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第四章
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仕方なく雅彦は少しだけ相手をしてやることにした。
「じゃ、何して遊ぶ?」
美夏は考え込むようにして天井を見つめた。別にこれといってやりたいことがあるわけではないらしい。
「なら、しりとりをしようか」
雅彦の問いかけに美夏は可愛らしく笑って頷いた。その微笑は可愛いと近所で評判だった有希よりもさらにあどけなく純粋に見えた。
「じゃ、おじさんからいくぞ。し、り、と、り」
美夏はぎこちなくペンを動かす。
『りんご』
「ゴリラ」
『らつぱ』
「パイナップル」
『るびい』
「いか」
美夏は真剣な表情でよく考えながら慣れない手つきで文字を書いていく。まだ小学校に上がる前だから間違い無く全てのひらがなを書けるのは立派だ。
しりとりは終わることなく延々と繰り返された。
「まり」
『りんご』
「りんごはさっき書いたよ」
そう雅彦が言うと、美夏は不満そうな表情をし、しばらく考えてから『りんごのかわ』と付け足した。
しりとりで名詞に名詞を付け加えたり、形容詞が付くようになると、一日中やっていても終わらなくなってしまう。雅彦はとぼけて、「ん」の付く言葉を言うことにした。
「わ、か。うーん、ワニ」
わざとらしく考えて「ん」の付く言葉がないか考えてみる。
『にんじんのしつぽ』
「ポ、ポ、ポテトチップス」
いざ考えてみると、なかなか簡単には出てこない。
『すいかのたね』
「ねこじゃらし」
『しかのつの』
「のり」
『りす』
しめた、と雅彦は思った。美夏は慣れない手でゆっくりと文字を書くから、考える時間はある。
「スペイン」
すると美夏は雅彦を見上げて口元に笑みを浮かべた。
「あれ、しまった」
雅彦は大げさに、しくじったという表情を作った。美夏はそれを見て両手をあげて万歳の仕草をした。
「負けちゃった」
雅彦が残念そうに言うと、美夏は人差し指を立てた手を突き出した。もう一度やろうという意味らしい。
「もう遅いから帰らないとみんなが心配するよ」
美夏は顎を突き出して首を振った。小生意気な感じだが、それがまた可愛い。
「それじゃ、おじさんと話をしよう」
美夏はつまらなさそうに渋々と頷いた。
「じゃね、美夏ちゃんのお父さんは今どこにいるの?」
美夏は首を左右に振ってから『しらない』とゆっくり書いた。
「今まで時々会っていたの?」
美夏はまた首を振って雅彦を見つめた。
いつも美夏は雅彦の身の回りで起こった惨劇の場にいた。それは美夏が父親と会っているからに違いないと雅彦は考えている。しかしそのことをこの可愛らしい少女に尋ねるわけにはいかなかった。
「お父さんは好き?」
そう雅彦が尋ねると、美夏は唇を突き出して雅彦を睨んだ。そしてペンを握ると、ゆっくりと書き出した。
『きらい』
「どうして?」
またゆっくりと書く。
『わたしをころそうとした』
そこでペンを止め、美夏は考え込んだ。そして書き始める。
『おとうさんなんかしんじゃえ』
書き終えて見上げた美夏の目に憎しみが籠っていた。
「そんな風に思っちゃいけないよ、美夏ちゃんにとって」
雅彦の言葉を遮るように、美夏は紙に文字を並べた。
『つまんない』
書き終えると、美夏はペンを放り出して立ち上がった。
「どうしたの?」
急だったので、雅彦は慌てて尋ねた。美夏は無言でドアのところまで歩いていき、靴を履く。
「帰るの? なら送って行くよ」
美夏は雅彦の言葉を無視してドアを開けると、表へ出ていった。
「じゃ、何して遊ぶ?」
美夏は考え込むようにして天井を見つめた。別にこれといってやりたいことがあるわけではないらしい。
「なら、しりとりをしようか」
雅彦の問いかけに美夏は可愛らしく笑って頷いた。その微笑は可愛いと近所で評判だった有希よりもさらにあどけなく純粋に見えた。
「じゃ、おじさんからいくぞ。し、り、と、り」
美夏はぎこちなくペンを動かす。
『りんご』
「ゴリラ」
『らつぱ』
「パイナップル」
『るびい』
「いか」
美夏は真剣な表情でよく考えながら慣れない手つきで文字を書いていく。まだ小学校に上がる前だから間違い無く全てのひらがなを書けるのは立派だ。
しりとりは終わることなく延々と繰り返された。
「まり」
『りんご』
「りんごはさっき書いたよ」
そう雅彦が言うと、美夏は不満そうな表情をし、しばらく考えてから『りんごのかわ』と付け足した。
しりとりで名詞に名詞を付け加えたり、形容詞が付くようになると、一日中やっていても終わらなくなってしまう。雅彦はとぼけて、「ん」の付く言葉を言うことにした。
「わ、か。うーん、ワニ」
わざとらしく考えて「ん」の付く言葉がないか考えてみる。
『にんじんのしつぽ』
「ポ、ポ、ポテトチップス」
いざ考えてみると、なかなか簡単には出てこない。
『すいかのたね』
「ねこじゃらし」
『しかのつの』
「のり」
『りす』
しめた、と雅彦は思った。美夏は慣れない手でゆっくりと文字を書くから、考える時間はある。
「スペイン」
すると美夏は雅彦を見上げて口元に笑みを浮かべた。
「あれ、しまった」
雅彦は大げさに、しくじったという表情を作った。美夏はそれを見て両手をあげて万歳の仕草をした。
「負けちゃった」
雅彦が残念そうに言うと、美夏は人差し指を立てた手を突き出した。もう一度やろうという意味らしい。
「もう遅いから帰らないとみんなが心配するよ」
美夏は顎を突き出して首を振った。小生意気な感じだが、それがまた可愛い。
「それじゃ、おじさんと話をしよう」
美夏はつまらなさそうに渋々と頷いた。
「じゃね、美夏ちゃんのお父さんは今どこにいるの?」
美夏は首を左右に振ってから『しらない』とゆっくり書いた。
「今まで時々会っていたの?」
美夏はまた首を振って雅彦を見つめた。
いつも美夏は雅彦の身の回りで起こった惨劇の場にいた。それは美夏が父親と会っているからに違いないと雅彦は考えている。しかしそのことをこの可愛らしい少女に尋ねるわけにはいかなかった。
「お父さんは好き?」
そう雅彦が尋ねると、美夏は唇を突き出して雅彦を睨んだ。そしてペンを握ると、ゆっくりと書き出した。
『きらい』
「どうして?」
またゆっくりと書く。
『わたしをころそうとした』
そこでペンを止め、美夏は考え込んだ。そして書き始める。
『おとうさんなんかしんじゃえ』
書き終えて見上げた美夏の目に憎しみが籠っていた。
「そんな風に思っちゃいけないよ、美夏ちゃんにとって」
雅彦の言葉を遮るように、美夏は紙に文字を並べた。
『つまんない』
書き終えると、美夏はペンを放り出して立ち上がった。
「どうしたの?」
急だったので、雅彦は慌てて尋ねた。美夏は無言でドアのところまで歩いていき、靴を履く。
「帰るの? なら送って行くよ」
美夏は雅彦の言葉を無視してドアを開けると、表へ出ていった。
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