グルドフ旅行記

原口源太郎

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グルドフ旅行記・6 年老いた武道家

マットアン王国のお姫様

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「ここのお姫様って、そんなにすごいのかね?」
「そのようですな。王様が自ら、じゃじゃ馬なんて言っているくらいですから」
「冒険好きなお姫様だって言っていたね」
「グルドフ殿も気をつけたほうがいいですぞ。ここの姫様に捉まったら、一日中でも冒険の話を聞かせてやらなければなりますまい」
 グルドフとポポンの話を聞きつけたマドゥの城主ルクが言った。
 王様との話が終わり、ルク以下マドゥから来た者たちは、王様に謁見した部屋から下がるところだった。
 王様は最後にもう一度、グルドフとポポンにポイの町でのことの礼を言い、自らの手で謝礼を渡した。
 グルドフはいつものように辞退しようとしたが、王様が直接手渡してくれるというものを辞退するわけにはいかなかったので、ありがたく頂戴した。
「じゃじゃ馬で冒険好きなお姫様ですか」
 グルドフにはどうにも想像ができなかった。
「見た目は美しく、おしとやかで清楚に見えるのだが、幼い時から冒険にあこがれ、剣を振り回し、魔法の真似事が好きだったのだよ。勇者が冒険を終えて王様に報告に来るときは、必ず姫様も同席して勇者の話を聞くということは、この国では有名な話だの」
「そうですか」
「だから、・・・・王子が宿屋の娘と婚約すると聞いた時は驚いたが、姫様が結婚する気になったと聞いて、もっと驚いたの。時には勇者と冒険に出かけたいと駄々をこねたこともある姫様が・・・・」
「凄いお姫様ですな」
 グルドフが言った。
「ところでグルドフ殿。もう一つだけ頼まれてはくれまいかの」
「何をでありますか?」
「レイのところへ行って、今の王様の話を伝えてほしい。家来も一緒に行かせるが、できるならグルドフ殿の口から話してほしい。駄目かね?」
「いえ、駄目ではありま・・・・せんが」
 グルドフは少し考え込んだ。
「グルドフ殿?」
「レイ殿と妻君のカレンさんのことを、城主様は何のこだわりもなく迎え入れるとお伝えしてもよろしいのですか?」
「もちろん」
「イナハ殿はどのようにするおつもりで?」
「レイたちが望むなら、城で一緒に暮らしてもよいし、元の家に帰ってもよい」
「わかりました。ポイに行ってきましょう」
 グルドフの顔から笑みが消えていた。

「ポポン殿はどうしますか? マットアンに残ったほうが楽かと思いますが」
「もちろん、わしもポイに行くよ」
「またお馬さんですよ」
「うむ」
 グルドフとポポンは、ポイに向け旅立つ用意をしていた。
 マドゥ城の役人、オリベとキシニ、それに警護の者数名と共にポイにいるレイのところに行くことになっている。
 オリベとキシニは、マドゥと地方の町や村の連絡係のような役目を担った役人で、馬に乗ってあるくことを主な仕事としていた。時には手紙や荷物も運ぶ。今回運ばれるのはグルドフとポポンだ。
「しかし何でまた、ポイに行く気になったのだね? いくら城主様から言われたって、レイ殿に話をしに行くだけなら、役人でも十分だと思うのだがね」
「少々気になることがありまして」
 グルドフはポポンの問いかけに答えた。
「グルドフ様、ポポン様、失礼いたします」
 その時、そう言って一人の男が二人の前に現れた。
「どなた様で?」
 グルドフが尋ねた。
「マットアン城で王様の秘書官を務めているマッケンと申します。王様が先ほど言い忘れたことがあったとのことで、そのことを伝えに参りました。この度のマドゥ様の御用事がお済になりましたら、早速に王様のもとにお越しいただきたいとのことであります」
「何かありますのかな?」
「多分グルドフ様たちにお頼みしたいことがあるのだと思います」
 グルドフとポポンは顔を見合わせた。
「わかりました。王様の頼みとあれば、お断りできません。ただ、私もマットアンに用事がありますので、一日だけそのことに使わせていただき、その後王様のところに参りましょう」
「よろしくお願いします」
 王様からの使者は深々と頭を下げて、グルドフたちの前から去った。
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