いえ、僕は別にそんなつもりじゃ

原口源太郎

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「どうぞ」
 渚に隣に座るように促されて、将太は渚から一メートルくらい間を開けてソファに腰を下ろした。
「そんなに離れて、何照れてんのよ。もっと近くに座って」
 リカに言われ、五十センチくらい近くに移動する。
「それじゃ、頑張ってね」
 そう言ってリカも去って行った。
 渚が将太を見てにっこりと微笑む。
「どうも」
 将太は渚に頭を下げる。
「渚です。よろしくネ」
「原口、じゃなくてさくらです。よろしくネ」
 将太も渚の口ぶりをまねして言う。声は確かに男っぽい。だけど色白であまり化粧気もなく、男とは思えない。
「さくらさんは、大学生だって聞いたのだけど」
「うん。そう」
「じゃ、私より年上なんだ」
「渚さんはいくつ?」
「十六。もうじき十七だけど」
「え? そんな歳でこんな所で働いていいの?」
「ここじゃ十九歳ってことになってる」
「何でこんな所に?」
「ここはいい所だよ。楽しいし。みんないい人ばかりだし」
「でも、学校は?」
「お休み。無期限にお休み中。もう籍ないかも」
 あまり感情を込めすに淡々と話す渚に、将太は何となく怒りを覚えた。
「学校だけはできるだけ行った方がいいと思うよ」
「いいんだ、あんな所。つまんないし」
「じゃ、渚さんはずっとこんな所にいるつもり?」
「わかんない」
「美少年同士、もう仲良くなっちゃって。でも、さくらちゃん、渚ちゃんにちょっかい出しちゃダメよ。渚ちゃんのバックには怖い人たちがいるんだから」
 遠くの席からリカが二人を見て言った。
「何だ、渚さんは反社会の人達とも繋がりがあるのか?」
 渚はその言葉に黙って俯いてしまう。
「ダメだってば、渚ちゃんをいじめちゃ」
「いじめてなんかいません」
「仲良くしてやってね」
 将太もがっくりとしたように俯く。

 客が来はじめて、渚と将太は二人の客の席に付く。
「こんばんわ。ご指名していただいてありがとうございます」
 渚が挨拶をして客の隣に座る。
「新人のさくらです。よろしくお願いします」
 将太も高い崖の上から飛び降りる気持ちで中年の客の横に座る。
「この子、今日からだから、優しくしてやってくださいね」
 渚がにっこりと微笑みながら言い、飲み物を作る。
「ふーん」
 ぎこちない将太の様子を客たちはじろじろと眺める。
「さ、どうぞ」
 渚が客たちの前に飲み物を置く。
「そうだ、渚ちゃんとさくらちゃんにも飲み物を」
 客が言った。

 客たちの酔いが回ってきて、渚にべたべた触り始める。
「ヤダー、お客さんったら」
 渚、気にする風でもなくやんわりと客の手を払い除けたりしている。
 将太はそんな渚を見ていてムカムカしてきた。自分の太腿の上に置かれたもう一人の客の手が微妙に動きまわっているのを我慢しているのでなおさらだった。
 これが十六のガキのすることか? 客が客なら渚も渚だ。
 そんな歳でこんな世界に入ってこれからどうするつもりなのだろう?
 これ以上変な事をするようなら、どちらかの客をぶっ飛ばしてやりたい感情を抑えるのに精一杯になってきた。
 渚はそのうちにしくしくと泣き出した。やっぱり我慢していたのだ。
「どうしたの?」
 渚を触っていた客が優しく言った。それでも触るのを止めない。
「やめろ! 変態野郎!」
 将太は立ち上がると渚と客の間に割って入った。
「お前やり過ぎだ!」
 そう言うと客の頭をポカリと殴りつけた。
 その時、店のドアが開いてガラの悪そうな男たちが姿を見せた。
 将太はそれに気付かずに渚の方を振り返る。
「お前もお前だ! それでも男か! めそめそ泣く前にやることがあるだろ!」
 そう言って渚の頬をパチンと叩く。
「もっとシャキッとしろ!」
「おい!」
 店の入り口に立ってそれを見ていた男たちが叫ぶ。
「この野郎! 何しやがる!」
 男たちが将太のほうへ駆けてくる。
 将太はやっと柄の悪い男たちに気が付き、びっくりして店の中を逃げ回る。スカートの裾を両手で持ち、ソファに飛び乗り、テーブルを飛び越える。おネエを避け、男たちの手をかいくぐり店の外に飛び出る。
「おい! 待たんかい!」
 店の入り口近くに立っていた親分らしい男が、どすの利いた声で叫ぶ。
 将太はびびって思わず足が止まりそうになるが、そのまま通りを疾走する。
 店から出てきた男たちが将太を追って走り出す。
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