グルドフ旅行記

原口源太郎

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グルドフ旅行記・5 オオカミ親分の憂鬱

やがてオオカミ親分は

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 旅人の通る街道はオオカミ親分たちが受け持つことになった。街道より西の山脈を巡回する役目をキング・ナイト一味が担い、東側をひとつ目一家が担うことになった。
 広く高く険しい山脈には、まだたくさんの魔物たちの集団がいたが、巨大派閥だったオオカミ一家、キング一味、ひとつ目一家が協力したとなれば、他の魔物たちはその傘下に入らないわけにはいかなかった。その山脈から逃げ出す魔物を引き止めはしなかったが、オオカミ親分の子分となってその地に残る魔物がほとんどだった。
 キングとひとつ目親分の子分たちは山脈を巡回し、一匹狼ならぬ一匹魔物を見つけるたびに、仲間になるか山を出ていくかを迫った。
 そうしてオオカミ親分率いるオオカミ一家は、魔物世界では類を見ないほどの巨大組織となった。
 やがてオオカミ親分は、どこかにいるかもしれないといわれている魔王や、どこかの島で暮らしているらしいという幻の竜王と並ぶ伝説の魔物として、魔物たちに広く知られるようになった。
 だが、オオカミ親分はそんなことは少しも知らなかった。
 元々、自分の権力を巨大なものとしてその名を世界に知らしめたいとか、縄張りを広くしてやがて世界を我が手にしたいとか、そんな野心などこれっぽっちも持ち合わせていない親分だった。
 ただただ、ちょび髭の勇者が怖いからおこなってきただけのことだ。
(親分、見直しましたぜ)
 いつもの洞窟の奥で、ドラ吉がオオカミ親分に言った。
(何が?)
(あの力自慢で、皆から恐れられていたひとつ目を、チョチョイとやっつけちまったんだから。親分ならあの勇者にだって勝てるんじゃねえっすか?)
(馬鹿言え。俺も自分が強えことは知っていたさ。あの勇者を見るまではな。俺はもう何があろうと死ぬまであの勇者には逆らわねえ。おめえだってそうだろ? 勝ち目のねえ戦いなんてしても無駄だ。・・・・ああ。二度とあいつの顔は見たくねえ)
 オオカミ親分はしみじみと言った。
 腕っぷしは強いが、心はそれほど強くないオオカミ親分だった。


 グルドフ旅行記第5話 終わり
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