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荷物はすぐに部屋を出ていけるよう準備してあった。
勇治はアパートに戻ると大家に最後の挨拶をするために出かけた。出かけると言ってもアパートのすぐ隣の一軒家である。独身の息子と二人で暮らしている人の良い老人が大家であった。体の弱いふりをしていた勇治を心の底から不憫に思い、内職の世話をしてくれたりと、何かと気を掛けてくれた。勇治としては出かける前にきちんと挨拶をしておきたかった。
老人は勇治に何か特別なものを感じていたのか、アパートを離れるのを残念に思っているようであった。老人が話をしたいようでいるのはわかったし、勇治も話しをしたいと思ったが、素っ気ない二言三言の言葉を交わしただけであった。
大家の家を出たとき、勇治はハッとなって動きを止めた。アパート横の路地に見慣れない車が停まっている。少し型の古い大型の外車。川口が戻ってきたにしては早すぎる。
車はピカピカに磨き上げられている。余程の車好きか、見た目を気にする者が乗ってきたに違いない。大体の見当はつく。
勇治は素早く辺りを警戒し、アパートの二階へと走った。
自分の部屋の前まで来たとき、急にドアが開き由紀が飛び出してきた。
「待てこら!」
由紀に続いて紫のスーツを着た男が出てきて勇治と鉢合わせした。
「おっ」
男が声を出すのと勇治が動くのと同時であった。
勇治の体当たりをまともに食らい、紫の背広の男は無様に後ろに倒れ込む。
勇治が部屋の中に入ると、上り口にもう一人いた。そいつは白い背広を羽織っている。
「てめえ!」
男が叫ぶ。
勇治は走り、男の脇をすり抜けた。
「逃げられんぜよ!」
白い背広の男が叫ぶ。
勇治は居間に入ったすぐのところに立てかけてあった日本刀を掴む。
「大人しくしろ!」
勇治の背後でカチリという拳銃の撃鉄を起こす音がした。
勇治は屈み込み、振り向きざまに刀を抜き下から振り上げた。
「うおおお」
男の膝から太腿にかけてぱっくりと割れ、白いズボンが見る見る赤く染まる。
「うう、てめー」
白服の男は苦痛に顔を歪めながらも勇治に拳銃を向けようとした。
その手首を刀の棟で打つ。
骨の折れる鈍い音がして、拳銃が飛ばされた。
「うぎぎゃー」
今度は大声をあげ、男が床を転げまわる。
勇治は部屋の外に出た。
ポシュン!
くすんだ音が聞こえると同時に勇治の足元で銃弾が跳ねた。
勇治は走った。その先で紫の服の男が由紀を捕まえていた。
勇治に向けていた拳銃を由紀に向け、何か叫ぼうとする。
だが、口を開きかけた時に、勇治の刀が一瞬の閃光となって振り下ろされていた。はずみで由紀に向けられていた拳銃から銃弾が発射され 廊下に面した窓ガラスに丸い穴を開けた。
鮮血が飛び散る。
肘から切り落とされた腕が、拳銃を掴んだままゴトリと床に落ちた。
「う、うううう」
紫の服の男は腰が抜け、その場にへたり込む。腕からは血が激しく流れ出している。
勇治はその男のポケットをまさぐった。
車のキイを取り出すと由紀の手を引いて部屋に戻る。
「支度しろ」
短く命令する。
部屋では白い服をほとんど赤く染めた男が血の海の中でのたうち回っていた。
「た、助けてくれ」
勇治はその言葉を無視し、刀の血をぬぐい、鞘に納めた。台の下に仕舞ってあった拳銃をバッグに放り込む。部屋の外では由紀が大きなバッグを一つ持って待っていた。
勇治は右手にバッグ、左手に日本刀を持って廊下を走った。由紀が後に続く。アパートの部屋からは何事かと住人たちが顔を出し、腕のない男を見て驚いている。
駐車場にも騒ぎを聞きつけて人が集まりだしていた。その中には年老いた大家の姿もあった。
勇治は刺客が乗ってきた車に荷物を放り込むと運転席に乗り込んだ。由紀が助手席に乗り、ドアを閉めると車を発進させる。
誰が呼んだのか、遠くからサイレンの音が響いてきた。
勇治はアパートに戻ると大家に最後の挨拶をするために出かけた。出かけると言ってもアパートのすぐ隣の一軒家である。独身の息子と二人で暮らしている人の良い老人が大家であった。体の弱いふりをしていた勇治を心の底から不憫に思い、内職の世話をしてくれたりと、何かと気を掛けてくれた。勇治としては出かける前にきちんと挨拶をしておきたかった。
老人は勇治に何か特別なものを感じていたのか、アパートを離れるのを残念に思っているようであった。老人が話をしたいようでいるのはわかったし、勇治も話しをしたいと思ったが、素っ気ない二言三言の言葉を交わしただけであった。
大家の家を出たとき、勇治はハッとなって動きを止めた。アパート横の路地に見慣れない車が停まっている。少し型の古い大型の外車。川口が戻ってきたにしては早すぎる。
車はピカピカに磨き上げられている。余程の車好きか、見た目を気にする者が乗ってきたに違いない。大体の見当はつく。
勇治は素早く辺りを警戒し、アパートの二階へと走った。
自分の部屋の前まで来たとき、急にドアが開き由紀が飛び出してきた。
「待てこら!」
由紀に続いて紫のスーツを着た男が出てきて勇治と鉢合わせした。
「おっ」
男が声を出すのと勇治が動くのと同時であった。
勇治の体当たりをまともに食らい、紫の背広の男は無様に後ろに倒れ込む。
勇治が部屋の中に入ると、上り口にもう一人いた。そいつは白い背広を羽織っている。
「てめえ!」
男が叫ぶ。
勇治は走り、男の脇をすり抜けた。
「逃げられんぜよ!」
白い背広の男が叫ぶ。
勇治は居間に入ったすぐのところに立てかけてあった日本刀を掴む。
「大人しくしろ!」
勇治の背後でカチリという拳銃の撃鉄を起こす音がした。
勇治は屈み込み、振り向きざまに刀を抜き下から振り上げた。
「うおおお」
男の膝から太腿にかけてぱっくりと割れ、白いズボンが見る見る赤く染まる。
「うう、てめー」
白服の男は苦痛に顔を歪めながらも勇治に拳銃を向けようとした。
その手首を刀の棟で打つ。
骨の折れる鈍い音がして、拳銃が飛ばされた。
「うぎぎゃー」
今度は大声をあげ、男が床を転げまわる。
勇治は部屋の外に出た。
ポシュン!
くすんだ音が聞こえると同時に勇治の足元で銃弾が跳ねた。
勇治は走った。その先で紫の服の男が由紀を捕まえていた。
勇治に向けていた拳銃を由紀に向け、何か叫ぼうとする。
だが、口を開きかけた時に、勇治の刀が一瞬の閃光となって振り下ろされていた。はずみで由紀に向けられていた拳銃から銃弾が発射され 廊下に面した窓ガラスに丸い穴を開けた。
鮮血が飛び散る。
肘から切り落とされた腕が、拳銃を掴んだままゴトリと床に落ちた。
「う、うううう」
紫の服の男は腰が抜け、その場にへたり込む。腕からは血が激しく流れ出している。
勇治はその男のポケットをまさぐった。
車のキイを取り出すと由紀の手を引いて部屋に戻る。
「支度しろ」
短く命令する。
部屋では白い服をほとんど赤く染めた男が血の海の中でのたうち回っていた。
「た、助けてくれ」
勇治はその言葉を無視し、刀の血をぬぐい、鞘に納めた。台の下に仕舞ってあった拳銃をバッグに放り込む。部屋の外では由紀が大きなバッグを一つ持って待っていた。
勇治は右手にバッグ、左手に日本刀を持って廊下を走った。由紀が後に続く。アパートの部屋からは何事かと住人たちが顔を出し、腕のない男を見て驚いている。
駐車場にも騒ぎを聞きつけて人が集まりだしていた。その中には年老いた大家の姿もあった。
勇治は刺客が乗ってきた車に荷物を放り込むと運転席に乗り込んだ。由紀が助手席に乗り、ドアを閉めると車を発進させる。
誰が呼んだのか、遠くからサイレンの音が響いてきた。
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