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グルドフ旅行記・1 ジング王国の少年
ジング王国の少年
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ゲルグ王国の勇者グルドフは、息子が勇者となると同時に勇者を引退した。
グルドフの背丈は成人男性の平均をわずかに下回るくらいだったが、高身長イケメンぞろいの勇者の中では、一番小さいほうに属した。
丸い童顔で、鼻の下にちょび髭を蓄え、知らない人は、彼が剣の達人として名の知れ渡る勇者だったとはとても思えなかった。
グルドフは引退するとすぐに気心の知れた元魔法使いのポポンと共に旅に出た。
アザム王国の町ザジバルで数日を過ごしたのち、グルドフとポポンはマットアン王国の城下町、マットアンを目指した。マットアンには、すでに冒険のほうは引退したが、広大な道場を構え、いまだに多くの門下生を指導している武道家ターロウがいた。
グルドフはターロウに会って、武術について色々と語り合ってみたかった。
マットアン王国はアザム王国から見て、大陸の反対側にある。大陸中央の山脈を越えていくのが、距離にしても時間にしても一番短かった。
グルドフたちはそのルートを選んだ。
数日かけてアザム王国を北に向かい、やがて高原の小国、ジング王国に入った。
「やはり標高の高い所は、くたびれますな」
ゼイゼイと息を付きながら、元魔法使いのポポンが言った。
「のんびりしていると日暮れまでにべレストに着けなくなります」
グルドフはシャキシャキとした足取りで岩山の道を歩いていく。
「まあ、そんなに慌てなさんなって」
ポポンは必死になってグルドフについていった。
「修業が足りませんね」
そう言ってグルドフは足を止めた。
「引退してまで修行をしておるのは、そなたくらいなものだよ」
ポポンも足を止め、近くの岩に腰かけた。
小さな丘を越えると、広大な盆地の中央に、ジング王国の城下町、べレストが見えた。
小高い丘の上に城が建ち、その周りに放射状に街並みが伸びている。町の外周を円く城壁が取り囲み、さらにその周りに畑と牧草地が広がっていた。
グルドフとポポンが町の周囲に巡らされた城壁の近くまで来たとき、何やら人の争う声が聞こえた。大人の声ではない。
グルドフは勇者の性で、急いで声のするほうへ向かかった。
城壁のすぐ下で、何人もの子供が一人の少年に対して細い棒を振り下ろしていた。少年もそれに対抗してむやみに棒を振り回している。
「こらこら、何をしておるか」
グルドフが子供たちに向かいながら声をかけると、皆一斉に手を止めてグルドフを見た。
「早く町に入らないと、魔物が現れるぞ」
グルドフの言葉を聞くと、子供たちは棒を投げ捨てて城門へと駆け出した。
すると、子供たちに棒で叩かれていたのは、少年だけではないことがわかった。
傷だらけでしゃがみこんでいた少女が立ち上がると、くりくりした目で睨むようにグルドフを見て、ペコリと頭を下げた。そして傷だらけの少年にもぺこりと頭を下げると、何も言わずに城門へと駆けていった。
「いったいどうしたんだね?」
グルドフは少年に問いかけた。
「あの子がいじめられていたから、助けてあげたんだ」
少年は答えた。
「女の子とは知り合いかね?」
「知らない」
少年はそう答えると、少女がしたようにぺこりと頭を下げ、城門へと走った。
その時、ゴーンと銅鑼の音が響いた。
「や、まずい」
グルドフも慌てて駆け出した。
銅鑼の音は、もうすぐ城門が閉まるという合図だった。
太陽はほとんどその姿を、地平線の向こうに隠してしまっている。
グルドフの背丈は成人男性の平均をわずかに下回るくらいだったが、高身長イケメンぞろいの勇者の中では、一番小さいほうに属した。
丸い童顔で、鼻の下にちょび髭を蓄え、知らない人は、彼が剣の達人として名の知れ渡る勇者だったとはとても思えなかった。
グルドフは引退するとすぐに気心の知れた元魔法使いのポポンと共に旅に出た。
アザム王国の町ザジバルで数日を過ごしたのち、グルドフとポポンはマットアン王国の城下町、マットアンを目指した。マットアンには、すでに冒険のほうは引退したが、広大な道場を構え、いまだに多くの門下生を指導している武道家ターロウがいた。
グルドフはターロウに会って、武術について色々と語り合ってみたかった。
マットアン王国はアザム王国から見て、大陸の反対側にある。大陸中央の山脈を越えていくのが、距離にしても時間にしても一番短かった。
グルドフたちはそのルートを選んだ。
数日かけてアザム王国を北に向かい、やがて高原の小国、ジング王国に入った。
「やはり標高の高い所は、くたびれますな」
ゼイゼイと息を付きながら、元魔法使いのポポンが言った。
「のんびりしていると日暮れまでにべレストに着けなくなります」
グルドフはシャキシャキとした足取りで岩山の道を歩いていく。
「まあ、そんなに慌てなさんなって」
ポポンは必死になってグルドフについていった。
「修業が足りませんね」
そう言ってグルドフは足を止めた。
「引退してまで修行をしておるのは、そなたくらいなものだよ」
ポポンも足を止め、近くの岩に腰かけた。
小さな丘を越えると、広大な盆地の中央に、ジング王国の城下町、べレストが見えた。
小高い丘の上に城が建ち、その周りに放射状に街並みが伸びている。町の外周を円く城壁が取り囲み、さらにその周りに畑と牧草地が広がっていた。
グルドフとポポンが町の周囲に巡らされた城壁の近くまで来たとき、何やら人の争う声が聞こえた。大人の声ではない。
グルドフは勇者の性で、急いで声のするほうへ向かかった。
城壁のすぐ下で、何人もの子供が一人の少年に対して細い棒を振り下ろしていた。少年もそれに対抗してむやみに棒を振り回している。
「こらこら、何をしておるか」
グルドフが子供たちに向かいながら声をかけると、皆一斉に手を止めてグルドフを見た。
「早く町に入らないと、魔物が現れるぞ」
グルドフの言葉を聞くと、子供たちは棒を投げ捨てて城門へと駆け出した。
すると、子供たちに棒で叩かれていたのは、少年だけではないことがわかった。
傷だらけでしゃがみこんでいた少女が立ち上がると、くりくりした目で睨むようにグルドフを見て、ペコリと頭を下げた。そして傷だらけの少年にもぺこりと頭を下げると、何も言わずに城門へと駆けていった。
「いったいどうしたんだね?」
グルドフは少年に問いかけた。
「あの子がいじめられていたから、助けてあげたんだ」
少年は答えた。
「女の子とは知り合いかね?」
「知らない」
少年はそう答えると、少女がしたようにぺこりと頭を下げ、城門へと走った。
その時、ゴーンと銅鑼の音が響いた。
「や、まずい」
グルドフも慌てて駆け出した。
銅鑼の音は、もうすぐ城門が閉まるという合図だった。
太陽はほとんどその姿を、地平線の向こうに隠してしまっている。
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