グルドフ旅行記

原口源太郎

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グルドフ旅行記・9 偽物グルドフ

道場破りの男・2

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「失礼しました。私はグルドフ」
「クルドフ? わしと同じ名前であるか」
「いえ、私はグルドフ」
「同じではないか」
「私は、グ、ル、ド、フ、です」
「グルドフ? 高名な勇者と同じ名前ではないか」
「はい、私がその勇者だったグルドフです」
「何と。おぬしが? まことか?」
「はい」
「では丁度良かった。わしと手合わせ願いたい」
「いいですよ」
「一本勝負で、わしが勝ったら金をくれ」
「しかしここはイワン殿の道場です。他人の道場でそのような勝手な振る舞いをするわけにはいきますまい」
「道場主はわしのほうが強いと認めておる。おぬしは道場主の代わりだ」
 グルドフはイワンを見た。
「どうぞ、お好きなようにしてください。私たちにとっても、これは勉強になります」
「それでは。私が負けた場合のことは聞きましたが、私が勝ったらどうしますかな?」
「わしは負けたことがない。だが、もし負けるようなことがあれば、おぬしに仕えて、どんな仕事でもしてやろう」
「私にはそんな必要はありませんな」
「ならば、ここの道場の師範代となって、弟子の指導をしてやろう」
「私も、このような小さな道場でありますし、師範代は必要ありませぬ」
 イワンが言った。
「何? このわしが指導をしてやると申しておるのだぞ」
「必要ありませぬ」
「ぬぬぬ。おい、おぬしら、世界最強のわしに剣術を教わりたいと思わないか?」
 クルドフは壁際に並ぶイワンの弟子たちに尋ねた。
 弟子たちはぶるぶると顔を左右に振った。
「何? 嫌か?」
「イワン先生のほうがいいです」
 一人の弟子が勇気を出して言った。
「私も」
「私も」
 何人かの弟子が従った。
「ぬぬぬぬ」
 クルドフは悔しそうな顔をした。
「まあ、負けたら、私の言うことを聞きなされ」
 グルドフがにこやかに言った。
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