう。今まで何かに怯えて地下で暮らしていた人々が地上でのびのびと生活できるようになる。その大きな役割を果たしたのがマイクで、その小さなきっかけを作ったのが真人だ。
凱旋門のアジトからエッフェル塔へ向かうとき、マイクは過去に人を頼んでピラミッドの予言者に自分たちのことを予言してもらったことがあると言った。
自分たちの現状はどこかおかしい。だけど何をどうしていいのかまったくわからない。そのヒントを得るために知人に予言者の元に行ってもらい、今後のことを予言してもらったという。
予言者は、ある時一人の少年が現れて、全てが変わり始めると言った。それが君だったんだとマイクは言った。君のおかげで全てが変わっていく。ありがとうとも言ってくれた。
だけど、マイクのような指導者がいたのなら、真人が現れなくても、いずれは多くのことが変わっていったに違いないと真人は思った。
「ねー、ねー、ピラミッドの予言者っていう人は当てになるの?」
トレーシーは予言者というものを信じる気になれないらしい。
「今度こそ大丈夫だ」
真人がそう言ったとき、ピラミッドとスフィンクスはもう目の前に迫っていた。
真人は自信がなかったので小さな声で言い返した。
でも、通じたようだ。
門のすぐ脇の地面の、砂に隠された扉が開いた。
「誰だ?」
中から顔を出したのは女だった。女も銃を真人に向けている。
「あの、こちらにマイクという人がいると聞いてきたんですが」
「入りな」
真人は地下へと階段を降りていった。
そこでも。数人の女が銃を構えていて、真人はすぐに身体検査をさせられた。
「マイクっていう男は捕虜なの。捕虜に何の用?」
女たちの中で、リーダー格らしい落ち着いた雰囲気の女が尋ねた。
真人はこの世界に来てからのことを包み隠さず話した。
「そう、それは大変ね。嘘を言っているようでもないし」
女は真人の目をじっと見ながら言った。エッフェル塔は男ばかりだったが、ここは女ばかりだ。
真人はマイクが監禁されているところに連れていかれた。
ふたたび真人はマイクに事情を説明した。
「真の予言者ならピラミッドにいるよ」
マイクは優しい顔をした男だった。
「ピラミッド?」
「スフィンクスに近い方のピラミッドだ。中に入れるようになっていて、予言者はその中で暮らしている。もし予言者に会いに行くというのなら、よく注意した方がいい。予言者に会うまでには困難な道のりを乗り越えていかなければならない」
そこでマイクは言葉を切り、真人をじっと見つめた。
「君はエッフェル塔に戻るのだろ?」
「はい」
「ならば伝えてほしい。お互いに争う必要はないのだと」
「その必要はないわ」
真人と一緒にいたリーダーらしい女が言った。
「この少年まで捕虜にするつもりか」
マイクが強い口調で言った。
女は構えていた銃を下した。
「違うわ。あなたも返してあげる。私達はあなたの意見に賛成だわ」
そして女は鉄格子の扉を開けるためにカギを取りだした。
真人とマイクは凱旋門のアジトを出て、エッフェル塔のアジトに戻った。
「俺たちは何を恐れている? 俺たちは凱旋門を支配しようなんて考えたことがあったか? ないはずだ。女たちも同じだ。俺たちの建物を支配しようなんて少しも思っちゃいないんだ」
マイクの話を聞いていた男たちは肩からぶら下げていた銃を下した。
男たちの顔を見て、自分の言いたいことをわかってくれたと理解したマイクは、最後に真人を見て手を握りしめた。
「ありがとう」
たったそれだけの言葉だったが、マイクの想いは真人に十分伝わった。
真人たちはエッフェル塔のアジトを出て、車に乗り込んだ。
「あの人たちは戦争をしているのかしら」
走り出した車の中でトレーシーがぽつりと言った。
「戦争じゃない。ケンカだよ。それも、もうじき終わろうとしている」
真人たちがアジトを出るときも、マイクは凱旋門の女たちの様子を仲間たちに話していた。女たちと話してみてわかったのは、十数年前にちょっとした勘違いから男と女がいがみ合うようになり、今では理由もわからずに対立したままでいる。お互いが武装し疑心暗鬼になって暮らしているのは全く無意味なことなのだと。
真人はこの後のことを想像して楽しくなった。あと数カ月もすれば、エッフェル塔や凱旋門の周りに家が建ち、街ができるだろう。今まで何かに怯えて地下で暮らしていた人々が地上でのびのびと生活できるようになる。その大きな役割を果たしたのがマイクで、その小さなきっかけを作ったのが真人だ。
凱旋門のアジトからエッフェル塔へ向かうとき、マイクは過去に人を頼んでピラミッドの予言者に自分たちのことを予言してもらったことがあると言った。
自分たちの現状はどこかおかしい。だけど何をどうしていいのかまったくわからない。そのヒントを得るために知人に予言者の元に行ってもらい、今後のことを予言してもらったという。
予言者は、ある時一人の少年が現れて、全てが変わり始めると言った。それが君だったんだとマイクは言った。君のおかげで全てが変わっていく。ありがとうとも言ってくれた。
だけど、マイクのような指導者がいたのなら、真人が現れなくても、いずれは多くのことが変わっていったに違いないと真人は思った。
「ねー、ねー、ピラミッドの予言者っていう人は当てになるの?」
トレーシーは予言者というものを信じる気になれないらしい。
「今度こそ大丈夫だ」
真人がそう言ったとき、ピラミッドとスフィンクスはもう目の前に迫っていた。
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