グルドフ旅行記

原口源太郎

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グルドフ旅行記・9 偽物グルドフ

負けたら言うことを聞く・1

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「負けたら私の言うことを聞くはずでしたな」
「武道家としての言葉に二言はない」
「では。・・・・その前にそなたのことについて知りたい。少し話をしてもよろしいですかな?」
「よろしいであるが」
「イワン殿、話ができる部屋はありますかな?」
「はい。どうぞこちらへ」
「イワン殿もご一緒に」
「はい。型の稽古をしていなさい」
 イワンはグルドフに返事をしたあと、弟子たちに命じた。
 ポポンを含めた四人は、小さなテーブルのある部屋に行き、椅子に座った。
 イワンはお茶を入れるために部屋を出ていった。
「そなたはこれから、どうするおつもりかな?」
 グルドフは急に元気のなくなったクルドフに尋ねた。
「わしは世界で一番強いと思っておったが、そうではなかった。うぬぼれておった。田舎に帰って百姓でもやろうと思う」
「そなたは剣術を誰かに教わったのですかな?」
「いや、独学で。・・・・子供の頃のわしは、今でもそうだが、舌の回りが悪く、よくいじめられたので、身を守るために剣術の真似事を始め、すっかりのめり込んでしまった。毎日毎日棒切れを振るのが楽しくて、一日中振り回しておった。その頃は皆わしのことを変わり者呼ばわりしたが、誰もわしにかかってこようとはしなかった。十五の時に村を出て以来、剣術修行をして諸国を巡り歩いておる」
「収入はどうしているのですかな?」
「収入はない。それでも何とか生きておる」
「そなたはもしかして、耳も悪いのでは?」
「ん? 若いときは打ち合いの稽古であちこち打たれた。耳の近くを打たれた時には一時聞こえなくなった。今は聞こえるようになったが、少し聞こえが悪いのかもしれない」
「それでだね」
 話を聞いていたポポンが言った。
「何が?」
 怪訝そうな表情でクルドフがポポンを見た。
「そなたは昨日、無銭飲食をしましたな?」
 グルドフがクルドフに尋ねた。
「無銭飲食だと? うっ、そ、そのようなことは・・・・。少々支払いを待ってもらっておる」
「支払いができる予定はあるのですかな?」
「そ、それは、まあ、何とかして・・・・」
「そういうのを無銭飲食というのではないですかな?」
「いや、払う意思はある。決して踏み倒そうというつもりではない・・・・」
「まあ、そのことはいいでしょう。そなたのしたはずのことが、私がしたことになっておりますぞ。これは困ったことですな」
「おぬしも無銭飲食を? 高名な勇者だったおぬしが?」
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