殺し屋たちのレクイエム

原口源太郎

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 拳銃を構える屈強な男たちの後ろから、小柄なスーツ姿の男が現れた。
「君は荒木君かね? それとも鈴木君かね?」
 アキラはその問いに答えず、黙って男を見つめた。
「まあいい。すぐに吐かせてやる」
 小柄な男が合図すると、二人の男が進み出てアキラの両腕を取った。
「おまえは痛めつけ甲斐がありそうだ」
 男はいやらしい笑みを浮かべてアキラの顔を見た。

 そこは普通の事務所といった感じの部屋だった。事務机が並び、机の上にはパソコンが置かれている。部屋の壁際には書類棚と複合機。
 アキラは事務机の前で両手両足を縛られ、椅子に座って項垂れていた。顔には赤黒いあざを作り、口から血を流している。
「大した銃だな。君らの組織は密輸に関してもいいルートを持っていたようだ」
 アキラの拳銃を弄ぶ小柄の男が言った。男の背後にたくましい体つきの男が三人控えている。
「君たちが我々の組織のことを探っているのは知っていたよ。そろそろ来ることだと思っていた。君たちだけは見逃してやろうと思っていたのが仇になってしまったようだ」
 そう言ってアキラのすぐ近くに顔を近づける。
「仲間はどこにいる?」
「知らん」
 アキラは即答した。
「知らないわけがない」
 そう言うと男はアキラの顔の前で拳を固める。これから殴るぞという合図だ。
 そして身を低くするとアキラの腹に拳を打ち込んだ。
 アキラは椅子から放り出されて床に転がる。椅子が床に倒れる大きな音がオフィスの中に響いた。
 恍惚の表情を浮かべた男がアキラを見下ろす。
「君を廃人にしたくはないんだが、そういつまでも待っていられるほど気が長くないんでね。明日からは薬を使わせてもらうよ。それまでに気が変わるのを期待している」
 男がそう言い、部屋を出ていった。三人の男も後に従う。
 アキラは手足を縛られたまま、床の上で苦痛にうめき声をあげた。
 ドアが開き、二人の人間が部屋に入ってきた。似た顔の少年と少女だった。アキラよりも幼い顔立ちをしている。
 少年が拳銃をアキラに向け、少女が手と足を縛る紐をほどいた。
 二人は双子のトモとユウだった。
「僕たちを甘く見ないでください。あなたと同じように幼いころから訓練を積んできたんですから」
 アキラはよろよろと立ち上がった。
「行きましょう」
 少女のユウが先頭を行き、アキラがその後に続いく。トモはアキラの背中に銃口を向けたまま歩いた。

 朝の光がカーテンを通して狭い部屋の中にやってくる。
 アキラは簡易ベッドの上で目を覚ました。腫れる顔を手で確認しながら起き上がると、部屋の中を注意深く見て回った。ドアにはカギがかけられている。
 ドアの外に人の気配がして、アキラはベッドに腰かけた。
 ドアが開き、食事の乗った盆を持ったユウが部屋に入ってきた。ドアを開けたのはトモだ。昨日と同じように銃口をアキラに向けたままでいる。
「しばらくの間、僕たちがあなたの監視をします」
 トモが言った。
「わかったよ。よろしく」
「これ。インスタントコーヒーとコンビニのサンドイッチだけど」
 ユウがそう言いながら机に盆を置いた。
「食事の前にトイレに行きますか?」
 トモが尋ねた。
「いや、まだいい」
「もしトイレに行くか、他に用があるのなら、そこの監視カメラに言ってください。必ず誰かが見ていますし、音声も拾えますから」
「わかった」
 トモとユウは部屋を出ていった。
 アキラはコーヒーを一口すすった。
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