グルドフ旅行記

原口源太郎

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グルドフ旅行記・8  魔物の潜む町

パクンは力持ち

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「先ほども言いましたように、このままでもよろしいかと思います」
「うーん」
 町長は考え始めた。
「パクンは力持ちとのことなので、仕事をさせてみたらいかがですかな? こそこそと隠れて暮らすより、もっとオープンにして人間と交わって暮らせることもできるでしょう」
「まあ、体は大人でも、頭は子供ですが」
 アレクサンダーが言った。
「パクンはどう思う? この人たちと一緒にいられると思うかい?」
 パクンは恐る恐る周りの人々の顔を見まわした。
「チョットコワイケド、ガンバルダガヤ」
「ちょっと怖いけど」
「通訳は結構。町長さん、あとは町長さんはじめ、町の人たちの判断でありますな」
「皆さんはどう思いますか?」
 町長は周りの人に尋ねた。
「パクンの見た目は恐ろしいですが、性格的には大人しそうですし、このまま町で暮らしてもよいのではないですか?」
「いや、いつ魔物の本性が現れるかわかりませんぞ」
「この大人しい魔物を町の外に放り出して他の魔物と交わらせたら、どのような恐ろしい性格に変わってしまうかわかりません。アレクサンダーさんと一緒に生活させるのがよろしいのではありませんか?」
「こいつが子供だったということは親がいるわけだろ? その親が我が子を取り戻しにやって来るのじゃねえか?」
 等々、色々な意見が出た。
「それでは、しばらくこのまま様子を見ることにしましょう。グルドフ様が言うように、この魔物は危険ではないようです。ただ、もし何か問題が起きた場合はアレクサンダーさんに責任をもって対応してもらうということでいいですか?」
「この子と一緒に暮らしていいというのなら、私は何でも・・・・」
 アレクサンダーは目に涙を浮かべていた。
「グルドフ様、そういうことでよろしいですか?」
 町長はグルドフに尋ねた。
「うむ。よろしいでしょう。ただ、ここにお集まりの皆さんに気をつけてほしいことがあります。パクンは頭の働きが幼い子供と同じくらいということです。子供でも、自分や自分の大切なものをからかわれたり、けなされたりすれば怒ります。そしてパクンは人一倍力持ちなのです。そのことをお忘れになりませんよう。また、パクンたちにも言っておかなければならないことがあります。人間の中には、親族や愛する者を魔物に殺されたり、傷つけられたりした者がたくさんいます。そのような人たちは魔物のパクンに対しても決して良い態度は取らないでしょう。人間の社会で暮らすということはそのようなことだと理解し、覚悟して生きていかなければなりません」
「はい。そのようなことはパクンにも教育していきたいと思います」
 アレクサンダーが言った。
「パクン、これからはこそこそとせずに、お父さんの言うことをよく聞いて、胸を張って堂々と生きていきなさい」
「ハーイ」
 パクンがその姿に似ず、子供じみた声で返事をした。
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