おめでとう

原口源太郎

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 俺は時々振り返ってみては、追手を確認した。まだ姿は見えない。だけどすぐそこまで迫ってきているかもしれない。
 体の底から恐怖が湧き上がってくるのを感じた。自分の吐く荒い息がそう思わせているのかもしれない。奴らに捕まったら、どんな目にあわされるのか。それがどんなことかわからない。ただひとつわかっているのは、それが決して楽しいことじゃないってことだ。
 やっと森の向こうに明るい光が見えた。森は終わり、太陽の光をいっぱいに浴びる草原が広がっているのだろう。そしてさらにその先にあるのは、俺の目指す安住の地。
 俺は疲れた足に鞭打ち、あと少しで森を抜けられるという思いを抱いて走った。
 今度もまたピンチを切り抜けた。今回は今まで生きてきた中で最大のピンチのひとつと言っていい。俺はまた勲章を一つ手に入れたわけだ。
 森の太い木々の向こうに、眩く輝く草原が見えた。草の丈は低く、寝転がっても気持ちよさそうな草原だった。
 あと少しで森を抜けるというところで、地上に出ていた太い木の根につまずいて転んだ。その拍子に足を挫いてしまった。
 立ち上がってみると、激しい痛みがあり左足に体重を乗せることができないとわかった。
 これはまずい。
 俺は後ろを振り返ってみた。まだ追手の姿は見えない。
 痛む左足にできるだけ負担を掛けないように足を引きずりながら先を急いだ。緑色に輝く草原まであと少しだ。草原に出てしまえば、あいつらは追ってこない。これまたなぜだかよくわからないけれど、そんな確信めいたものがあった。
 あと数メートル。
 やった。これで俺はまた勝ったのだ。再び訪れたピンチも切り抜けた。
 最後にもう一度後ろを見た。よく目を凝らして木々の隙間を伺ったが、追手らしい姿は見えなかった。
 俺は勝利を確信して前を向いた。
 目の前に恐ろしい顔があった。

 俺は気を失っていた。恐怖と驚きで気を失ったのか、それとも追手に殴られでもしたのか。どちらだとしても、俺にとってはさほど問題ではなかった。
 目が覚めることができたということは生きているということだ。ただ、目覚めたというのに、辺りは真っ暗で、何も見えなかった。夜なのだろうか。何かが燃えるような匂いがする。
 俺は起き上がろうとしたが、体を動かすことはできなかった。
 不意に明かりが灯り、俺は反射的に目を閉じた。
 ぞろぞろと人が近寄ってくる気配がする。
 ゆっくりと目を開けて明かりに目を慣らす。
 俺を追ってきたのと似た、痩せこけた男たちがいた。頭に角のようなものが見える。
「ようこそ、我が世界へ。おめでとう」
 最後に現れた閻魔大王が厳かに言った。


                        終わり
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