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第四章
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どうして中島と会ったのか、どうして中島が雅彦を殺そうとしたのか、それはまだわからない。崖の上で中島と争い、海に落ちた記憶だけがはっきりと蘇った。それが引き金となって次々と思い出せるかもしれない。中島がなぜ雅彦を殺そうとしたのか。家族を次々と殺した理由は何だったのか。
そこで雅彦は嫌な気配に襲われて現実の世界へと引き戻された。
まだ朝の気配はない。闇に慣れた目でも、窓からの微かな明かりだけでは部屋の中の全ては見えない。
しかし。何かの存在を感じる。誰かがこの部屋にいる。押し殺した呼吸の響きだろうか。部屋の空気を震わせるわずかな脈拍の動きだろうか。
布団に横たわったまま、ゆっくりと注意深く部屋の中を見回していく。
部屋の隅の暗がりに、ぼんやりとした白いものが浮かんでいる。
雅彦はじっと目を凝らしてみた。白いものの下に、おぼろげに人間の形が見える。のっぺらぼうの男?
その影が動いた。雅彦は咄嗟に布団を跳ね除けて立ち上がる。半分眠っている体は機敏に動けない。
影が突進してくる。雅彦は横に飛び退いた。影は布団に足を取られてつんのめるように倒れ込んだ。
雅彦は明かりを目指して走った。
スイッチを押す。
部屋は明かりに満たされ、目が眩んだ。
影はつるりとした仮面を付けていた。男だった。
男も両手で顔を覆うようにして光を逃れ、よろよろと窓際へと歩く。
「おい!」
声をかけた時、男は雅彦に顔を向けた。つるりとした白い仮面を付けていて、男が中島かどうかはわからない。仮面に空いた二つの穴の奥で目玉がぎょろりと動いた。
男はすぐに体の向きを変えると、窓をぶち破って部屋から飛び出した。
「あ!」
雅彦は声を上げて破られた窓へ近づいた。雅彦の部屋は二階だった。
窓から顔を出すと、下のアスファルトの上で男が立ち上がるところだった。
「中島!」
雅彦は思わず叫んでいた。
男は雅彦の方を振り向きもせずに、片足を引きずりながら物陰の闇へと姿を消した。
中島は再び雅彦を殺すために帰ってきたのか?
男が去った闇を見つめていた雅彦は、別の暗がりの中で何かが動くのを見た。小さな物体が闇の中に消えようとしている。
美夏だ。
雅彦は咄嗟にドアへ走ると、サンダルを引っかけて外に出た。美夏がいた場所へ行ってみたが、その子の気配はどこにも残っていない。寒々とした夜の暗さが一面に澱んでいるだけだった。
次の日の朝、中村は雅彦の連絡を受けて数人の関係者と共にやって来た。前日の酒がまだ残っているようだったが、てきぱきと部下に指示を与えた。
雅彦の部屋のドアはバールのようなものでこじ開けられていた。元々安アパートで、大した作りでもない。
仮面の男の遺留品は何も見つからなかった。しかし雅彦も中村も、それが誰かはわかっていた。
雅彦が昨夜思い出した事実を中村に話した時、中村はすでに予想していたことのように小さく頷いただけだった。
やがて雅彦の小さな部屋で蠢いていた人々は消え、中村だけが残った。雅彦は破られたままの窓から、ぼんやりと外を眺めていた。アパートの駐車場の向こうの道を、何人もの人が通り過ぎていく。すでに事件を知っているのか、見てはならないものを好奇心に駆られてチラチラと盗み見るようにしていく人を、雅彦は虚ろな目で追った。
空は灰色の厚い雲にどんよりと覆われている。秋には珍しい天気で、緩く吹く寒気を帯びた風と共に、雅彦の心を物悲しく煽った。
頭の痛みはまだ残っている。中島との間に何があったのか。雅彦は中島に何か恨みでも持たれていたのだろうか。
殺すのなら自分一人を殺せばよかったのに。三年前に死ななかった事をずっと喜んできたが、それが間違いだった。あの時死んでいればよかった。中島と共に。今では生きることに何の未練もない。中島に殺されて、それで中島の気が済むのならそれでもいい。その前に少しでもいいから中島と話がしたい。なぜ中島は雅彦を殺そうとしたのか。なぜ雅彦の大切なものを次から次へと奪っていったのか。それを知りたい。
「中島が憎いか?」
それまで古びたテーブルの前に座り、じっと雅彦を見ていた中村が言った。
雅彦は立ち上がると、中村と向かい合うようにして腰を下ろした。
「憎くないといえば嘘になります。それより中島がなぜ子供たちを殺し、私を殺そうとしたのか、それを知りたい。肝心の部分がまだ思い出せないのです」
「俺は奴が憎い。殺してやりたいくらいだ。だがそんなことはできない。せめて俺の手でムショへ放り込んでやる。あいつは目立つ男だ。すぐに見つかる。奴もそれをわかっている。ここ数日がヤマかも知れない。もう一度必ずやって来る」
そう言って中村はじっと雅彦の目を見つめた。
そこで雅彦は嫌な気配に襲われて現実の世界へと引き戻された。
まだ朝の気配はない。闇に慣れた目でも、窓からの微かな明かりだけでは部屋の中の全ては見えない。
しかし。何かの存在を感じる。誰かがこの部屋にいる。押し殺した呼吸の響きだろうか。部屋の空気を震わせるわずかな脈拍の動きだろうか。
布団に横たわったまま、ゆっくりと注意深く部屋の中を見回していく。
部屋の隅の暗がりに、ぼんやりとした白いものが浮かんでいる。
雅彦はじっと目を凝らしてみた。白いものの下に、おぼろげに人間の形が見える。のっぺらぼうの男?
その影が動いた。雅彦は咄嗟に布団を跳ね除けて立ち上がる。半分眠っている体は機敏に動けない。
影が突進してくる。雅彦は横に飛び退いた。影は布団に足を取られてつんのめるように倒れ込んだ。
雅彦は明かりを目指して走った。
スイッチを押す。
部屋は明かりに満たされ、目が眩んだ。
影はつるりとした仮面を付けていた。男だった。
男も両手で顔を覆うようにして光を逃れ、よろよろと窓際へと歩く。
「おい!」
声をかけた時、男は雅彦に顔を向けた。つるりとした白い仮面を付けていて、男が中島かどうかはわからない。仮面に空いた二つの穴の奥で目玉がぎょろりと動いた。
男はすぐに体の向きを変えると、窓をぶち破って部屋から飛び出した。
「あ!」
雅彦は声を上げて破られた窓へ近づいた。雅彦の部屋は二階だった。
窓から顔を出すと、下のアスファルトの上で男が立ち上がるところだった。
「中島!」
雅彦は思わず叫んでいた。
男は雅彦の方を振り向きもせずに、片足を引きずりながら物陰の闇へと姿を消した。
中島は再び雅彦を殺すために帰ってきたのか?
男が去った闇を見つめていた雅彦は、別の暗がりの中で何かが動くのを見た。小さな物体が闇の中に消えようとしている。
美夏だ。
雅彦は咄嗟にドアへ走ると、サンダルを引っかけて外に出た。美夏がいた場所へ行ってみたが、その子の気配はどこにも残っていない。寒々とした夜の暗さが一面に澱んでいるだけだった。
次の日の朝、中村は雅彦の連絡を受けて数人の関係者と共にやって来た。前日の酒がまだ残っているようだったが、てきぱきと部下に指示を与えた。
雅彦の部屋のドアはバールのようなものでこじ開けられていた。元々安アパートで、大した作りでもない。
仮面の男の遺留品は何も見つからなかった。しかし雅彦も中村も、それが誰かはわかっていた。
雅彦が昨夜思い出した事実を中村に話した時、中村はすでに予想していたことのように小さく頷いただけだった。
やがて雅彦の小さな部屋で蠢いていた人々は消え、中村だけが残った。雅彦は破られたままの窓から、ぼんやりと外を眺めていた。アパートの駐車場の向こうの道を、何人もの人が通り過ぎていく。すでに事件を知っているのか、見てはならないものを好奇心に駆られてチラチラと盗み見るようにしていく人を、雅彦は虚ろな目で追った。
空は灰色の厚い雲にどんよりと覆われている。秋には珍しい天気で、緩く吹く寒気を帯びた風と共に、雅彦の心を物悲しく煽った。
頭の痛みはまだ残っている。中島との間に何があったのか。雅彦は中島に何か恨みでも持たれていたのだろうか。
殺すのなら自分一人を殺せばよかったのに。三年前に死ななかった事をずっと喜んできたが、それが間違いだった。あの時死んでいればよかった。中島と共に。今では生きることに何の未練もない。中島に殺されて、それで中島の気が済むのならそれでもいい。その前に少しでもいいから中島と話がしたい。なぜ中島は雅彦を殺そうとしたのか。なぜ雅彦の大切なものを次から次へと奪っていったのか。それを知りたい。
「中島が憎いか?」
それまで古びたテーブルの前に座り、じっと雅彦を見ていた中村が言った。
雅彦は立ち上がると、中村と向かい合うようにして腰を下ろした。
「憎くないといえば嘘になります。それより中島がなぜ子供たちを殺し、私を殺そうとしたのか、それを知りたい。肝心の部分がまだ思い出せないのです」
「俺は奴が憎い。殺してやりたいくらいだ。だがそんなことはできない。せめて俺の手でムショへ放り込んでやる。あいつは目立つ男だ。すぐに見つかる。奴もそれをわかっている。ここ数日がヤマかも知れない。もう一度必ずやって来る」
そう言って中村はじっと雅彦の目を見つめた。
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